シンガポール建国シリーズ|第2話 なぜ世界中の企業と富裕層はシンガポールを目指すのか
第一話では、
シンガポールは資源ではなく、
国家そのものを経営した国であることを書いた。
ここで、もう一つの問いが生まれる。
なぜ世界中の企業は、
シンガポールへ本社を置くのだろうか。
なぜ世界中の富裕層は、
資産をシンガポールへ移すのだろうか。
多くの人は答える。
「税金が安いから。」
確かに、それも理由の一つである。
しかし、
それだけなら世界中の低税率国家が、
シンガポールのようになっているはずだ。
現実は違う。
本当の理由は、
税率ではなく、安心を売っているからである。
第一章 企業が買っているもの
企業は利益を求める。
これは誰でも知っている。
しかし、利益だけを見て国を選ぶわけではない。
企業が最も嫌うもの。
それは、
不確実性
である。
税制が突然変わる。
法律が突然変わる。
政権が変わるたびに制度が変わる。
裁判が信用できない。
行政が恣意的に動く。
企業経営において、
これほど大きなリスクはない。
だから企業は、
税率よりも先に、
ルールが変わらない国
を選ぶ。
シンガポールが売っているのは、税率ではない。
制度への信頼なのである。
第二章 税率は「商品」の一部に過ぎない
シンガポールの法人税は17%。
国際的に見ても低い。
さらに、キャピタルゲイン課税が基本的に存在しない。
相続税もない。
贈与税もない。
一定の条件下では、
仮想通貨投資によるキャピタルゲインにも課税されない。
これだけを見ると、
「税金が安い国」という印象になる。
しかし、ここで重要なのは、
税金だけでは企業は来ないということである。
税率が低くても、
政治が不安定なら来ない。
裁判が信用できなければ来ない。
金融システムが弱ければ来ない。
つまり、税制とは、
完成された国家商品の一部
なのである。
第三章 国家もブランドである
企業にはブランドがある。
Apple。
Microsoft。
Toyota。
ブランドとは、安心である。
国家も同じだ。
企業は、
「Singapore」
というブランドを買っている。
契約が守られる。
法治国家である。
英語が通じる。
金融が世界水準。
港湾も空港も世界最高水準。
ASEAN市場へアクセスできる。
これら全てが、国家ブランドなのである。
第四章 需要を設計する国
普通の国は、企業を誘致しようとする。
工場を作ってください。
投資してください。
税金を払ってください。
しかしシンガポールは違う。
まず、企業が欲しいものを分析した。
安全。
税制。
金融。
物流。
英語。
優秀な人材。
生活環境。
そのすべてを、国家として供給した。
つまり、需要を読んで供給を設計したのである。
これは企業経営と全く同じである。
売りたい商品を作るのではない。
市場が欲しい商品を作る。
リー・クアンユーは、
国家をその発想で経営した。
第五章 利益ではなく、信頼が集まる
企業は利益を追う。
しかし、利益だけでは国を選ばない。
世界中の企業が集まる理由。
世界中のファンドが集まる理由。
世界中の富裕層が資産を預ける理由。
それは、
「この国なら安心できる」
という信頼があるからである。
信頼は目に見えない。
しかし、世界で最も価値の高い資産でもある。
リー・クアンユーが作ったのは、
港ではない。
税制でもない。
金融センターでもない。
世界中の企業が、安心して未来を預けられる場所。
それが、シンガポールという国家ブランドだったのである。
結び
国家経営も企業経営も、本質は変わらない。
利益は結果である。
しかし、利益を目的にすると、利益は逃げる。
企業が求める価値を提供し続けた結果として、
企業は集まり、
資本は集まり、
人材は集まり、
国家は豊かになった。
シンガポールは、
税金が安い国ではない。
世界が求める価値を、国家という形で供給し続けた国なのである。
・・・
歴史は過去ではない。構造は現在も生き続けている。
だから歴史は、未来を読むための教科書なのである。
★参考資料
国際都市企業誘致力ランキング
順位|国・地域|評価
1位 シンガポール
総合力では世界最高水準。法人税、法制度、政治の安定、英語環境、金融、人材、港湾・空港などのバランスが非常に優れている。
2位 アラブ首長国連邦(ドバイ・アブダビ)
中東・アフリカ市場への玄関口。富裕層や政府系ファンドが集まり急成長中。
3位 アイルランド
欧州向け本社誘致で非常に強い。Google、Apple、Microsoftなどが欧州本社を置く。
4位 スイス
資産運用、金融、医薬品分野では世界トップクラス。
5位 ルクセンブルク
投資ファンドやPE・インフラファンドの設立地として圧倒的な存在感。
6位 オランダ
欧州物流・サプライチェーン・持株会社の拠点として人気。
7位 香港
以前はトップクラスだったが、中国との関係変化により国際企業の一部がシンガポールへ移転。
8位 英国
ロンドンは依然として金融センターだが、EU離脱後は一部競争力が低下。
9位 モーリシャス
アフリカ投資の持株会社・ファンド設立では強みを持つ。
10位 マレーシア
コスト競争力は高いが、本社機能誘致ではシンガポールに及ばない。
★なぜシンガポールが1位なのか
シンガポールは、企業が本社を置く際に重視する要素をほぼすべて高水準で満たしているためだ。
・政治・法制度が安定している
・英米法を採用し契約の信頼性が高い
・法人税率が比較的低く、優遇制度もある
・英語が公用語
・世界有数の港湾・空港
・優秀な外国人材を採用しやすい
・アジア市場へのアクセスが良い
・多くの金融機関・投資ファンドが集積
これらが組み合わさっている国は世界でも非常に限られている。
次回予告
シンガポール建国シリーズ|第3話
なぜ世界中の富はシンガポールへ集まり続けるのか
税制だけでは、金融都市にはなれない。
銀行があるだけでも、
証券会社があるだけでも、
世界の資金は集まらない。
シンガポールが設計したのは、
「お金が集まり、お金が流れ、お金が増える構造」だった。
国家を一つの金融プラットフォームとして設計したとき、
世界はこの小さな島国を必要とし始めた。
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