『食料品だけ0%』という発想は、正しい減税なのか
前日にシミュレーションした「食料品の消費税0%」について、飲食店に多大な負担がかかることを確認しました。
そのとき、減税された場合は飲食店にとっては、現行の課税10%より有利になるのだろうか、という疑問が湧きました。
そこで、現状の飲食店の状況と比較するために、
農家の利益を90万円に固定し、消費者に届く金額を330万円に設定
(前記事と同等の条件)
する前提でシミュレーションを行いました。
[シミュレーション]
【前提条件(税込ベース)】
消費税率:10%
農家の仕入:110万円(税込)=100+①支払消費税10万
農家の出荷価格:209万円(税込)=190+②消費税19万
飲食店の経費:110万円(税込)=100+③支払消費税10万
飲食店の販売価格:330万円(税込)=300+④預かり消費税30万
*②は農家側は預かり消費税
飲食店は支払い消費税
【取引時】
農家 → 飲食店:209万円(税込)=190万円+②預かり消費税19万
飲食店 → 消費者:330万円(税込)=300+④預かり消費税30万
【申告後】
農家:
預かり消費税:19万円
納税額:②預かり消費税19万円 − ①支払消費税10万 = 9万円
飲食店:
仕入消費税:19万円 → 控除済
預かり消費税:30万円
納税額:④預かり消費税30万円 − 支払い消費税(② + ③) = 1万円
(端数調整)
【最終損益(税込ベース)】
農家売上:209 − 仕入110 = 99万円
納税:9万円
最終利益:90万円
飲食店売上:330 − 仕入209 − 経費110 = 11万円
納税:1万円
最終利益:0万円(端数考慮で概算)
前日に計算した非課税・0税率の場合と比べると、
農家
・非課税:90万円
・0% :90万円(※価格転嫁で相殺)
飲食店
・非課税:▲40万円
・0% :▲30万円
今回の条件では、なんと減税した場合(非課税・免税ともに)でも、飲食店にとっては逆に負担が増えるという結果になりました。
一方で、小売業については現状が8%課税であるため詳細は省きますが、免税取引にすれば有利になることが確認できました。
逆に、非課税取引を採用すると小売業も現状より苦しくなるという結果となります(今回の設定条件に基づくシミュレーションであり、前提金額や割合を変えると多少前後する可能性があります)。
あの党首討論は、何を議論していたのか
ここまで整理してみると、「免税取引」と即答できなかった方々が、日本をリードしていく立場にあるのだと思うと、正直なところ憂鬱な気持ちになる。
ご自分でご計算されないまでも、助言が賜れる状況にはあると思うのだが。
そして、ここまで必死に考えさせられたにもかかわらず、結局は本気で実行されるとは思えない――そんな印象の残るシミュレーション結果でもあった。
そこで、ここからは計算の話を離れ、政策そのものについて感じたことを書いておきたい。
食料品の消費税0について思うところ
ここまで複数のシミュレーションを行ってきて、消費税を実際に負担する事業者の立場から見ると、「食料品の消費税0%」という政策は、あまり筋の良いものではないのではないか、という感想を持った。
もちろん、生産者の価格転嫁や流通段階の設定次第で結果は前後し得るため、これ以上は数値そのものをもって断定的な批判は行わない。
そこで最後に、この政策を最初に聞いたときに抱いた、率直な違和感だけを書いて締めたいと思う。
「食料品の消費税を0%にする」と聞いたとき、
正直に言えば、「食べ物さえ与えておけば国民は生きていけると思っているのだろうか」という感覚を覚えた。(もちろん、実際にそう考えているわけではないと分かった上で、それでもそう感じてしまった、という意味である。)
そもそも私はインボイス制度の廃止を望む立場であり、消費税をさらに複雑にいじること自体に強い抵抗感がある。
それを差し引いても、「食料品だけ」という限定の仕方には、どこか戦後の配給制度のようなイメージすら重なって見えてしまった。
一昨年から昨年にかけて議論された「103万円の壁」は違っていた。
あれは、当時の物価や賃金水準を前提に設定された制度が、現実と乖離したから見直すという、極めて筋の通った話だった。
一方で、
「食料品に限り」
「しかも期限付きで」
消費税を下げる、という話になると、どうしても印象が変わる。
苦しいなら、食べ物だけは安くしておいてやる。
ただし、それは正当な減税ではないから2年間だけだ――
そんな、どこか「恵んでもらう」ような感覚を覚えてしまうのだ。
正当に設計された税金であれば、払うべきだと思う。
しかし、正当性に疑問のある税や制度が積み重なっているのも、また事実ではないだろうか。
もし消費税10%そのものが不当だというのであれば、
食料品だけを切り出すのではなく、全体を8%に戻すなど、もっと正面からの議論があっていい。
今回の政策は、どうしても選挙向けの詭弁のように感じてしまった。
これは、今回の整理を通じて新しく思いついた考えではない。
もともと感じていた違和感が、計算と検証を経て、よりはっきりした、というだけだ。
それだけに、
こうした場当たり的にも見える政策に、党首討論という貴重な時間が何度も費やされてしまったことを、残念に思わずにはいられない。
もう少し、腰を据えて考えられた政策を掲げてほしい。
それが、今回のシミュレーションを通じて、改めて強く感じたことだった。
また、解散総選挙があるということで僕が各政党に対して最近考えたことと他に気になった記事をまとめてます。
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