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なぜ絶版の本が「個人送信」から消えるのか? 「著作権等管理事業者による管理」という隠れた除外基準

2026年4月22日、国立国会図書館デジタルコレクション(以下、デジコレ)の「個人向けデジタル化資料送信サービス」の対象資料が、突如として約7万点減少し、館内限定公開へと切り替えられるという出来事がありました。この事案をきっかけに、送信対象資料の選定基準、特に「著作権等管理事業者が著作権を集中管理している場合に除外される」という基準に強い疑問を抱き、調べてみることにしました。

本記事では、その調査結果と、現在の制度が抱える課題についてまとめています。

※4月22日の事案についての概要は、以下の過去記事をご参照ください。


1.デジコレの公開基準と「除外手続」

まず、デジコレの現状を整理してみます。デジコレの対象資料には、以下の3つの区分があります。

  1. インターネット公開資料: ログインなしで誰でも閲覧可能

  2. 送信対象資料(個人送信・図書館送信): 入手困難な資料が対象

  3. 国立国会図書館内限定資料: 市場で入手可能な資料などが対象
    このうち、どの資料が「送信対象(入手困難)」となるかを決めるプロセスは「除外手続」と呼ばれます。

2025年 11月25日「出版物の除外・確認手続に係る説明会」デジタル化資料送信サービスに係る除外手続より https://www.ndl.go.jp/event/events/202511pub_seminar

この手続きの根拠となっているのが、「国立国会図書館のデジタル化資料の図書館等への限定送信に関する合意事項」です。簡単に言えば、送信対象の候補となった資料が、本当に基準に当てはまるのかを複数のステップでチェックし、最終的に残ったものだけが配信される仕組みです。

さらに、送信対象資料が個人向けにも一気に拡大された経緯については、こちらの資料に詳しく載っています。

https://www.jiima.or.jp/wp-content/uploads/pdf/まとめ_デジタル・ネット時代に追いつくための2021年著作権法改正.pdf

2. 大量切替の裏に「管理事業者」の影

「絶版であれば送信対象になる」というルールは広く知られていましたが、今回の7万点減少に際して、多くの利用者が抱いたのは「なぜ明らかに絶版の資料まで館内限定になったのか?」という疑問でした。

私が国立国会図書館へ問い合わせたところ、返ってきた回答は以下の通りでした。

「当該資料は、著作権が著作権等管理事業者により管理されている場合に該当するため」

https://note.com/euqitsatnaf/n/nb1919a467b2f

この「管理事業者による管理」という除外基準を、私は当初把握しきれておらず、「そういう事情があるのか」と一旦は受け止めました。しかし、確認を進めるうちに、その実態が見えてきました。

日本文藝家協会のリストとの合致

まず、切替の対象となった資料のうち、著作権等管理事業者による管理がどの程度を占めるのかを確認しました。

切替となった資料の点数自体は公表されていますが、具体的なリストは明らかとなっていませんでした。
こうした中、国立国会図書館の公開データを繋ぎ合わせ、一覧を作成する有志が現れました。

フシハラさんに公開いただいたデータをありがたく使い、今回の切替の主な原因と考えられる、日本文藝家協会のリストとの突合を行いました。この結果、少なくとも4万点を超える資料が日本文藝家協会に管理されていることを理由に切り替わっていたと判断できました。
なお、今までも同じ基準で運用していたはずなのに、今年一気に削除された理由については未だ不明です

3. なぜ「入手困難」なのに除外されるのか?

ここで、大きな疑問が湧いてきます。

「入手困難な資料なのに、著作権管理団体が管理しているとなぜ送信対象から外されるのか?」

絶版かどうかを調べ、入手できるのであれば送信対象資料から外す、という手続き自体は素直に理解できます。ですが、そこに著作権等管理事業者が出てくる理由は、どうも納得できません。

この理由について、4月22日の事件が起きてから何度かネットで探していたのですが、ようやく見つけることができました。2020年9月9日に開催された、図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム第2回の議事録です。著作権法を専門とする弁護士・福井健策委員が、まさにこの点について質問しています。2012年の国会図書館のデジタル化資料限定送信に関する合意事項に触れつつ、著作権等管理事業者により管理されている場合に除外されるのはなぜか、という趣旨の質問をしています。

【福井委員】
これは学著協さんになりましょうか,あるいはどなたでももしお分かりであれば教えていただければと思いますが,平成24年の国会図書館のデジタル化資料限定送信に関する合意事項がありますね。何度か登場しており,焦点だと思うのですけど,その中で,こうした著作物が著作権等管理事業者により管理されている場合には,除外申出があったら除外するという合意事項がございますね。どうして,著作権が集中管理されていると,入手困難資料であるにもかかわらず,送信から除外されるのか,実はロジックがよく分からなかったものですから,もし御存じの方がいらっしゃれば教えていただければと思いました。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/toshokan_working_team/r02_02/

これに対して、学術著作権協会は、正確な事情は把握していないとしたうえで、著作権等管理事業者は包括許諾によって使用料を得ており、それを著作権者に分配しているため、絶版等資料として送信や複製物の提供ができることになるとその使用料に影響があるのではないか、という推測を示しています。

【学術著作権協会(石島氏)】
正確な事情というのはちょっと私も把握はしていないのですけれども,恐らくは,例えば絶版等資料に該当するのだろうというふうに考えられる著作物であっても,著作権等管理事業者においては,包括許諾によって使用料を得ておりまして,それを実際,著作権者の方に分配しているというところはありますので,これを絶版等資料であるということで,送信あるいは複製物を提供できるということになりますと,この使用料への影響があるだろうというようなことが,背景としてあるのかなというふうに,ここは推察するところです。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/toshokan_working_team/r02_02/

私が確認した限りでは、この議事録以外に根拠資料は見当たりませんでした。

つまり、この除外基準は「絶版かどうか」という利便性の問題ではなく、「著作権管理団体の利権(使用料の分配構造)を守るため」に存在している可能性が高いのです。

4.不透明な「合意事項」の成立過程

では、この「管理事業者による集中管理を除外基準とする」というルールは、いつ、どこで決まったのでしょうか。

その源流は、2011年の文化審議会著作権分科会による「まとめ(案)」にあります。

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会による「国立国会図書館からの送信サービスに関する権利制限規定に係るまとめ」では、送信サービスは、入手困難な資料に限定することが大前提であり、著作者や出版者の利益を不当に害さないよう留意することが明示されています。この時点では、方向性だけが示され、除外基準そのものはまだ形になっていませんでした。

その後、明確にされなかった点を実務レベルに落とし込むために、「資料デジタル化及び利用に係る関係者協議会」において協議が引き継がれ、具体的な送信対象や運用ルールが議論されました。その結果として2012年に生まれたのが、「国立国会図書館のデジタル化資料の図書館等への限定送信に関する合意事項」です。

https://www.ndl.go.jp/publication/history70
リンク先から先にデジコレに飛び、52番のリンクから該当文書をダウンロードできる

この合意事項には当初から、除外基準として「当該資料又は同内容の著作物の著作権が著作権等管理事業者により管理されている場合」が盛り込まれています。これは、前年のまとめにあった「著作者、出版者の利益を不当に害することのないよう留意する」という文言を、実務の基準として具体化したものと考えられます。

ただし「著作者、出版者の利益を不当に害することのないよう留意する」ことが、なぜ、著作権等管理事業者による集中管理の有無という形に落ち着いたのか、肝心の経緯については関係者協議会の議論が公開されていないため、確認できませんでした。

2020年に福井委員が疑問を投げかけ、学術著作権協会が推測を交えて答えた内容について、2012年まで遡って経緯を確認しに行ったはずが、また戻ってきてしまいました……。残念ながら「推察」ベースの回答が、現在確認できる唯一の理由となっているのです。

関係者協議会の議論を確認できない、という点については、図書館情報学を専門とする鈴木康平氏の論考でも問題視されています。

関係者協議会については、透明性に関する課題も挙げられる。関係者協議で行われた議論について、公開された議事録等は見当たらず、どのような議論が行われた結果、合意事項がまとめられたのかが不透明である。審議会や国会であれば原則として公開された場で議論されるために、議論の場に参加する当事者以外の関係者もその動向を確認することができ、その議論に対する何らかのアクションを起こすことも可能となるが、関係者間の閉じた場で議論が行われ、その結果のみが提示されることとなると、議論の当事者以外の関係者の意見が反映されないことになってしまう。

https://researchmap.jp/koheisuzuki/published_papers/40646254

5. 除外基準が抱える「歪み」と課題

ここまで調べてきて、現在の制度には少なくとも3つの課題があるように思えます。

① 半永久的な「利用不可」状態

管理事業者による集中管理が続く限り、たとえ市場で流通していない絶版資料であっても、個人送信の対象にはなりません。しかも、著作権保護期間は著作者の死後70年です。つまり、「再出版の可能性」や「実際に市場で利用可能か」といった実態の判断とは切り離されたまま、長期間アクセス不能の状態が続く可能性があります。

本来、デジタルアーカイブによって活用されるべき資料が、制度上の理由によって実質的に死蔵される。これがあるべき姿なのでしょうか。

② 利用者不在の意思決定

鈴木康平氏も指摘するように、関係者協議会のメンバーは権利者団体、出版社団体、図書館関係者が主であり、「利用者側の代表者」が含まれていません。 このパワーバランスの非対称性が、権利保護を過剰に優先し、利用者の利便性を二の次にする論理を生んでいるのではないでしょうか。

関係者協議会については、その構成に関する課題が挙げられる。2021年10月現在の名簿に記載された構成員には、権利者団体、出版社団体、図書館関係団体の代表者が含まれているが、利用者側の代表者は含まれていない
(中略)
権利者団体、出版社団体の代表者は、著作権者側に立った意見が中心となることが予想され、図書館関係団体は、利用者寄りである可能性はあるものの、公的な施設であるという性質から、利用者と権利者との間の中立的な意見となることが予想される。そうすると、合意内容について、利用者側に立った意見も十分に反映されていると言えるのか、疑問が生じる

https://researchmap.jp/koheisuzuki/published_papers/40646254

③ 「合意事項」の妥当性

現在の除外基準を支えているのは、法律そのものではなく、関係者間の「合意事項」です。現在の運用は固定されたものではなく、社会状況や利用実態に応じて見直される余地があります。実際、この合意事項は2012年以降、複数回改定されています。少なくとも、

  • どのような議論で「合意事項」が成立したのか

  • なぜ管理事業者による集中管理を除外理由としたのか

  • 現在もその合理性が維持されているのか

これらについて、より透明性の高い説明が必要なのではないでしょうか。

今回の7万点切替は、デジタルアーカイブのあり方そのものを問い直す出来事だったように思います。「誰のためのデジタルアーカイブなのか」そして、「どのような基準で、誰がアクセス可否を決めているのか」改めて議論されるべき段階に来ているのではないでしょうか。

③の「『合意事項』の妥当性」については以下の記事に続きを書いています。


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