干支のレースと、ネズミの政治
干支は方角や占い、暦などにも使われるが、この暦の順番を決めるに至った競争の伝承がある。
十二支がどうしてこの順番になったのか。
元旦の朝、神のもとへ先に到着した順に、その年の守り役として名を刻む。
よくある寓話だ。子ども向けの昔話として語られることも多い。
これは後世に作られた後付けの話でもある為、様々なバージョンが存在している。
あくまで順番を説明するために創作された話であるため、起源とは無関係であるがこの話、色々と見比べてみると少しだけ毒がある。というか、かなり現代的だ。
勝つのは強い者ではない。
正しい者でもない。
勝ち方を知っている者だ。
まず、順番は以下のようになる。
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥
ネズミの勝ち方(根回し・寄生・すり替え)
一位はネズミだ。最も力の弱いはずのネズミが一位を獲得していることがこの話のキモなのだ。
ネズミは、別の勝ち方をした。
牛の背に乗る。あるいは角の間に潜り込む。そしてゴール直前で飛び降りる。
牛は必死に走っていたのに、最後の一瞬だけ“主語”を奪われる。
歴史に刻まれるのは、牛の努力ではない。ネズミの名前だ。
この勝ち方は、速さでも力でもない。根回しと寄生とすり替えだ。
もっと嫌なところはこれが「当日」ではなく「前夜」から始まっている点だ。
あるバージョンでは、ネズミは最大のライバルである猫に競争の日付に関する嘘を教え、競争の場から消す。
戦う前に敵を排除する。
堂々と倒さない。
出られない状況を作る。
とても現代的なやりくちに見える。
牛の強さと、文明の土台
二位は牛だ。牛は地味で、派手さがない。けれどとにかく早起きをした。もしくは前日の夜からスタートした。そして止まらない。同じペースで淡々と歩く。障害物があっても大げさに戦わない。
ただ真っ直ぐに、渡っていく。だから牛は二位になる。牛は古くから農業に使われてきた。文明の土台にいる者の強さだ。
社会を回す人間の強さにも少し似ている。
目立たないけれど、いないと世界が動かない。
虎は強い。それでも優勝しない
三位は虎だ。虎は強い。
正面からぶつかれば一位を取れるポテンシャルはある。
川があろうが、山があろうが、力で突破できる。現場の実力者だ。
筋を通すこともできる。
敵が目の前にいるなら、迷いなく戦える。
けれど、虎は一位ではない。三位には入るが、優勝者にはならない。
うさぎの軽さと、機転
四位はうさぎだ。ここも面白い。
うさぎは虎ほど強くないし、龍のように空も飛べない。
けれど上位に食い込んでいる。
丸太を使ったとか、筏に乗ったとか、川を渡る工夫をしたというバージョンもある。
つまりうさぎは、筋力で勝ったのではなく、軽さと機転で上位に食い込んだのだ。
流れに乗り、波を読む。
強者がぶつかっている間に、すり抜けて前に出る。
現代でも、こういう勝ち方はある。
龍の徳、蛇の揺れ
五位は龍だ。龍は空を飛べるし圧倒的に一位になっても良さそうなのだが、蛇、もしくはうさぎなどを助けるという徳の高い行動によって順位は五位となっている。
勝つために勝つのではなく、秩序や救いの側に立つ。
だから龍は勝てない。
六位の蛇の話になると、伝承はさらに揺れる。
蛇は狡猾な勝ち方をすることもある。馬の陰に潜み、最後の一瞬に飛び出して順位をひっくり返す。けれど別の話では、馬の方が道草をして遅れただけだとも言う。
さらに別の話では、蛇は龍とセットになる。龍の徳を敬い、先を譲る。
この揺れ方そのものが、宗教的な蛇の象徴性を示しているようにも思える。
姿を変え、役割を変え、正体の定まらない正統性。馬も速いがスタートで出遅れた、もしくは道草を食った事で上位入賞を逃している。
連帯と分断(猿・犬・鳥・羊)
中盤以降はさらに寓話っぽくなる。
普段は仲良しだった猿と犬が喧嘩する話もある。
その喧嘩を鳥が仲裁したバージョンもあれば、猿と鳥と羊は協力しあってゴールし、犬は途中で遊んでいたから遅れたとするバージョンもある。犬は基本的に勝ちに執着がない。
共同体の中で最も簡単に起きるのは、敵との戦いよりも、内部の分断なのかもしれない。
猪突猛進の末路
そして最下位は猪だ。バージョンによって実質一位だったがゴールを通り過ぎてしまった、もしくは道を間違えたまま猛進したという風に分かれるが、とにかく猪突猛進という言葉通りの行動によって負けている。
勢いがある者は強い。
けれど、ゴールを知らなければ勝てない。
そしてネズミの謀略によってレースに参加することのできなかった猫は現代においてもネズミを追い続けている。
干支の起源は中国最古の王朝の殷
干支の起源は古い。紀元前1600年、中国最古の王朝とされる殷(いん)。日本への伝搬の確実な時期は明らかになっていないが、遅くとも6世紀には伝わっていたことが分かっている。
この寓話におけるネズミの振る舞いは非常に政治的だ。
戦いの前に準備をし、当日に強い者ではなく、仕組みを読んでいる者が勝つ。
努力する者ではなく、それらを取り込んで利用した者が勝つ。
最近の世界を見ていると、このネズミの勝ち方を思い出すことが多い。新興宗教などにもこの手法は見て取れる。名のある宗教の分派を語っているが、実際はその本家を敵として憎み、権威だけは拝借して分断統治に使用するというのが常套手段だ。
また、干支が生まれたとされる殷王朝は奴隷制と呪術が盛んであった。
今年2026年は60年に一度の丙午(ひのえうま)の年。うまくその火のエネルギーをコントロール出来ればステップアップが見込めるが、ハンドリングを間違えると厄災にもなり得る。また今年は病の年になるという話もよく聞くので、皆さんお体に気をつけて。
