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久我邦太郎② ― "開拓狂" 生きたお金の使い方編 (入新井特別出張所) #259

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各地を歩いていた「開拓狂」

開拓は大森だけに
留まらなかった。

上野不忍池の
競馬場でも
彼の名前が登場する。

箱根・修善寺・日光・
富士・羽田・
鵠沼・強羅・大磯……
別荘地・湯治場・観光地を
次々と整備した。

・職人を常備
・即日着工
・拙速主義
・報酬度外視

村井氏は邦太郎を
「開拓狂」
と呼んだ。
それは最大級の
賛辞であったのだろう。


常識外れの金の使い方

前記の新井宿土地賣買契約に、
又奇妙な芝居掛った事があった。

久我は其の買った土地、
契約した田畑の代金を
仲々拂はない。
賣り方のお百姓連は
追ひ追ひに不平を云ひ出し、
一體久我さんは
ドウする積りだらう
己の所の地面は約束して一年になる。

己らがの方は一年半になる。
軈(やが)て三年に成るが
未だ拂って呉れない。
田は作ってゐるから良い様なもんだが、
餘り氣が長がすぎる
一番談判すべいかなどなど、
八釜しく言ふ者なぞが出て来たので、
時分は良しと汐時を
見計ひ一日日を期めて、
関係の地主お百姓へ使を立て、
来る何日に
ご足勞でも寄ってお貰ひしたいと觸れた所、
豫て待ってゐた連中の事とて、
言ひ合せた様に皆んな集り、
久我の旦那の出て来るを待った。

暫くする内に、
久我は奥から庭の橡がわへ出て来て、
皆さん誠にお待せして済まなかった。
と挨拶をして後、
若い者を呼び、
コレコレアノ物置にある
炭俵をココへ持って来なさい。
蓆を二枚斗り出してココへ敷けと命じ、
サテ皆さんへ申上げるが、
御承知の地所の代金を、
今日コレからお拂ひするが、
お渡しする前、
一應皆さんに言ふて置きたい事がある。

他でもないが皆さんが
わたしに賣って下さった地面が値が出て、
それを後から見ると、
アー詰らなかった。
モー少し持ってゐれば良かったとか、
久我の爺さんにサワラレたとか云はれては、
此久我も冥利が悪いから、
今日これからお上げする地所の値段、
二十五銭お約束の分は五拾銭、
一圓お約束の分は二圓と、
何れも倍額に勘定をして
夫々區別し結へてあるから、
其積りで一應勘定して
持ってって貰ひたい。

と宣言して後、
今出した薦ろへ炭俵の仲味を出させ、
全部の人に土地の代金を渡したと云ふ。
奇劇的の幕があったのだ。

以上本文のまま

土地代を払わず数年放置。
不満が爆発した頃、
約束の倍額で支払う。

炭俵から現金を出して。
芝居がかっている。

だが、結果として
誰も損をしていない。

彼は儲けるためというより、
街や人を動かすために
金を使っていた
ように見える。


出典
 雑誌『武蔵野』三月號
  (大田区立郷土博物館 学芸員様より提供資料)

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