ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(22)|ケチャップのシミ
【この小説は1頁につき、おおよそ3分で読めます】
マガジンTOP
前ページ
田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
住人は老若男女6人と猫が一匹。
住人の一人、雨宮茉莉花は40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見紫をサンクチュアリに誘う。
茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——
茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊さくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野宗四郎は30代の同性愛者の男性、木南悠はお金のない現役大学生。
仕事、恋愛、家族——
これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。
【この小説は途中から有料になります】
(1)はこちら
ケチャップのシミ
「おかえりなさい」
紫を見つけ、声をかけたのは茉莉花だ。台所から、麦茶のボトルとグラスを手に、居間に回ってくる。
茉莉花は「ちょうど今出来上がったところです。どうぞ、座ってください」と言って、麦茶のボトルとグラスをちゃぶ台に置くと、「葉、ケチャップとって。台所の作業台」と、グラスに麦茶を注ぎながら言う。
先に席についていた宗四郎が、「悠ー! 飯だぞー!」と言いながら、付きっぱなしだったテレビを消した。
声を聞き、悠より先に、さくらが自室から顔を出す。
「ありがとう。茉莉花ちゃん。ごめんなさいね。支度手伝えなくて。今日は何だか疲れちゃったわ」
「そんな日もありますよ。さくらさん。どうぞ。席についてください」
茉莉花が言って、さくらが席につく。時間差で「宗四郎、紫さん、おかえりなさい」と2階から悠が下りてきて、席についた。
「さ、いただきましょ。いただきます」
「いただきます!」
葉が、一際大きな声で言う。

障子窓の外はまだほんのり明るいが、濃くなった影は部屋の中にも差していた。光を求め、電気の傘に、小さな羽虫が群がっている。
「紫ちゃんの仕事の件はうまくいったの?」
ふわふわのオムライスを崩しながら、口を開いたのはさくらだ。
「ああ」と宗四郎が言う。
「明後日から行くことが決まりました。週に3日だけですけど」
「そう。良かったわね」
紫の言葉に、さくらが微笑む。
「さくらさんはお疲れみたいですけど、大丈夫ですか?」
「ああ。いえね、昼間の野暮用のせいよ。ちょっとね」
そう言うさくらは、少し焦っているようにも見える。野菜スープに伸ばす手が少々ぎこちない。
「野暮用ってなに〜?」と葉が言う。
「下らない用事ってことだよ」
宗四郎が麦茶のグラスに口をつけながら言う。
「ふーん」
口の周りをケチャップだらけにしながら言う葉に、志麻さんが擦り寄る。ぴんと伸びたしっぽが、上機嫌であることを知らせている。
「ほら、葉。口の周りケチャップだらけ」
「もう。お母さんってば。僕もう1年生だよ。自分で出来るってば」
葉の口を拭う茉莉花に、葉は言うが、既にTシャツの肩口に、ケチャップが付いてしまっている。そういうところは年齢相応だな、と思いながら、紫はその光景を見ていた。
「僕もアルバイト増やそうかなあ」
ふいに、悠が口を開く。それは大きすぎる独り言といったところ。悠は早朝、新聞配達のアルバイトをしていた。
「何だよ。成績が落ちて、授業料の免除申請通らないとか?」と宗四郎が言う。
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
「じゃあ何だよ。欲しいものでもあんのか? 」
宗四郎の言葉に、悠は黙る。
「何だよ。勿体ぶんな」
「やっぱり言うんじゃなかったかも」
「お前なあ——」
「そうだよ。欲しいものがあるんだ」
溜め息をつきながら、悠が言う。

【1161文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】
ここから先は

『サンクチュアリが見えたら』のマガジンです。ほのぼの、ゆるゆる、たまに強く揺れ動く住人たちの心。現在公開部分、全て無料。最終価格未定。
この記事が参加している募集
応援宜しくお願いします∩^ω^∩いただいたチップは、資料購入や取材活動などに使わせていただきます☆★☆
