Block(XYZ)徹底解剖~「決済の民主化」から「金融エコシステム」へ 会計士・IPOコンサルタント視点で読み解く~
■ はじめに:フィンテック・4チェーン
PayPay(米国IPO)→ SoFi(銀行免許を持つフィンテック)→ Robinhood(手数料ゼロ革命)と繋いできたこのシリーズ。
Robinhoodが「投資家・トレーダー」向けのプラットフォームを築く一方で、「個人間の送金・決済」という領域を制覇したのがBlock(NYSE:XYZ)です。
Robinhoodが攻めあぐねる日常の「払う・受け取る」という場面に深く根を張った会社を、公認会計士・IPOコンサルタントの視点から解剖します。
■ 企業概要:白い四角いカードリーダーから始まった革命
2009年創業。Twitterの共同創業者でもあるJack Dorseyと、ガラス細工職人のJim McKelveyが立ち上げました。
創業のきっかけは極めてシンプルです。McKelveyが2,000ドルのガラス製蛇口の売買をクレジットカードが使えないために逃したことがあり、「なぜ中小の個人事業主はカード決済ができないのか」という問いから、スマートフォンに差し込む小さな白い四角いカードリーダー「Square」が生まれました。
これが会社名の由来であり、最初のプロダクトです。
2021年には社名をSquare, Inc.からBlock, Inc.に変更。2025年1月には株式ティッカーもSQからXYZに変更しました。「Block」という名前には、ブロックチェーン・街区(city block)・障壁を取り除く(building blocks)という複数の意味が込められています。
現在、Block傘下のブランドは以下の通りです。
Square:中小事業者向けの決済・POSシステム・ビジネスバンキング
Cash App:個人向けの送金・決済・投資・銀行機能
Afterpay:後払い(BNPL)サービス
Bitkey:ビットコインの自己管理ウォレット
Proto:ビットコインマイニング機材
■ ビジネスモデル:2つのエコシステムが支え合う構造
Blockの最大の特徴は、「売る側(事業者)」と「買う側(消費者)」の両方を自社プラットフォームで囲い込んでいる点です。
Squareは事業者側のエコシステムです。飲食店・小売店・美容院などの中小事業者に対し、カード決済端末・POSレジ・在庫管理・給与計算・融資まで一気通貫で提供します。いわば「お店を開くのに必要なものを全部Squareで揃えられる」という設計です。
Cash Appは消費者側のエコシステムです。2013年に個人間送金アプリとして誕生し、当初は社内でも「お金がかかるだけで意味がない」と廃止論が絶えなかったといいます。しかしJack Dorseyが守り抜き、今やCash Appの月間アクティブユーザーは2025年Q4末時点で5,900万人を抱える同社最大の収益源に育ちました。
この2つのエコシステムを繋ぐ接着剤がAfterpay(BNPL)です。消費者はCash Appで後払いができ、事業者はSquareのチェックアウトでAfterpayを提供できます。
会計士の視点で見ると、この構造は非常に優れています。売る側と買う側の両方から手数料収入が入り、かつ両エコシステムがお互いの利用者を増やし合うネットワーク効果が働くからです。
■ 財務分析:粗利益で見るBlockの本当の実力
Blockの財務を理解する上で重要な点があります。売上高(Revenue)ではなく、粗利益(Gross Profit)を軸に見ることです。
理由はBlockの売上高にはビットコインの売買代金がそのまま計上されるため、売上高の規模は大きく見えても実態の収益力とはかい離が生じるからです。この点はIPO審査でも投資家説明でも必ず論点になる財務表示の問題であり、実務家として強調しておきたいポイントです。
2025年通期の粗利益は103.6億ドル(前年比17%増)に達しました。調整後営業利益は23億ドル(前年比30%増)です。
直近Q4 2025単体では、粗利益が前年同期比24%増の28.7億ドルとなり、そのうちCash Appが33%増の18.3億ドル、Squareが7.5%増という内訳でした。
2025年11月の投資家向け説明会では、2028年までの中期見通しとして粗利益を年率中10%台成長で158億ドルへ、調整後営業利益は年率約30%成長で46億ドルへ拡大するという計画が示されました。
そして2026年2月、Jack DorseyはAIツールの活用を主な理由として全従業員の約40%にあたる4,000人超のレイオフを発表しました。株価はこの発表を受けて約24%上昇しており、市場は人員削減をコスト効率化の好材料として評価しました。
■ Robinhoodとの比較:収益構造の本質的な違い
ここで前回の登場銘柄と並べて整理します。
・収益の稼ぎ方について
Robinhoodは「取引させて稼ぐ」ブローカー型です。取引量が増えるほど収益が上がります。
Blockは「決済のたびに手数料を取る」決済インフラ型です。日常の送金・支払い行為そのものが収益源です。
・ユーザーとの接点について
Robinhoodのユーザーは主に「投資・トレードをする場所」として利用します。株価や市場の動向に関心のある層が中心です。
Blockのユーザーは「お金を送る・払う・受け取る」という日常行為を通じてプラットフォームに根ざします。投資に関心のない層にも広く浸透しています。
・規制リスクについて
RobinhoodはPFOFをめぐるSEC・FINRA規制リスクを抱えており、収益構造そのものが規制変更によって揺らぐ可能性があります。
BlockはCash Appを中心に資金移動業・マネーロンダリング対策規制のリスクがあります。実際、2025年には米国の州規制当局から8,000万ドルの制裁金を受けています。
・競合・補完関係について
BlockのCash AppはRobinhoodの株式投資・送金機能と重複する部分があり、同じユーザー層の取り合いが起きています。
一方でRobinhoodが強い「オプション取引・暗号資産トレード」の領域は、Blockの本業ではありません。
両社は「フィンテックの覇権」を争いながら、それぞれ異なる入口から同じユーザーの財布に近づこうとしているとも言えます。
■ IPO実務視点:Square IPO(2015年)のケーススタディ
BlockはSquareとして2015年11月19日にNYSEに上場しました。IPO価格は$9で、時価総額は約29億ドルでした。当初のレンジ$11〜$13を大きく下回る価格での上場となりました。
IPO実務者として興味深いのは、上場直前にJack DorseyがTwitterのCEOに復帰するという事態が生じた点です。「2つの上場企業のCEOを兼務する」という前例のない状況に、主幹事証券・SEC・機関投資家の全員が懸念を示しました。結果としてIPO価格はレンジ下限をさらに下回る$9に落ち着きましたが、その後株価は大きく回復しています。
「創業者リスク」がIPOバリュエーションに直結した教科書的な事例です。
また、当時Squareは赤字企業であり、「成長性を売り物にした赤字上場」という点ではRobinhoodや多くのフィンテック企業と共通の課題を抱えていました。その後の黒字化までの道筋が、次世代フィンテックIPOの参考事例として現在も使われています。
■ 現在地と今後の展望
2025年7月23日、BlockはS&P500構成銘柄に採用されました。フィンテック企業として市場での地位が確立したことの証左です。
今後の注目点は3つです。
1点目はCash Appの銀行化です。BlockはCash Appを「年収15万ドル以下の世帯向け最高の銀行」にするという目標を掲げています。日常の送金・決済から下から金融サービスを積み上げるアプローチで、銀行免許取得から上へ展開するSoFiとは対照的です。
2点目はBitcoinへの傾倒です。Jack DorseyはBitcoinを「インターネットのネイティブ通貨」と位置づけており、Bitkey・Protoなどのビットコイン関連事業に継続投資しています。この点は他のフィンテック企業とは一線を画す独自のリスク・リターン構造を持ちます。
3点目はAIによる組織のスリム化です。2026年2月の大規模レイオフにより、約10,000人から約6,000人体制へ縮小します。「AIで少人数でもより多くができる」というJack Dorseyの思想が経営に反映された形であり、コスト構造の改善が今後の利益率に与える影響が注目されます。
■ まとめ:4チェーンまでで見えてくるフィンテックの地図
PayPay型:QR決済 × 送金 × エコシステム拡張
→ 国内シェア圧倒・海外展開が今後の鍵
SoFi型:預金 × 貸付 × 金利収益
→ 安定・銀行規制・景気耐性高め
Robinhood型:取引 × 手数料 × サブスク
→ 成長期待・相場依存・規制リスク内包
Block型:決済 × 送金 × エコシステム手数料
→ 日常需要・両面市場・スケールが強み
どの会社も「フィンテック」という同じ言葉で括られながら、稼ぎ方・ユーザーとの関係・規制環境がまったく異なります。
※本シリーズは、フィンテック銘柄を個別に紹介するのではなく、決済、銀行、証券、ネットワーク、エコシステムといった金融機能の連なりとして捉えることを目的とした連載です。
利用者に近いサービス領域から、その背後で取引や信用を支えるインフラ領域までを5社で追うことで、フィンテックの収益構造と競争優位の源泉を、より整理して理解できる構成としています。
個別企業の成長ストーリーとして読むこともできますが、本記事で取り上げた企業が金融インフラ全体のどの地点で価値を生み出しているのかという視点を持つことで、シリーズ全体のつながりがより明確になるはずです。
個別記事を通じて各社の特徴を把握したうえで、全体像や相互比較をまとめて確認したい方は、総集編(リンク)もあわせてご覧ください。
※本記事は公開情報(SEC開示資料・各社IR・報道等)をもとに情報提供目的で作成したものです。特定銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。筆者は公認会計士・IPOコンサルタントであり投資助言業者ではなく、本記事は筆者が関与する法人の公式見解ではありません。無断転載・複製を禁じます。
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