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イスラエル建国シリーズ|第1話 なぜ二千年流浪した民族は国家を取り戻せたのか

~イスラエル建国は偶然ではなく、二千年続いた国家戦略だった~

私たちは普通、「国があること」を当たり前だと思っている。
日本人として日本に生まれ、
日本という国家の中で暮らし、日本国籍を持ち、日本語を話す。
国家とは、最初からそこに存在するものだと思っている。

しかし世界には、一度国家を失い、それでも民族として生き残り、
二千年後に再び国家を取り戻した人々がいる。
それがユダヤ人である。

これは人類史の中でも極めて珍しい出来事である。
普通、国家を失った民族は歴史の中へ消えていく。
周囲の民族に同化し、言葉を失い、文化を失い、
やがて民族そのものが歴史から姿を消す。

ところがユダヤ人だけは違った。
二千年間、世界中へ散らばりながらも民族として生き続け、
ついには再び国家を築き上げた。

なぜそんなことが可能だったのだろうか。
その答えは、宗教だけでも、民族だけでもない。
もっと深いところにある。

「国家とは何か」という考え方そのものにある。


第1章 イスラエルは最初から存在していた

多くの日本人は、
イスラエルという国は1948年に突然誕生した国だと思っている。
しかし、それは半分しか正しくない。

1948年に建国されたのは、現代国家としてのイスラエルである。
イスラエルという国家そのものは、約三千年前にすでに存在していた。
その起源は旧約聖書にも登場する。

紀元前1000年頃。
ダビデ王がエルサレムを都と定め、イスラエル王国を築いた。
その後を継いだソロモン王は、壮大な神殿を建設し、
国家としての基盤を完成させる。

この時代のイスラエルは、単なる宗教共同体ではない。
法律があり、王があり、軍隊があり、行政があり、
外交を行う一つの国家だった。

つまりユダヤ人は、「国家を持った経験」を持つ民族なのである。

ここは非常に重要である。
後に二千年間国家を失っても、
彼らには、

「国家とは何か」

という記憶が残っていた。


第2章 なぜ国家を失ったのか

しかし、その国家は永遠には続かなかった。
紀元前6世紀。
バビロニア帝国によってエルサレムは征服され、
多くの住民がバビロンへ連行される。
これが有名な「バビロン捕囚」である。

その後、ペルシャ帝国によって帰還が許され、神殿は再建される。
ところが数百年後、新たな巨大帝国が現れる。
ローマ帝国である。

ローマは地中海世界を統一し、ユダヤ地方も支配下へ置いた。
しかしユダヤ人は独立への願いを捨てなかった。
ローマへの反乱が続き、ついに紀元70年。
ローマ軍はエルサレムを包囲し、第二神殿を徹底的に破壊した。
神殿は焼き払われ、多くの人々が命を落とした。

さらに紀元135年。
再び起こった反乱の後、
ローマ皇帝ハドリアヌスはユダヤ人のエルサレム居住を禁止する。

ここでユダヤ人は祖国を追われることになる。
これが後に「ディアスポラ(離散)」と呼ばれる歴史の始まりである。


第3章 民族はなぜ消えなかったのか

ここで一つ、不思議なことが起こる。

普通なら民族は消える。
土地を失う。
国家を失う。
軍隊もない。
政府もない。

周囲には何倍もの人口を持つ民族が暮らしている。
数百年もすれば言葉は変わり、文化は混ざり、民族は同化してしまう。

これは歴史上、ごく普通に起きてきたことである。
しかしユダヤ人だけは違った。

ローマ帝国の中でも。
イスラム帝国の中でも。
ヨーロッパ各地でも。

彼らはユダヤ人であり続けた。
二千年間で国家は消えた。
それでも民族は消えなかった。
ここに、イスラエルという国を理解する最初の鍵がある。

なぜそんなことが可能だったのか。
多くの人は、

「宗教心が強かったから」

と考える。
もちろん宗教は大きな役割を果たした。
しかし、それだけでは説明できない。

世界には宗教を持つ民族は数え切れないほど存在する。
それでも国家を失えば、多くは歴史の中へ吸収されていった。
ユダヤ人だけが違った理由は、

宗教を守ったからではない。
知識を守る仕組みを持っていたからである。


第4章 彼らが守ったのは土地ではなかった

国家を失えば、普通は民族も消える。

土地がない。
政府がない。
軍隊もない。

子どもは現地の言葉を話し始める。
数世代も経てば、
自分たちがどこから来た民族だったのかさえ分からなくなる。

歴史の中で消えていった民族の多くが、まさにそうだった。
ところがユダヤ人は違った。
彼らは土地を失っても、

「民族として生きる方法」

を知っていた。
彼らが守ったものは土地ではない。
知識だった。
ここが極めて重要である。


第5章 知識だけは誰にも奪えない

土地は奪われる。
家も焼かれる。
財産も没収される。
国家も滅びる。

しかし、一つだけ奪えないものがある。
頭の中にある知識である。
このことをユダヤ人は二千年前から理解していた。

だから彼らは、
子どもに教育を与えることを、何よりも優先した。

読み書きを教える。
歴史を教える。
法律を教える。
議論する力を教える。

そして、「なぜそう考えるのか」を考え続ける習慣を育てた。
ここが非常に興味深い。

多くの民族は文化を伝える。
しかしユダヤ人は、

考え方そのもの

を伝えたのである。


第6章 タルムードが民族をつないだ

ユダヤ人を語るうえで欠かせないものがある。
「タルムード」である。

日本では宗教書のように紹介されることが多い。
しかし実際には、それだけではない。

法律であり、
判例集であり、
哲学書であり、
教育書であり、
討論集でもある。

特徴は、「答えが一つではない」ことだ。

ある問いに対して、
何人もの学者が議論する。
意見が分かれる。
反論する。
さらに議論する。
そして、その過程そのものを残す。

つまり、
正解を暗記する教育ではない。
考え続ける教育なのである。

だからユダヤ人社会では、
幼い頃から「質問しなさい」と教えられる。

日本では、先生の話を静かに聞くことが良い子とされる。
しかしユダヤ人社会では、質問しない子どもの方が心配される。
なぜなら、考えることを止めた瞬間に、知識は死ぬからである。


第7章 共同体という「見えない国家」

もう一つ重要なのが、共同体である。
世界中へ離散したユダヤ人は、それぞれの町に共同体を作った。

学校。
礼拝所。
教育施設。
福祉。
相互扶助。

つまり、国家が行う機能を、共同体が担ったのである。
だから国家がなくても、民族は生き続けられた。
国家という器は失った。
しかし、国家を支える仕組みだけは、共同体の中に残していた。

これは非常に高度な国家設計である。
普通、国家は政府によって支えられる。
しかしユダヤ人は、政府がなくても、
民族を維持できる仕組みを作っていた。


第8章 国家を失った民族が世界へ広がった

ディアスポラによって、ユダヤ人は世界中へ散らばった。

ヨーロッパ。
中東。
北アフリカ。
後にはアメリカ大陸にも広がっていく。

普通なら民族は分裂する。
しかし彼らは、どこへ行っても教育を続けた。

法律を守った。
共同体を作った。
知識を伝えた。

だから、二千年という時間が流れても、
民族としての一体感を失わなかった。

これは世界史の中でも極めて珍しい。
国家が民族を支えたのではない。
民族が国家を持たないまま生き延びたのである。


結び

ローマ帝国は道路を残した。
オスマン帝国は多民族統治を残した。
ハプスブルク帝国は国家運営を残した。
大英帝国は金融と海運を残した。

それらはすべて、国家が世界へ残した仕組みである。
しかしユダヤ人は違う。

国家を失ったまま、知識という仕組みだけを守り続けた。
だから二千年後、国家を再び作ることができた。

イスラエル建国は、1948年に突然起きた奇跡ではない。

二千年間、
教育を続け、
知識を守り、
民族をつなぎ続けた結果なのである。

ここに、この国を理解する最初の答えがある。


次回予告

イスラエル建国シリーズ|第2話
なぜ世界はイスラエル建国を認めたのか

二千年間の願いだけでは、国家は生まれない。
イスラエル建国を決めたのは、理想ではなく国際政治だった。
ローマ帝国から大英帝国へ続く歴史の連鎖が、
1948年という瞬間を生み出したのである。


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