#0092 「エアコンをつけているから、うちは大丈夫」――その社長の油断が、労基署の是正勧告を招くかもしれない理由
〜9月16日 21:00
#0092 |Version V2|文字数: 10,277字|更新日: 2026.08.17
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「うちはオフィスも工場もエアコンが効いているから、熱中症対策なんて現場作業員のいる会社の話だろう」――そう思っている経営者仲間は、正直なところ少なくない。
この記事を読んで、自社の熱中症対策の体制を今日のうちに点検しておけば、労働基準監督署からの是正勧告や、最悪の場合の書類送検、さらには万一労働災害が起きた際に発生しかねない数百万円規模の民事賠償リスクを、未然に防げる可能性がある。
もし今、「うちは空調が効いているから関係ない」と思っているなら、少しだけ立ち止まってほしい。
実は、その"空調が効いている"という状態そのものが、対象から外れる理由には必ずしもならないことが、あまり知られていない。
もしこの記事をスキだけ押して次へ進もうとしているなら、あと少しだけ時間をもらえないだろうか。
ここから先には、印刷会社を営む笹本社長が労基署から何を指摘されたのか、そして同じ地域で先手を打っていた物流会社の宮園社長との違いがどこにあったのか、その具体的な中身が書いてある。
目次
第5章 経営者仲間、印刷会社を営む笹本社長が受けた指摘
第6章 対照的に、事前に手を打っていた物流会社の宮園社長のケース
第7章 独自チェックリスト「熱中症対策・体制整備5段階診断」
第8章 診断してみたら、笹本社長の会社は何点だったか
第9章 今日から始められる3つの実務対応
第10章 WBGT測定・手順書、費用をかけずに整える具体的な方法
第11章 2026年9月開始、業務改善助成金で対策コストを抑える方法
第12章 2026年4月からは、フリーランス・一人親方も対象になるという事実
第13章 この記事を閉じる前に、今日できる最初の一歩
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第1章 「うちはエアコンがあるから大丈夫」――そう思っている社長ほど、見落としていること
真夏の時期になると、経営者仲間の間でも熱中症対策の話題が出ることは増えた。
とはいえ、その多くは「屋外の現場作業員に水分補給を呼びかける」「工事現場に休憩所を設ける」といった、建設業や運送業を営む経営者仲間の話として語られることがほとんどだった。
オフィスワーク中心の会社や、空調の効いた工場を持つ会社の社長からは、「うちには関係のない話」という反応が返ってくることが多い。
ところが最近、ある経営者仲間から聞いた話がきっかけで、この認識そのものが古くなっていることに気づかされた。
「熱中症対策は、もう"義務"になっている。しかも、屋外の現場に限った話ではない」というのだ。
正直なところ、この話を最初に聞いたとき、にわかには信じがたかった。
エアコンの効いたオフィスや、空調設備のある工場であれば、熱中症とは無縁だと考えるのが、これまでの一般的な感覚だったはずだ。
しかし調べてみると、2025年6月に施行された制度改正によって、この感覚そのものが、すでに時代遅れになりつつあることが分かってきた。
第2章 2025年6月、静かに変わった労働安全衛生規則の中身
2025年6月1日、改正された労働安全衛生規則が施行され、暑熱環境下での作業を行う事業者に対して、熱中症予防のための措置を講じることが、罰則付きで義務化された。
この改正は、企業の規模を問わず、すべての事業者に適用される。
義務化の中身は、大きく分けて「見つける」「判断する」「対処する」という3つの段階で構成されている。
「見つける」とは、熱中症のおそれがある労働者の異変を、早期に発見するための体制を整えることを指す。
作業中に体調の異変を感じた労働者本人が、周囲や上司にすぐ報告できる仕組みや、周囲の人間が異変に気づいた際に連絡できる体制を、あらかじめ整えておく必要がある。
「判断する」とは、その異変が熱中症の疑いによるものかどうかを、現場の担当者が適切に見極められるようにすることを指す。
そして「対処する」とは、熱中症の疑いがあると判断した場合に、作業を中断させ、身体を冷やし、必要に応じて医療機関へ搬送するといった、具体的な応急措置の手順を、あらかじめ文書として整備しておくことを指す。
これまでは「暑いから気をつけよう」という、いわば精神論・努力目標の範囲にとどまっていたものが、この改正によって、体制の整備そのものが法律上の義務へと格上げされた。
厚生労働省がこの改正に踏み切った背景には、熱中症による労働災害での死亡者数が、近年高止まりを続けてきたという実態がある。
呼びかけや啓発だけでは実効性に限界があると判断され、体制そのものを義務化するという、踏み込んだ形の規制へと舵が切られた。
夏の平均気温そのものが年々上昇を続けている中で、この流れが今後さらに緩む可能性は低いと見ておいた方がよいだろう。
つまり、実際に熱中症が発生したかどうかにかかわらず、こうした体制や手順書が整っていないこと自体が、すでに法律違反となり得る状態に変わったということだ。
第3章 「屋外の現場だけ」ではない、対象範囲の本当のライン
この改正でもっとも見落とされやすいのが、対象となる作業の範囲だ。
義務化の対象となるのは、WBGT値(暑さ指数)が28以上、または気温が31度以上の環境下で、連続して1時間以上、あるいは1日に合計4時間を超えて行われることが見込まれる作業だ。
WBGTとは、気温だけでなく、湿度や輻射熱(日差しや周囲からの熱の影響)まで含めて算出される、熱中症リスクを測るための指標であり、単純な気温計の数値よりも実態に近い危険度を示すとされている。
ここで重要なのは、この条件が「屋外か屋内か」を区別していないという点だ。
空調設備のあるオフィスであっても、空調の効きが弱いエリアや、大人数が集まる会議室、あるいは印刷機や厨房機器のように熱を発する設備が近くにある作業場所では、WBGT28以上・気温31度以上の環境が、実際に発生し得る。
倉庫や工場の中でも、搬入口付近や、空調の届きにくい高所での作業、厨房やクリーニング工場のように高温多湿になりやすい職場は、いずれも対象となり得る典型例だ。
「うちは屋内だから関係ない」「エアコンがあるから対象外だ」という判断は、実際の温度・湿度を測定しないままの思い込みにすぎない可能性がある。
制度上求められているのは、こうした思い込みではなく、実際にWBGT値を計測し、その結果に基づいて対象作業かどうかを客観的に判断することだ。
第4章 罰則は「事故が起きてから」ではなく「体制がないだけ」でも科されるという事実
この制度改正でもう一つ見落とされがちなのが、罰則が科される条件だ。
多くの経営者仲間は、「実際に労働者が熱中症で倒れるなどの事故が起きなければ、罰則の対象にはならないだろう」と考えている。
しかし実際には、義務付けられた体制や手順書が整備されていないこと自体が、労働基準監督署による指摘の対象となる。
違反した場合の罰則は、行為者本人(現場の責任者など)に対して6か月以下の懲役または50万円以下の罰金であり、両罰規定により、法人に対しても50万円以下の罰金刑が科される仕組みになっている(法人に懲役刑が科されるわけではない)。
さらに、罰則の適用に至らない段階であっても、労働基準監督署による立入調査(臨検監督)で不備が見つかれば、是正勧告や指導が行われる。
是正勧告そのものに直接の罰則はないが、指摘された内容を放置し続ければ、より重い行政指導や、最終的な書類送検に発展するリスクが高まっていく。
加えて、万一実際に労働者が熱中症で重篤な状態に陥った場合、事業者には安全配慮義務違反を理由とした民事上の損害賠償責任が生じる可能性がある。
こうした民事賠償は、後遺障害の程度や逸失利益の算定によっては、数百万円から一千万円を超える規模になることも珍しくない。
つまり、この制度で本当に問われているのは、「事故が起きたかどうか」ではなく、「事故が起きる前に、必要な体制を整えていたかどうか」という一点なのだ。
労働基準監督署の臨検監督は、必ずしも熱中症対策そのものを目的に行われるとは限らない。
長時間労働や未払い残業代など、別の労務問題をきっかけに調査が入った際、あわせて熱中症対策の体制についても確認される、というケースが実際に増えている。
「熱中症対策だけを理由に調査が来ることは少ないだろう」と油断していると、思わぬ場面で不備を突きつけられることになりかねない。
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