【怪異】エントロピー団地 #94 ぎゃふん
前回、ひろくんの「ズルい読書感想文」を問い詰めた先生。
ひろくんが4年生のときの担任でした。
その先生、どういうわけか、ひろくんとは相性が悪いみたいで。
ひろくんに加え、ひろくんとつるんでいる仲間たちも、きつく当たられていました。
もちろん僕は会ったことがないので実際のところはわかりません。
ひろくんの話によれば、ひろくん、その先生から非常にしばしば小言を喰らっていたようです。
あるとき、ひろくんが僕に言いました。
「ねえヨッシー先生。何もしていない人を、叱ったりする?」
「いや、そんなことはしないよ」
「よっしゃ!」
「?」
「前回の宿題のドリルさ、全然やってないんだ。何にもしてないから、叱らないよね?」
「は?」
よくよく聞いてみると、担任の先生をやりこめる作戦の予行演習のようでした。
▽
アイデアの出どころは、当時の人気雑誌シリーズ、「小学〇年生」。
小学館が出していた学年別の学習誌です。
ひろくんは4年生だったので、「小学四年生」を読んでいた。
このテの雑誌では、だいたい巻末のほうに「読者コーナー」みたいなのがありましたよね。
小咄(こばなし)なんかも投稿されてたりする。
そのなかに、こういうのがあったそうです。
「先生は何もしていない人を叱りますか」
「先生はそんなことしません」
「よかった。僕、宿題何もしてないんです」
「ぎゃふん」
で、ひろくんたちは閃いた。
…これ、いいじゃん。
使えるぞ。
ぎゃふんはどうでもいいけど。
最初に述べたように、ひろくんたちは担任の先生とどうもウマが合いませんでした。
イヤなガキ扱いされている感があったらしい。
テストの点数もひろくんグループだけ厳しめにつけられているみたいな。
個人の感想でしょうけど。
なので、先生をやりこめてやろうと、彼らは日ごろから機会をうかがっていたわけです。
▽
今回の作戦はこうでした。
「先生は何もしていない人を叱りますか」
「先生はそんなことしません」
「よかった。僕ら、宿題何もしてないんです」
「ぎゃふん」
ま、ぎゃふんはどうでもいいけど。
これを教室でやってやれ、と思ったそうです。
ひろくんが僕を相手に実験したらうまくいった(?)し、それを聞いて自信を深める仲間たちでした。
▽
翌日。
いい天気だ。
いざ、出陣。
…と、ひろくんたちが思ったかどうかは知りません。
とにかく、授業が始まるなり、彼らはさっそく先生に話しかけたそうです。
「先生、何もしていない人を叱ることってありますか」
「ん? どういうこと?」
「だから、何もしていない人を叱ることってありますか」
「ありますよ」
瞬殺でした。
「えっ」
「怠け者とか、困っている人を無視する人とかは、叱らないといけません」
「…」
「どうしたの。なんでそんなこと聞くの?」
「…ぎゃふん」
お前らが「ぎゃふん」言うんかい!
で、宿題をしてこなかったひろくんたち。
さんざん叱られた後、放課後に居残り、視聴覚室で反省文を書かされましたとさ。
(おしまい)
……と、ここまでは、なんというか、ある意味ほほえましい?当時の学校風景ですよね。
でも忘れちゃいけないのは、ひろくんの学校は場所柄、わけありだということです。
たとえば、視聴覚室に居残る行為は、禁忌…危険とされていました。
それを、担任の先生も、ひろくんたちも、知らなかった。
そのことを聞きつけた校務員の田西さんがあわてて視聴覚室に飛び込み、子どもたちを助け出しました。
えらい騒ぎになった。
提出された反省文も、こんなだったそうです。
今日、宿題を忘れたことを反省します。
先生の言うことをちゃんと聞かなかったことを反省します。
でも視聴覚室は暗いです。
スクリーンがついています。
スクリーンに顔がいっぱい映っています。
みんなこっちをみて口を開けています。
ぼくもあの人たちみたいに並びたいです。
ぼくの口も開けたいです。
ぼくもいっしょに映りたいです。
ぼくの口も開けたいです。
ぼくもいっしょに映りたいです。
ぼくの口も開けたいです。
ぼくも…(これが延々と続く)
助け出されたひろくんたちには、そんな文章を書いた記憶はありませんでした。
