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十二星座物語(エピソード⑧)

普段は決して明かされない、第8番目の秘密の部屋。突然のアクシデントに見舞われた、主人公、蠍座の迦浮華(カフカ)の前に、へんてこりんで陽気なものたちが話しかけてくる。迦浮華はいったい何を信じて、何を受け入れていくのか?神秘のベールに包まれた蠍座の女の物語。

あらすじ⑧

レッドカーペットに浮かぶ


 ギラギラと光る銀色の丸い球体の中で、2台のオートバイが、轟音と共にアクロバティックに上へ下へとクロスする。真っ赤なライトがぐるぐると会場内を行き来し、観客は満員御礼、場内が一気にヒートアップする。それにしても、あのスタントマン。凄い遠心力を幾度となく浴びている。大丈夫か?それを見ていた観客の中に、まるで漫画のひとコマのごとく、目が回りだす者がいた。

「うわ~目が回る。誰か、誰か助けて…」

はっとして、迦浮華カフカは飛び起きた。今日もまた変な夢を見てしまった。最近、どうも夜眠れず、ユーチューブをボーっと眺めながら、夜中3時を過ぎたあたりから眠りにつくと、決まって難解な夢を見てしまう。自分の中の潜在意識が、何か悪いものを排出できずに、エンストでも起こしているのか。頭の中が見事にカオスな一日の始まりだ。

よし!一旦リセットしよう。今日はアーシングだ。そうと決まれば、善は急げ。迦浮華は歯磨きをしながら、窓越しに空を見た。雲は見当たらずいいお天気だ。欠け始めた白い月がまだ空に残っている。月が隠れてしまう前に、頭の中をスッキリ空っぽにして、一日のスタートを切りたい。

時短で“パパパ”のサンドイッチをバスケットに詰め込んで、お気に入りの愛車に足早に乗り込む。カーステレオから流れる音楽に合わせ、女は一人、陽気に軽やかな歌声で坂を下る。その先のヘアピンカーブを曲がったら、あと少しで視界は一気に拡がり、広大な海が見えてくるはずだ。さあーこい、さあーこい!私だけのオーシャンビュー!

「プススス・スっ・すっ…ぐっぎゅ」
「は?あれ~」

女を乗せた車は、突然その動きを停めた。普段なら絶対に、こんなところで停まらない。なのによりによって、こんな街はずれで車が故障。エンジンをかけても、ウンともスンとも言わなくなった車内で、迦浮華は真っ青になって途方に暮れていた。現実の世界でもエンストか。全くついてない。

ふと見ると、目の前に一軒の店があった。看板には「アンタレス」と書かれたシルバーな文字が怪しく光る。真っ赤に塗られた屋根の上に、くるくるくるりと向きを変えながら、風見鶏がカタカタと風に吹かれ揺れていた。よく見ると看板の横に、小さな星がいくつか描かれている。

店のドアには「本日休業」のボードが垂れ下がっている。迦浮華は深くため息をついて落胆した。スマホは…ない。海に行く時には、いつもスマホを置いて出てくる。休日くらい、誰にも邪魔されず、居場所も特定されないで、ゆっくり過ごしたいと思っていたのに…。

「どうしよう!困った、困った!」
まずは、故障を診てもらうために連絡しなくては。車を降り、修理できる場所を探そうと思ったその時だった。

「お嬢さん、待って」
ふいに呼び止められ、一瞬びくりとなったが、ゆっくり声の方を振り返る。だが、そこには誰の姿もない。

今の声は・・・凍り付いたように静止。

確かに聴こえたその声を探すように、迦浮華はきょろりきょろりと辺りを見回した。お化けが怖いわけではない。真夜中なら話は別だが、太陽が頭上から降り注ぐ真っ昼間だ。よく見ると、少しだけ店の扉が開いている。さっきは開いていなかったはず。扉の方にそっと近づいて中を覗き見る。するとそこには、ギンガムチェックのベストを身に纏う、ちっさいおじさんが、こちらへ来いと手招きしている。

(いやいや、入れませんよ。ちょっと怖いですよ。なんなら逃げますよ。)などと心の中で繰り返しながらも、その異様な光景がなぜか滑稽に見えて、逆に気になってしまった。
(ここは腹をくくって、入りましょう。入りますよ。いいんですね、入っても…。)と、声にならない声を頭の中で響かせながら、迦浮華がドアに手をかける。

「待て!」
ちっさいおじさんが右手を前に差し出して、入店を阻止する。
「合言葉は?」
「え!何ですか?知らないですよ。私はここを通りかかっただけですから」
「住所あるいは電話番号を教えて下さい」
「え!それは・・・秘密です」

迦浮華はとっさにそう答えてしまった。こんな得体の知れないおじさんに、家の番号なんぞ、教えてなるものか。

「どうぞ」
ちっさいおじさんは無表情のまま、実にあっさりと中に通してくれた。

迦浮華は今の「秘密」が合言葉なのかと、妙にしっくりこない、ぬるっとした対応に納得がいかなかった。どうせ合言葉というのなら、「山・川」とか「8番・出口」とか、そういうのにしてもらいたかったなどと、心の中で思いながらふと我に返る。
「ナニコレ?どういう状況??」

店内に入ると、そこは深紅の絨毯が敷きつめられた、とびっきり情熱的で異様な空間が広がっていた。迦浮華はカウンター横の窓際、木製の椅子に腰かけ、外を眺めながら、また何かを吐き出すように大きなため息をついた。

それから、信じられないほどの静かな時が流れた。迦浮華はカウンターに入って動かなくなったちっさいおじさんに問いかけた。

「あのぉ、オーダー…お願いできます?」
「今日は休みだよ」
「あなたは誰?この店の人じゃないの?」
「私を呼んだのは、あんたの方じゃよ」
初めてくる店にきて、初対面のちっさいおじさんにそんなことを言われても…。迦浮華は混乱しながらも、気を取り直しておじさんに尋ねた。
「ここは喫茶店ではないのですか?」
「あんたがここを選んだんだ。ここに来るしかなかろう」
今度はおじさんが迦浮華に尋ねた。
「なぜ、君はすべてを見せようとしないの?」

なぬ?これが、初めてあった人に言う台詞なのだろうか?
「なぜって…、私、本当はここに来る予定じゃなかったんですが…」
おじさんは、じゃあと言うような顔で、質問を変えた。

「なぜ、そんなに心を閉ざしているのかな?」
いやいや冷静に考えても質問がおかしいでしょ。このおじさんは私の何を知りたいというのだろうか。ま、冷静に大人な対応で乗り切ろうと自分を鼓舞する。
「私、心を閉ざしているように見えますか?」
迦浮華は余裕に見せたつもりの半笑いが、逆に気持ち悪かったかなと、自分で自分に突っ込んでみたが、ちっさいおじさんはノリが悪すぎるので、気にしないことにした。

「私も閉ざしたくて閉ざしているのではないですよ。自分のことを理解してくれる人なら、自分の本当の気持ちを正直に話しますよ。そうでない時には閉じてますけどね」
あれ!私ったら、何をぺらぺーらと喋っているのだろう。迦浮華は自分の口からするすると出てくる言葉に、自分を疑った。

「それからそれから…?」

あのね、おじさん…と目の前にいる得体の知れないちっさいおじさんに、少しイライラしている自分に気がついて、努めて冷静に迦浮華は答えた。

「私は今日、海に行きたかったんです。でも車が故障してしまって…」

「ここは特別に秘められた場所なんだ。他のやつらには見えないよ」

また訳の分からないことを言うおじさんに、今度こそ、無駄口叩けないようにびしっと言ってやろうと、迦浮華は眉間に皺を寄せて言った。

「人と人の関係って、距離感が大事なのよ。一気に訳の分からないこと言って、距離を縮めてくるような、そんなデリカシーのない人は、最初からお断りです」

「何を尖っておる。喋りかけてきたのは、あんたの方じゃよ」
ちっさいおじさんは笑いを笑いを堪えながら言った。

え?尖ってるって?そんなわけないよ。極めて冷静に話してるのに。こんな失礼な店、今すぐに出て行ってやる…と言おうとして、今、自分が置かれている状況を思い出した。車が故障しているんだった。迦浮華は絶望感溢れる泣きそうな目で、もう一度ちっさいおじさんの方に向きなおして、頭を下げて言った。

「私、車が動かないので修理してほしいんです。このままでは家に帰れないので…」
「車ならもうとっくに直っているよ。その前にご機嫌直さなきゃね!」
ちっさいおじさんがそう言うのが早いか否か、中からひつじの着ぐるみ姿のメイドが、迦浮華のテーブルにコーヒーを差し出した。

「お待たせしました」
「ひー!あなたは人間?それともひつじ?」
迦浮華はつい、ぽろっと本音で聞いてしまった。

「いいえ!私はこの店のマスターの執事です」
「え!ひつじが執事??」
上手い!一本!と叫びたくなるのを必死で抑えて、迦浮華はペコリ頭を下げて、コーヒーを口にする。その瞬間、あまりの驚きに体が仰け反った。

なんだ!このコーヒーは…。知ってる味がする。しかもとても懐かしい。昔、お父さんが入れてくれたインスタントコーヒーの味だ。珈琲の粉を小さじで三杯、お砂糖二杯。幼かった迦浮華には、父が淹れてくれるこのコーヒーが何よりのご褒美だった。すっかり忘れていた懐かしい味に、不覚にもほろりと泣いてしまいそうになる。

「何で知っているの?」
「何をですか?」
「私のお父さんとの思い出の味を」
「少しずつあなたに近づいて視えたからです」
「視えた?」
「あなたの心が泣いていたから」
ひつじのメイドは営業用に作られた笑顔で「ニッ」と笑って見せた。
その顔があまりにも可笑しくて、我慢ができずに迦浮華は大声で笑い出した。

「あはははははははっははっはっひゅん」
「やっと笑ったな」
ちっさいおじさんはボソッとその言葉を残して、しゅるしゅるとどこかへ消えていった。迦浮華が座っていた、木製の椅子の傍に、ボアのひつじのぬいぐるみがそっと横たわっていた。

「さっぱり訳が分からないけど、なんだか懐かしい」
実はこの店、迦浮華が幼い頃、父親に連れられてきた喫茶店にそっくりだった。迦浮華は周りにフルーツがデコレーションされた、少し固めのプリンが大好きだった。父が飲んでいたコーヒーは微妙に甘くて、このプリンとの相性が絶妙にマッチしていた。そういえば、ついでに思い出したんだけど、今朝見た夢も、家族で観に行った、木上大サーカスの演目だったよね…と今更気付いて、妙に納得。

迦浮華はそのぬいぐるみを拾い上げる。背中に羽が生えていた。
「君のあるじはどこに行っちゃったんだ?」
一緒に探してあげたいが、自分の車はまだ…いや待てよ。さっきおじさんが「もう直ってる」って言ってなかった?言ったよ!確かに言ってたよね。

慌てて喫茶店の外に出ると、気温が一気に下がり、木枯らしが吹きすさぶ冬へと、季節が変わってしまっているようだった。一刻も早く家に帰りたい。
愛車に乗り込み、どうか動きますようにと、願いを込めてエンジンをかけてみた。
「かかった!普通にかかった!!これで家に帰れる」
迦浮華はひつじの天使を抱きしめた。すると、ひつじが突然、
「僕の名前は、ラファエル。君と一緒に旅をする」
「え!喋った!!ひつじが喋った」

こんな話、誰が信じてくれるの?あなた、頭おかしくなったんじゃないのって言われちゃうよね…きっと。でもね、本当なのよ。

迦浮華は車を運転しながら、ラファエルに話しかける。

「本当はね、自分に嘘をつくのが一番怖いのよ。嘘を嘘で返した時、自分が一番傷つくの。自分に正直でいたい。いつどんな時も…」

すると、ラファエルはまるで、彼女のことをよく知っている親友のように一言。

「時々、寝言で「ばかやろう!」って叫んでるよね」
間髪を入れず、迦浮華は答える。

「しー👆それは内緒よ」
迦浮華はラファエルの口に人差し指を押し当てた。

さそり座の魅力は何といっても、決してすべてを見せない秘密めいたところにあります。自分の本質は見せないけれど、鋭い洞察力で、人の本音の部分にグググと迫る。本質をついているからこそ、秘密の共有ができ、信頼に繋がる。いったん自分の懐に入れると、大切に関係性を築き、とことん相手を大切にします。
自分の本当の気持ちに触れる。その深い感情を知った時、蠍座特有の「再生」が可能となります。外側からどんなに圧力をかけられても、自分自身に正直に嘘をつかずにいられる状態が、蠍座のベストポジションです。
次なる第9番目の部屋には、たくさんのパラレルの扉が現れます。その部屋をひとつひとつ開き、世界を拡げていくことが、次なる部屋の主人公の使命です。

蠍座解説



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