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任意なら全員マスク着用はあり得ない

10年以上ぶりに、冬の長野に帰ってきた。
懐かしさなどのノスタルジーが一旦落ち着いて目につくのが、一部の接客業の店舗の“全員マスク”という光景への違和感だ。
日本人は本当にマスクが好きだ。
いや、好きというより、「そうするように仕向けられている」と言った方が近い。
スーパー、コンビニ、銀行などでは従業員が全員そろってマスクを着けている店が多い。

その光景に、僕は底の知れない違和感、不吉さを覚えた。
もちろん、全員がそうではない店も存在している。その事が逆に、一人の例外もなくマスクを着用している店への違和感を際立たせる。
インフルエンザが流行っていることも知っている。
しかし企業が従業員にマスクを“強制”することは法律上できないのだから、
100%という数字そのものが異常なのだ。
何が起きているかは簡単に想像がつく。
きっと朝礼でこう言うのだろう。

「風邪が流行っていますので、マスクの着用をお願いします。
高齢のお客様も多いですし、年末で忙しいのでシフトに穴を開けるわけにはいきません。」

この一言で、従業員は実質的に選択肢を失う。
日本では「お願い」が「ほぼ命令」になるからだ。
この段階で企業の側が着用が任意である事をしっかりと説明しない限り、従業員の側に実質的に選択肢が無くなるというのが日本の特徴だ。

僕が従業員だったとして、「義務ですか?任意ですか?」と聞いたとする。
義務だと言えば会社がアウトなので、絶対に言わない。
「できればお願いしたいですね」
「お客様に迷惑がかからないように」
こう言いながら、決して「任意です」とは言わない。
任意と言ってしまった瞬間に、全員マスクは維持できなくなるからだ。
つまり、日本の企業は
コンプライアンス違反を避けながら、
実質的には強制している。
その構造に、僕はとてつもなく嫌な感触を覚える。
理由を整理するとこうだ。
・客のクレームが怖い(売り上げのため)
・イメージが大事(売り上げのため)
・欠勤してほしくない(売り上げのため)
・強制とは言えない(売り上げのため)
売り上げのためなら、従業員の人格や権利、論理性は後回しなのだ。
従業員には着用しない権利がある。
法律上、誰に文句を言われる筋合いもない。
では、その権利を使ってマスクをつけずに働いたらどうなるか。
上司は間違いなくこう言う。
「〜さん、マスクつけてくださいね。」
同僚はこう言うかもしれない。
「何でマスクしないの?周りに迷惑じゃない?」
この瞬間、お願いは強制に変わる。
同調圧力という名のハラスメントだ。
もし客が「何でマスクしていないんだ!」と怒鳴ったとしても、
僕ならこう返す。
「任意だからです。
あなたの不快感だけで他人を強制する権限はありません。
もしあなたの理屈が通るなら、日本中の全店舗がマスク強制に従う必要があります。
それはあなた一人が国家より上位の権限を持つという話になります。」
これが論理として正しい。
だが日本では、この返しそのものが“異端”扱いになる。
さらに問題なのは、企業がこれに乗る場合だ。
「二度とこういうことがないように徹底します。着用させます。」
と言った瞬間、企業は 任意を超えて強制する意思を明確化 したことになる。
完全にアウトだ。
ではなぜ僕はここまで“気持ち悪い”と思うのか。
理由ははっきりしている。
企業が従業員を客より下に置き、
従業員もまた“従う側”としての立場に疑問を持っていないからだ。

この中に流れる精神性と奴隷のそれとにどれほどの違いがあるのか?
日本社会には長く家父長制の文化があり、 責任が上から下へと流れる構造が残っている。
その結果、
・上司が間違っても誰も逆らわない
・空気の方が法律より強い
・「同じであること」が最大の安全保障
・誰も自分で判断しない
こういう風土ができあがっている。
僕はこの空気がどうしても苦手だった。
だから外国を放浪し、最後にフランスに落ち着いた。
フランスは労働者の権利が強く守られている。
企業側の一方的な“お願い”で身体を管理されるなんてことは、基本的に起こらない。
こういう事を言うとすぐに「どの国でも一緒、生きづらいどうこうは結局本人の問題」だとか言う人もいるが、そんな事は知ってる。
フランスだってどこだってその国なりの同調圧力がある。反マスクだとか反日だとかそういうレッテル張りを含めた二元論、全体主義性が嫌なのだ。
久しぶりに戻った長野で、僕が昔感じていた息苦しさが、そのまま目の前に出てきた。
そして改めて思ったのは、
日本の問題はウイルスでもマスクでもなく、
「考えずに従うことを美徳とする文化そのもの」だということ。

人に迷惑をかけないためといえば聞こえはいいが、実際には人によく思われようだとかいう媚びへつらいであり、それによって自分が社会の中で良い席を確保しようというエゴイスティックなものに僕には思える。
これは日本を離れた理由でもあり、今も変わらないと感じた現実でもある。


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