マレーシアでは仮病が当たり前? 制度が生む「休みの逆転現象」
マレーシアで働くと、日本人にとって理解しづらい制度に出合います。
それが「MC(Medical Certificate)」、いわゆる病欠証明書です。
マレーシアでは、体調不良の際に医師からMCを発行してもらい、それを会社に提出すれば、有給休暇とは別枠で休むことができます。いわば「公的に認められた病欠制度」です。
日本では、病気の場合でも有給休暇を使って休むのが一般的ですが、マレーシアでは病欠は有給とは別扱いとなり、有給を使うことはありません。
ところが、この制度が昔から問題になっています。
■ 4人に1人が「仮病」で休んでいる
マレー語紙『Utusan Malaysia』によると、驚くべき調査結果が3月24日に報じられていました。
マレーシア雇用主連盟(MEF)の調査では、
約1,749万人の労働者のうち、400万人以上(26%)が「病気を装ってMCを取得した」と認めている
つまり、4人に1人が仮病で休んだ経験があるという計算で、
さらに、57%の雇用主が「理由のないMC」に直面した経験あり
という結果も出たそうです。
これは個人のモラルも問題なのですが、それよりも制度そのものが歪みを生んでいると見るべきでしょう。
■ マレーシアの休暇制度は「二重構造」
マレーシアでは休暇は大きく2種類あり、雇用法で明確に規定されています。(年間あたりの日数)
病欠(MC)
勤続2年未満:14日
2〜5年:18日
5年以上:22日
入院の場合:最大60日
有給休暇
勤続2年未満:8日
2〜5年:12日
5年以上:16日
例えば勤続2年未満でも、年間で病欠14日+有給8日=22日が取れる。
さらに、祝祭日も年間26日あり、マレーシアでは「かなり休める国」という構造になっているのです。
■ なぜMCが悪用されるのか
MCが悪用される本質はマレーシアではMCが非常に強い効力を持っていることにあります。
MCがあれば欠勤は基本的に正当化される
企業側は拒否しにくい
一方で、「有給は事前申請が必要」、「理由説明が求められる」、「承認されないこともある」。日系企業でもローカル社員の有給取得を難しくしているところもあって、その結果、「有給よりMCの方が簡単」という逆転現象が起きているのです。
そのため、MCは「水戸黄門の印籠」と化し、
理由説明が不要
突発的に休める
上司と揉めない
といった最も摩擦の少ない休み方を取れるようになってしまっている。
さらに、こういった状況を見越してビジネスを展開しているのが、偽MC発行業者です。
各クリニックではMCのフォーマットはそれぞれ異なりますが、業者は地域の一通りのフォーマットを取得しているらしく、「〇〇クリニックのフォーマットでお願い」と頼めば、それで作ってくれる。
しかも、1枚数十リンギと安く作ってくれるので、「利用者」からすると重宝します。
また、クリニックの医師や職員が勝手に発行して売るケースもみられ、もちろん文書偽造容疑で摘発されることもよくあります。
最近では、コンピューターで自分で偽造もできるため、何らかの方法でフォーマットが手に入れば、いくらでも自分で作れるのです。
■ 実際の現場で起きていること
僕が以前勤務していた会社でも、繁忙期だったので女性従業員からの有給申請を却下したところ、当日になってMCを提出されたことがありました。
正直、呆れてしまいました。あれはどこからかMCを買って提出したんでしょう。これやられるとまったく信用がなくなってしまうのは本人はわからないのか。。。
また、現在の会社でも、もう辞めた日本人(?!)の若手社員がMCを連発。不審に思って確認すると、実際にはオートバイで数百キロ離れた場所へ出かけていたというケースもありました。
こうした行為は当然ながら倫理的に問題があります。しかし同時に、MCが提出されると会社側は基本的に拒否できないという制度が、それを可能にしてしまっているのも事実なのです。
では、会社側は何もできないのかというと、そうでもありません。やり方次第です。
現在のうちの会社では、
MCの取得頻度が高い社員に対して面談を実施
指定クリニック以外でのMC取得を禁止
といった対応を取っています。
本来であれば、さらに一歩進めて、取得履歴のデータ化、傾向分析、モニタリング、医師との面談まで行うべきですが、そこまで整備できている企業はまだ多くありません。
また、MCが電子化され、クリニックから会社へ直接送信される仕組みが整えば、少なくとも偽MCの提出は大きく減るはずです。
■ 医療側も「制度前提」で動いている
マレーシアでは、診察に行くと医師の方から「MCいる?」と聞かれることが珍しくありません。もう休むこと前提で診察を受ける人が多いのでしょう。
これは特別なことではなく、制度としてMCが強く機能しているため、医療側もそれを前提に動いているのです。
ただし、実務的にはMCは長く出されるものではありません。
通常は1日か長くても2日程度。3日以上の場合は再診が必要。新型コロナやインフルエンザなどの感染症は3日以上もらえることもあります。
MCは「長く休む制度」ではなく、「短く刻んで使う制度」なので、利用者にとっては誠に使い勝手がいい。
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ここまでMCの悪いことばかりを書いてきましたが、もちろん多くの人たちはルールを守っていることも触れておかないといけません。体調が悪いときにこそこのMCは効果を発揮するわけです。
MCを悪用したり、偽MCを発行や使用する行為は、当然ながら法的にも倫理的にも問題があります。
しかし、それ以上に考えるべきなのは、なぜそのような行動が広く起きてしまうのかという点です。
マレーシアのMC問題は、単なる不正の話ではありません。マレーシアの制度と人間行動がどう結びつくかを示す、非常に象徴的な事例なのです。
ただ、人間は基本的に怠惰な生き物でもあるので、いかにして休めるかということには天才。いつの時代も利用できるものは利用し、いかに休むかについては多くの労力をかける人も多い。このMCも制度自体がなくならない限り、不正はなくなっていかないでしょう。
最後までありがとうございました。
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