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イスラエル建国シリーズ|第2話 なぜ世界はイスラエル建国を認めたのか

~帝国が残した約束と国際政治の構造~

第1話では、イスラエル建国は突然起きた出来事ではなく、
約二千年という時間をかけて民族が知識を守り続けた結果だった
ことを書いた。

しかし、ここで一つの疑問が残る。
ユダヤ人が国家を望んだからといって、国家は作れるのだろうか。
世界には国家を望む民族は数多く存在する。

クルド人。
パレスチナ人。
チベット人。
カタルーニャ人。

民族が存在することと、国家を持つことは全く別の問題である。
では、なぜイスラエルだけは国家として誕生できたのか。

答えは、1948年ではない。
その答えは、第一次世界大戦の終わりから始まっている。


第1章 国家は「欲しい」と言っても作れない

私たちは国家とは土地の上に作られると思っている。
しかし国際政治では違う。
国家とは、

国際社会が承認して初めて成立する存在

なのである。
例えば、自分の家の庭に今日から独立国家を作ると言っても、
誰も認めない。

国旗を掲げても、
法律を作っても、
首相を名乗っても、
国家にはならない。

国家とは、
他国との約束によって成立する制度
なのである。

つまりイスラエル建国を理解するためには、
ユダヤ人を見るだけでは足りない。
世界を見る必要がある。


第2章 すべてはオスマン帝国の崩壊から始まった

ここで、これまで読んできた帝国シリーズが再び登場する。
第六シリーズで学んだオスマン帝国。
約六百年間、中東全域を支配していた巨大帝国である。

現在の、
イスラエル
パレスチナ
ヨルダン
レバノン
シリア

この地域も、長い間オスマン帝国の一部だった。
つまり、「イスラエル」という国は存在していなかった。

ところが第一次世界大戦で、オスマン帝国は敗北する。
そして、四百年以上続いた中東の秩序は一気に崩壊した。

ここで世界は、

「この土地を誰が統治するのか」

という問題に直面するのである。


第3章 イギリスが中東を引き継いだ

第一次世界大戦で勝利したイギリスとフランスは、
オスマン帝国の領土を分割管理することになる。

現在の、
イラク
ヨルダン
パレスチナ

などは、イギリスの委任統治領となった。
ここで重要なのは、
イギリスは植民地を増やしたかったわけではない
ということである。

当時のイギリス最大の目的は、インド航路の安全保障だった。
インドは、大英帝国最大の利益を生む地域だった。
そのため、スエズ運河から中東一帯を安定させる必要があった。

つまり、中東政策とは、
帝国経営そのものだったのである。


第4章 同じ土地を三者に約束してしまった

ここから歴史は急激に複雑になる。
イギリスは戦争に勝つため、三つの約束をしてしまう。

一つ目。
アラブ人に対して、
オスマン帝国に反乱を起こせば、戦後は独立国家を認める
と約束した。

二つ目。
フランスとは、
中東を分割統治する密約(サイクス・ピコ協定)
を結ぶ。

そして三つ目。
1917年、世界史で極めて重要な文書が発表される。

バルフォア宣言

である。


第5章 バルフォア宣言とは何だったのか

イギリス外相アーサー・バルフォアは、
ロスチャイルド卿に宛てた書簡の中で、
パレスチナにユダヤ人の民族的郷土を建設することを支持する
と表明した。

この一枚の文書が、
後のイスラエル建国の出発点となる。
しかし、ここで一つ疑問が生まれる。

なぜイギリスは、ユダヤ人国家を支持したのだろうか。

人道的理由だったのか。
宗教的理由だったのか。

実は、どちらでもない。
イギリスは、
極めて現実的な帝国戦略として判断していたのである。


第6章 バルフォア宣言だけでは国家は生まれない

バルフォア宣言は、
ユダヤ人国家建設への支持を表明した歴史的文書だった。
しかし、それはあくまでもイギリス政府の意思表示に過ぎない。
一枚の文書だけで国家が誕生することはない。

ユダヤ人が国家を望んでも、世界が認めなければ国家にはならない。
つまり、バルフォア宣言は建国の「出発点」ではあったが、
「完成」ではなかったのである。

では、その約束は、どのようにして現実になったのか。
その答えは、二十世紀最大の悲劇――第二次世界大戦へとつながっていく。


第7章 世界はホロコーストを見た

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは約六百万人のユダヤ人を虐殺した。
ホロコーストである。

もちろん、ユダヤ人への迫害はこの時初めて起きたわけではない。
第1話で見たように、彼らは二千年近く迫害を受け続けてきた。
しかしホロコーストは、
世界が初めて、国家による大量虐殺を映像と記録で目撃した事件だった。

収容所。
ガス室。
飢餓。
強制労働。

戦争が終わり、
その実態が明らかになると、世界は大きな衝撃を受ける。
そして一つの問いが生まれた。

「ユダヤ人には、自分たちを守る国家が必要なのではないか。」

この空気は、戦前とは全く違うものだった。


第8章 国際連合という新しい秩序

1945年、国際連合(国連)が誕生する。
その目的は明確だった。

二度と世界大戦を起こさないこと。

つまり、力だけで世界を支配する時代から、
国際ルールによって秩序を維持する時代へ移ろうとしていた。
その最初の大きな課題が、パレスチナ問題だった。

イギリスは、
アラブ人にも約束した。
ユダヤ人にも約束した。

結果として、
双方が対立し、
自力では統治できなくなっていた。

そこでイギリスは、この問題を国連へ委ねる。
ここで初めて、
「イスラエル建国」が国際社会全体の議題となるのである。


第9章 国連分割決議

1947年、国連はパレスチナを

・ユダヤ国家
・アラブ国家

の二つに分ける案を採択した。
これが、

国連パレスチナ分割決議(決議181号)

である。
ユダヤ人指導部は受け入れた。
しかし、アラブ諸国は強く反対した。

理由は単純だった。
「自分たちが住んでいる土地を、なぜ分割しなければならないのか。」

当然の主張でもある。
つまり、この瞬間から、
双方が正義を持つ構造が生まれてしまった。

イスラエル建国を理解するには、
どちらか一方だけを見てはいけない。

双方に歴史があり、
双方に理屈がある。

だからこそ、七十年以上解決できない問題になっているのである。


第10章 1948年、イスラエル建国

1948年5月14日、ダヴィド・ベングリオンは、
イスラエル独立宣言を読み上げる。

ここで、約二千年ぶりに、ユダヤ人国家が復活した。
しかし、建国を宣言した翌日、

エジプト、
ヨルダン、
シリア、
レバノン、
イラクなど、

周辺アラブ諸国が一斉に侵攻する。
第一次中東戦争である。

普通に考えれば、人口も少なく、
武器も十分ではない新国家が勝てるはずはなかった。

しかし、イスラエルは生き残る。
そして、国際社会も、次々と国家承認を行っていく。

ここで初めて、
イスラエルは法的にも現実的にも国家となったのである。


第11章 建国とは「土地」ではなく「承認」である

私たちは、国家は土地があれば作れると思っている。
しかし、イスラエル建国が教えているのは違う。

国家とは、
土地だけでは成立しない。
民族だけでも成立しない。
軍隊だけでも成立しない。

国際社会から承認されること。

これが決定的なのである。

つまり、国家とは

「世界との契約」

なのである。
これは企業にもよく似ている。
会社を作るだけなら誰でもできる。

しかし、
顧客が認めなければ存在できない。
投資家が信用しなければ成長できない。
市場が受け入れて初めて、企業は企業として成立する。

国家も同じなのである。


第12章 帝国が残した「約束」が現代を動かしている

ここで、帝国シリーズ全体が再び一本につながる。

ローマ帝国は、法という共通ルールを残した。
オスマン帝国は、中東という一つの統治空間を残した。
大英帝国は、委任統治と国際外交の枠組みを残した。

イスラエル建国は、そのすべての歴史の上に成立している。
つまり、イスラエルは突然生まれた国ではない。

ローマから続く国際秩序、
オスマン帝国が支配した中東、
大英帝国が設計した国際政治、
その積み重ねの上に誕生した国家

なのである。
歴史は、切り離された出来事ではない。
前の時代が、次の時代を作っている。

これまで帝国シリーズを読んできた人ほど、
イスラエル建国が一本の線として見えてくるはずである。


結び

イスラエル建国は、
民族の勝利でもなければ、
宗教の勝利でもない。

二千年続いた歴史。
帝国が残した国際秩序。
第一次世界大戦。
第二次世界大戦。
ホロコースト。
国際連合。

そのすべてが重なり合った結果として、
1948年の建国があった。

だからイスラエルを理解することは、
一つの国を知ることではない。

世界がどのように国家を作り、認め、
秩序を維持してきたのかという「国際政治の構造」を知ること

なのである。


★参考資料

  • 1917年 バルフォア宣言(英国がユダヤ人の「民族的郷土」建設を支持)

  • 1922年 国際連盟が英国のパレスチナ委任統治を承認

  • 1945年 国際連合(UN)設立

  • 1947年 国連パレスチナ分割決議(決議181号)採択

  • 1948年5月14日 イスラエル独立宣言

  • 1948年5月15日 第一次中東戦争勃発


次回予告

イスラエル建国シリーズ|第3話
なぜイスラエルは砂漠から世界最強クラスの国家になれたのか
~資源ではなく頭脳を輸出する国家~

石油はない。
鉄鉱石もない。
広大な農地もない。
それでもイスラエルは、世界有数のハイテク国家となった。
彼らが輸出したのは資源ではない。

「知識そのもの」を国家の最大資源に変えた構造を読み解いていく。


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