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【Society Forward対談 | Soil 久田哲史氏・後編】「儲からない」けど「意義がある」非営利スタートアップ支援の魅力とは

「日本の未来を前に進めるビジョンとそれを実現するための活動」に焦点をあてて、社会を前へ進めるキーパーソンに対してインタビューする連載企画「Society Forward対談」。
Soil代表理事である久田哲史さんとの対談の後編となります。

※前編はこちら↓

資本主義の次を見据えた、「両輪」の発想

瀧:非営利団体だけでなく株式会社へも支援されていますが、どのくらいの比率でしょうか。

久田:法人化前の支援もあるので、正確に数えていないのですが、インパクトスタートアップの流行りもあって、株式会社も多いです。恐らく5対5くらいの比率ではないでしょうか。

Soilのホームページにも記載している「非営利スタートアップ」というのは私の造語なのですが、非営利と営利が溶け合っている感覚を表現した言葉です。たとえばOpenAIの初期のように、非営利的な使命を掲げつつ急成長するスタートアップが登場したことで、この概念もより身近に感じられるようになったのではないでしょうか。

久田:株式会社と非営利団体の一番大きな違いは、資金調達の方法です。どちらにもメリットはあるのでどちらを選ぶかは考え方次第ですが、重要な意思決定ですね。

株式会社の場合、イグジットを前提とせずに投資するエンジェル投資家もいます。彼らにとって、寄付は一度きりの関係ですが、株式出資であれば継続的なつながりが持てる点が魅力なのです。一方、非営利団体の強みは、認定NPOになると寄付者に対する税制優遇があり、寄付金を集めやすくなることですね。

瀧:じつは株式会社は、柔軟な対応ができる形態だと思うのですよね。たとえばすべての株主が事業に深く関わっている企業であれば、「冬の時代」に備えて利益を蓄えておくという選択ができます。そこで蓄えておいたお金を、長期的に売上を維持・拡大するために使うというのは株式会社ならではの戦略ですよね。

また、私たちが普段利用しているモノやサービスも、ほとんどが株式会社が提供してきたものです。これまでの歴史を見る限り、何百年か後にも、株式会社が生み出してきたものが形として残ります。

しかしこの先、資本主義が有効なツールとして機能しなくなる可能性もありますね。資本主義を成長させてきた要因としては、「技術革新」「人口増加」、そして「将来期待による資金流入」の3つが挙げられます。しかし現在、先進国では人口減少という大きな変化を迎えていますよね。

久田さんは先ほど、AIの成熟によって人は経済性を脱却できる(前編参照)とお話しされていましたが、これまでの資本主義に則った「営利」と、新しい価値観で動く「非営利」の両方に賭けることが重要なんでしょうね。

意義ある事業と収益化を両立する | AiCANの挑戦

久田:Soilは「儲からないけど、意義がある」非営利スタートアップを支援する、をミッションとしています。これは、社会的インパクトはあるけど経済的なリターンはない事業を支援するという、私たちの宣言です。これまでさんざん投資家から「儲からない」と否定され続けてきた人たちを、応援したいという想いを持っています。

一方で、単に理想を追うだけでなく現実的な視点も持つべきで、事業を大きくするためには、収益化が非常に重要になってきます。非営利セクターは、収益化するモデルが限られていたりするので、逆に営利の世界で大きく収益を上げたあとに、社会的インパクトを最大化するという起業家もいます。

瀧:Soilの活動は3年目に入ったとのことですが、最も印象に残っている投資事例はありますか。

久田:株式会社AiCANさんでしょうか。「すべての子どもたちが安全な世界に変える」というビジョンを掲げるスタートアップです。深刻化する児童虐待問題に対して、自治体へのAIを活用した業務システム提供と伴走サポートを通じて、児童福祉現場の業務改善を支援されています。

まだ導入実績が少なかった時期に、彼らのビジョンと情熱に可能性を感じ、支援を決めました。そのお金をもとに、さまざまな自治体への導入実績を重ね、さらにそのあとの資金調達にも繋がったと聞いています。単なる資金提供に留まらず、社会課題の解決を加速させるための「伴走」というSoilの活動理念を体現した、まさに象徴的な事例と言えますね。

じつは創業のきっかけは、代表の髙岡さんが児童福祉の現場で感じた課題意識からだそうです。児童虐待の相談件数が増えている社会背景もあり、児童相談所の職員の業務負担は増す一方で、子どもの安全を守るための支援に関する業務に十分な時間が確保できていない現状を変えたい、という強い想いを持っていらっしゃいます。AiCANさんは、経営チームも本当に素敵な方々で、解決しようとしている課題も、プロダクトも素晴らしいですよね。

今後、彼らの取り組みがさらに全国に広がり、すべての子どもたちが安心して暮らせる社会インフラとなることを期待しています。

瀧:AiCANさんは、当社グループが運営しているHIRAC FUNDからも出資させていただいています。私もお会いしたことがありますが、とても社会的に意義がある事業をされていますし、応援したくなりますよね。

社会貢献活動がくれる「自己効力感」と、これから一歩を踏み出す人へのメッセージ

瀧:この活動をスタートしてから、はじめて気づいたことはありますか。

久田:みんな共感しやすいところで言うと、この活動が「めちゃくちゃ楽しい」ということです。
この活動をスタートする前は「社会的に意義があることだから、頑張らなくては」と使命感で臨んだのですが、実際にやってみると、本当に楽しいんです(笑)。

日常生活を送っているうえで、自分が社会の役に立っていると感じられることって、あんまりないですよね。でも、この活動を通じて、非営利スタートアップの方々を少しでも支援できているということ、そう思えること自体がすごく楽しいんです。これは、「自己効力感」という言葉がピッタリくるかもしれません。この自己効力感は、実際にやってみないとわからなかったことですね。

瀧:素敵な言葉をいただきました。
一方で、海外と比べると、日本では寄付などの社会貢献活動が進んでいない現状がありますよね。

久田:そうですね。これは正直、日本の文化的な背景や社会システム的な難しさがあるのかもしれません。

国内最大級のイノベーション・カンファレンス「ICCサミット」のピッチコンテストで優勝するような素晴らしい起業家でも、ほぼ寄付が集まらなかったという話を聞きました。ICCサミットに集まるような投資家でさえ、最初の一歩が遠いんだなと思いました。

私も、個人としてウクライナに寄付しようとした時に、どこに寄付したらいいか迷いました。そのため最初に資金提供する先を選定するのではなく、まずお金を出してもらうのがいいんじゃないかなと思っています。そのお金を使って、ピッチイベントの審査員をしてもらう。そうすると、自然と良い起業家に出会えて、メンタリングなどの次のステップにつながる。そうしてコミュニティ活動を広げていくのがよいのかなと思っています。

瀧:それでは最後に、これから社会貢献活動をしてみたいという方へ、メッセージをお願いします。

久田:どんなに小さくてもよいので、まずは一歩を踏み出すことですね。自分の興味がある分野の活動など、なんでもいいので少額からクラウドファンディングなどで寄付して、徐々に件数を増やしてみるといいと思います。ちゃんとした企業や団体は、寄付後にレポートを送ってくれるので、そこからその企業や団体がどんな活動をしているか見てみる。とにかくたくさん情報を浴びてみるのがいいと思います。

私も最初から明確な軸があったわけではなくて、Soilを立ち上げてから、応募してきた書類に目を通して、自分の確固たる軸がわかってきた気がします。たとえば、新卒のときにはじめから「この会社がよい」と決めていた人ってほとんどいないと思うのですが、実際に入社してみたら愛社精神が湧いたという現象と同じですね。

DIE WITH ZERO」っていう本が一時期流行しましたが、あの発想は大切ですよね。必要以上の貯蓄や資産に縛られず、お金を社会にとって良いことに使った方が、人生が豊かになる。自分にとって大切な価値観はなにかを考えて、お金の使い方を見直すのが良いのではないでしょうか。

瀧:今日は色々と貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

久田:こちらこそ、ありがとうございました。

久田哲史(ひさた・てつし) 写真左
公益財団法人Soil代表理事、株式会社Datachain代表取締役CEO、株式会社Speee創業者兼取締役
2007年にSpeeeを創業し、代表取締役就任。2011年、新規事業創出に専念するため代表を交代。2018年、株式会社Datachainを設立し、CEO就任。2023年、一般財団法人Soilを設立。

瀧俊雄(たき・としお) 写真右
株式会社マネーフォワード 執行役員 グループCoPA(Chief of Public Affairs) サステナビリティ担当 Fintech研究所長
2004年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。株式会社野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学MBA、野村ホールディングス株式会社の企画部門を経て、2012年より株式会社マネーフォワードの設立に参画。内閣官房 デジタル行財政改革戦略チーム構成員、内閣府 規制改革推進会議専門委員(スタートアップ・イノベーション促進WG)、一般社団法人電子決済等代行事業者協会 代表理事、一般社団法人Fintech協会 アドバイザー、経済産業省 認知症イノベーションアライアンスWG 等メンバー。

取材・執筆・撮影:早川有紀(パブリック・アフェアーズ室)

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