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扉の六人

昔住んでいた実家の廊下に、キッチンへと続く木の扉があった。色はくすんだ茶色で、節がいくつも浮き出ていて、昭和の家ならどこにでもありそうな扉。

駄菓子菓子、ひとつ大きな特徴があった。木目が人に見えるタイプの扉なのだ。

しかも一人ではない。よく見ると、六人の男女が並んでいる。

男三人は横並びで、怒りに満ちた表情を浮かべているのに、トランプのキングのような髭を蓄え外巻きカールを決めている。今にも「ルネッサーーーンス」と言い出しそうな風貌で、全くもって怒りに説得力がない。真ん中の男は、マリオのキャラクターのドッスンに似ている。

一方女性三人は、ニヤリと大きな口をあけて笑っている。超ロングヘアをなびかせ何かを見抜いたような顔で、三人横並びでじっとこちらを見ている。決め台詞は「見てるわよ」。私が脳内再生しているので、結局私の決め台詞になる。

一度そう見えると、もう六人にしか見えない。

ある夜、冷蔵庫のプリンをこっそり食べようとした。三個パックのプリン。私たち三姉妹用に母が買って来てくれたプリンだ。実は夕方、私はひとつ食べている。

キッチンへ行こうとドアノブに手をかける。扉に目をやると、やはり六人が並んでいる。ニヤリと笑うロングヘアの女性三人が「やるの?」「やるのね?」「本当に?」という顔をしている。ドッスンの男は、完全に通せんぼの姿勢だ。

うん、まぁいいか。

私はそっと扉を開けて、キッチンへ行きプリンを食べた。

美味しかった。

自室に戻る時、扉の六人にやたら見られている気がした。六人の監視を振り切ったものの罪悪感が残って、翌日「私のプリンがないー!」と叫ぶ姉に正直に白状した。罰として、プリンを買いに走らされた。

扉の六人からの視線。もちろん全部、木目の都合だ。いや、勝手に六人に見えている私の都合か。

それから何十年も、私は扉の六人に見守られて育った。大きな悪いことはしていない。陰でこそこそするのも、なんとなく気が引けた。廊下の途中で六人に見られている生活は、精神的セコムだった。

古くなった実家を取り壊すことになった。引っ越しの日、私は最後にその扉の前に立った。やっぱり六人並んでいる。ニヤリ女性も、ドスンの外巻きカール男も、いつも通りだ。

「今までありがとうございました」

私は、人生で初めて、木目の集団にお礼を言った。

今の私は特別立派でもないけれど、陰で悪いことはしない、根は真面目な大人になった。親のしつけというより、六人による集団監視の成果だと思っている。

そして、木目から六人の人格を作り上げてしまうほど、どうでもいい妄想を膨らませる癖も見事に育った。

今でも時々、木目を見ると「あ、二人くらいいるな」と思ってしまう。

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こちらの企画に参加します!

コニシ木の子さん、本田すのうさん。
「なんのはなしです家」提出します。
すのうさん、今回も編集本当に大変だと思いますが、よろしくお願いします!

どんなZINE「の号」になるのか!?今から楽しみです♪

おまけ カラーver.

見出し画像は、こちら↑の扉写真からAI生成しました。
引っ越しの日に撮った扉の六人です。

なかなか忠実!
皆様のお家にもいるのではないでしょうか。
木目に一人や二人…
えへへ。

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