調剤薬局物語vol.1〜話す意味はどこにある?〜(2445字)
🌿調剤薬局物語〜心をつなぐ処方せん〜
第一話:話す意味はどこにある?
「なんや……あんた、色々聞いてくるなあ。
先生のとこで話してきたんや。なんで薬局で、また話さなあかんのや。」
投薬カウンターで薬を受け取りながら、年配の男性が少し眉をひそめて言った。
薬剤師の白石がお薬を渡す前に、
「山村さん、こんにちは。暑い日が続きますが、血圧の方はお変わりないですか?」
そんなふうに声をかけた後、帰ってきた言葉だった。
白石は、すぐには返さず、やわらかく笑ってうなずいた。
「そうですよね。お疲れのところ、すみません。もちろん、話したくないことは無理に聞きません。
でも、ちょっとだけでも教えていただけると、薬を安全に使っていただくヒントになることがあるんです」
「ふん……。めんどくさいの。ほな、何を聞きたいんや?」
山村さんは、それでも不機嫌そうにそう言った。
白石は投薬カゴから薬を取り出しながら声をかけた。
「こちらの血圧の薬、以前、こちらでお薬をお渡しした時とは種類が変わってますけど──体調、何か変わりありませんか?
「……そうやな。時々立ちくらみみたいなもんもあるけど、すぐに治るし、あんまり気にしてへんわ。
まあ、年のせいもあるやろしな」
白石はおくすり手帳をもう一度確認した。お薬をもらうたびに、違う薬局で薬を受け取っているようで、うちの薬局でお薬を渡すのは今日が2回目だ。
あちこち行くのはその時々の都合なのか、それとも他に理由があるのか、そこまではわからない。
手帳の内容を見てみると、数ヶ月前に、降圧剤の成分が変更されていた。
作用が少し強くなったものだ。
「山村さん、今日、血圧はどれくらいだったか、覚えていらっしゃいますか?」
「そんなん、覚えてへんわ。先生は、いい血圧や、言うてたで。」
「なるほど、それはよかったです。
でも、立ちくらみは少し気になりますね。
3ヶ月前にお薬が変更になっています。きっとこの時、血圧が高くなっていたんでしょうね。
以前、山村さんが見えられた時、時々頭痛がしたり、肩こりがする、とおっしゃっていたようでしたが、ひょっとすると、それも血圧のせいだったのかもしれません。
それで、先生がお薬を少し効果の強いものに変えられたんでしょうね。」
「わしは、ようわからん。先生に全部おまかせや。」
「そうですよね。先生は山村さんのことちゃんと見てくださっていますからね。
ただ、山村さん自身も、ご自分の体のこときちんと知っておいて欲しいと思います。
今のお話を聞いていると、お薬が効きすぎているのかもしれません。最近、何か生活習慣が変わったようなことはございませんでしたか。」
「特に、これといったことはないけど、薬が変わった時に、うちの嫁さんが、目ざとくそれに気付いてな。血圧のこと話したら、それから、食いもんが薄味にされてしもたんや。最初は味気ないもんやと思ってたけど、不思議なもんで人間慣れるもんやな。」
そう言って山村さんは少しだけ笑った。
白石は、少しだけ考えて、答えた。
「そのせいかもしれませんね。山村さんの体質が少しずつ改善してきているのかもしれません。奥さんの愛情のおかげですね。」
「あほやこというなや。」
そう言いながらも山村さんは相好を崩した。
「……それにしても薬剤師とこんなに話したこともなかったわ。
前に、別の薬局で話した時に、先生と違うこと色々言われて、なんか腹立ってもてな。」
「そうだったんですね。ご不快な思いをさせてしまったこと、同じ薬剤師としてお詫びいたします。
ただ、その薬剤師も、なんとか山村さんのお役に立ちたくて一生懸命だったと思うので、そこだけでもご理解いただくと嬉しく思います。
ちなみに、今日お話しいただいたことは先生にもお話になりましたか?」
「いやあ、先生も忙しそうやったし、そんな大したことでもないと思ってたから話してないわ。」
「そうなんですね。それでは、念のため、先生の方にお伝えしておこうかと思うんですが、よろしいですか?」
「ああ、ええよ。逆になんか悪いな。」
「いやいや、悪くなんてないですよ。これが仕事なので。」
そう言って白石が笑うと、山村さんも照れくさそうな笑みを浮かべた。
電話をかける白石を見つめる山村さんの視線は、心なしか優しくなっていた。
(了)
〜あとがき 薬剤師としてのやりがいを求めて〜
「なんで、薬剤師にそんなこと話さなあかんのや。」
最近は、そういった患者さんはめっきり減ってきたなぁと思いますが、20年以上前には、ちょこちょこ言われてたような気がします。
その頃はまだ知識も経験も、今よりぐんと少ないわけで、なかなかニの句が継げなかったり、ちょっとへこんでしまったりした記憶があります。
しかし、患者さんのその言葉を素直に受け取り、確かにそうだよな、なんで聞いてるんだろう、何のために聞くんだろう、自分が聞かれたらどうだろう、ということを考えていくようになりました。
やはり、薬剤師として患者さんと出会って、服薬指導という名のもとに会話をしているわけですから、そこに意味がないといけません。
もちろん親しくなった患者さんとは、他愛もない話を楽しく交わすことはちょくちょくありますが、そうではない場合や、患者さんが急いでいる場合などは、何か情報を聞き出すためにはそこには確固とした根拠が必要です。
そしてそれを簡潔な言葉で、わかりやすく、しかも話しやすい雰囲気を作りながら話さなければなりません。
とても重要なことだと思うのですが、なかなかこれを学習し、身につけるのは難しいことではないかと考えています。
その、どちらかというと目に見えにくい部分に比重を置きながら、うまく表現出来るかどうかわかりませんが、この調剤薬局物語を書いていこうと思っています。
少しでも共感していただける方がいらっしゃればとてもありがたいことですし、勇気をもらえます。
最後まで読んでくださりありがとうございます😊ご感想やご意見など、ぜひコメント頂けると嬉しいです😆
