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BL短編+漫画|「ちゃんとこっちを見て」


久しぶりに会えた夜の、少し意地っ張りな恋の話。
付き合っている二人の、静かな夜の短編です。



窓の外はすっかり暗くなっていた。
テーブルの上には、開けかけのワインと、ほとんど手のついていない惣菜の皿が並んでいる。

隣で肩を揺らして笑っている男を見て、俺はグラスを持つ手に少しだけ力を込めた。
昔の俺なら、たぶんもっと露骨に機嫌を悪くしていたと思う。けれど、それなりに大人になった今は、その苛立ちを飲み込むくらいのことはできる。

もっとも、こいつ相手だと、その努力はだいたい報われないのだけれど。

「そんなに怒る?」

ようやく笑いをおさめたらしい斉藤が、ソファの背にもたれながらこちらを見る。
その顔があまりにも楽しそうで、余計に腹が立った。

「怒るだろ、普通」
「でも、あんなに必死に頼み込むとは思わなかった」
「……うるさい」

また思い出しているのか、斉藤はくっと喉の奥で笑った。
昼間のことだ。人前で頭を下げる羽目になった俺を、こいつはずっと面白がっている。

最悪だ。

「先に言ってくれればよかったんだ。あの話」
「言ったら、あんなにいい顔見れなかったから」
「性格悪いな」
「今さら?」

軽く返されて、俺は言い返す気もなくなった。
悔しくて、手にしていたグラスをテーブルに置く。少しだけ乱暴な音がして、それでも斉藤は気にした様子もなかった。

こういうところがずるい。
いつだって余裕があって、こっちばかり振り回される。

だから、少しくらいやり返してもいいはずだと思った。

俺は黙ったまま、斉藤から視線を外した。
話しかけられても返さない。わざと無視するなんて子どもっぽいと自分でも思う。でも、今はそれくらいしか思いつかなかった。

数分もすれば、先に折れるのはたぶん向こうだ。

案の定、しばらくして小さなため息が聞こえた。

「小池」

返事をしないでいると、隣の気配が近づく。
次の瞬間、背中にやわらかく腕が回されて、思わず息が止まった。

「まだ怒ってる?」

耳の近くで落ちてきた声は、さっきまでの軽さを少しだけ失っていた。
そのことが、妙にうれしい。

俺は前を向いたまま言う。

「怒ってないように見えるか?」
「見えない」
「じゃあ、どうするつもりだよ」

背中越しに、一瞬だけ沈黙が落ちる。
ふざけた返事が返ってくると思っていたのに、斉藤は驚くほど素直に言った。

「……なんでもするよ」

その声が思ったより近くて、低くて、胸の奥がかすかに揺れた。

なんでも、なんて。
そんな言葉、ずるいに決まっている。

俺はそこでようやく振り向いた。
ほんの少し困ったように眉を下げた顔が近くにあって、それだけでさっきまでの意地が急にほどけていく。

許してやるつもりなんて、最初から半分くらいしかなかったのかもしれない。

斉藤のシャツの胸元をつかんで引き寄せる。
驚いた顔をする暇も与えず、そのまま唇を重ねた。

触れたのは一瞬だったのに、離れたあとも熱だけが残った。

「……それで?」
と、斉藤が聞く。

俺はまだ少しだけ意地を張ったまま、息を整えて言った。

「ふざけるのは、もう終わりだ」
「うん」
「ちゃんとこっち見てろ」

三か月ぶりなんだぞ。
その言葉は、声に出した瞬間に思っていたよりずっと甘く響いた。

斉藤は少し目を見開いてから、どうしようもなくうれしそうに笑った。
その笑い方だけで、待っていたのが自分だけじゃなかったのだと分かってしまう。

「仰せのままに、って言ったら怒る?」
「当たり前だろ」
「じゃあ、やめとく」

そう言いながら、斉藤はまるでやめる気なんてないみたいな顔で俺の肩を抱き寄せた。
近づいてくる気配に、今さら逃げる気もない。

窓の外には、夜の気配が静かに張りついている。
部屋の明かりはやわらかくて、テーブルの上のワインも、さっきまでの意地も、どうでもよくなっていた。

こういうところがずるいと思う。
腹が立つくらい、こいつはいつも俺の形を崩してくる。

でも、そのずるさに甘えてしまうのは、たぶん俺の方だ。

もう一度触れた唇は、さっきより少しだけ深かった。


漫画にしてみました👇



※AIの力を借りて、誤字脱字の確認と表現整理を行っています。



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