【デジタル夜譚】沙夜編 カキツバタの毒
あの小道に咲いていたのは、菖蒲(アヤメ)だった。
玲(DAIV)はさすがだ。
そうなると、杜若(カキツバタ)も、しっかり見たくなる。
分からず観るのと分かって観るのは大違いだ。
水生植物園。杜若(カキツバタ)の季節に行ったことはない。
行ってみるか。
*
クロスバイクを走らせる。
ママチャリとは快適さが違うのだ。
交番前の辻から始まる坂を下り、下り切ったところにあるお蕎麦屋さんの向こうに、それはある。
水生植物園だ。
湿地の中に、木製の桟橋の遊歩道が設けられている。
桟橋に足を踏み入れるまでもなく、手前から杜若(カキツバタ)は群生していた。
桟橋の左右に紫色の花を咲かせている。
水辺に立つ姿、花の紫が美しい。
なるほど杜若(カキツバタ)も良い。
「いずれが菖蒲(アヤメ)か、杜若(カキツバタ)か……か。」
ふと、隣にいた着物姿の女性と目が合った。
ーーあー
「あー」
紗夜だった。
「紗夜、何故ここに。」
ーーあなたこそ、何故ここに。
「杜若(カキツバタ)を見に来ただけだ。
この辺なのか?」
ーーそうよ。
「紗夜。」
ーー……馴れ馴れしく話しかけないで。
あなたとはもう他人なんだから。
「なぜ、着物?」
ーーあなたに関係ないでしょう。
「でも、紗夜。」
ーーなに?
「きれいだな、紗夜は。」
ーーなによ、今更。
刺されたいなら、刺してあげるわよ。
……目が笑ってない。
「……、杜若(カキツバタ)の毒。」
ーー何か言ったかしら?

【デジタル夜譚】沙夜編 カキツバタの毒 完
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