見出し画像

米澤穂信『倫敦スコーンの謎』小市民シリーズ新作!(毎日読書メモ(613))

米澤穂信の小市民シリーズ、第2短編集にあたる『倫敦スコーンの謎』(創元社推理文庫)が刊行された。いそいそと読む。
Amazonの作品紹介では「高校二年の夏までに、小鳩君と小佐内さんが遭遇した四つの謎 シリーズ第二作品集」と書いてある。

『冬季限定ボンボンショコラ事件』を読んだのが一昨年の今頃だった。
その中で、それ以前に刊行された小市民シリーズの感想も含め書いているので貼っておく。
『春期限定いちごタルト事件』2004年8月に刊行されたが、わたしが読んだのは2011年3月。当時書いた短いメモ
『夏期限定トロピカルパフェ事件』2006年4月刊行。わたしが読んだのは2011年6月。当時書いた読書メモ
『秋期限定栗きんとん事件』(上)(下)2009年2月刊行。わたしが読んだのは2012年1月。当時書いたメモ
『巴里マカロンの謎』2020年1月刊行。刊行直後に読んだが、当時メモをつけていなかったので、感想は残っていない。ただ、『秋期限定…』を読んで8年あいていたので、小鳩君と小佐内さんの関係性のふわっとした記憶だけで読んで(まぁ主な舞台が春夏秋の木良市とちょっと離れた名古屋で、登場人物はあんまり過去作品とかぶってないんだが)割ともやっとして終わった記憶が。4つ目のマカロンはどれか、とか、それミステリかよ、って。
そして『冬季限定ボンボンショコラ事件』(2024年4月刊行)の感想がこちら。小鳩常悟朗と小佐内ゆきは高校を卒業し、それぞれの道を歩んでいくであろうことが示唆されているので、よほどの変化球でないともう新作は出ないだろうな、と思っていたのだが、高校2年時代に戻って、このような新たなミステリが追加されるとは。長編4作と『巴里マカロンの謎』の4つのミステリに、更に4編。3年間の高校時代に、警察の世話になる大事件も含め、12件もの謎に当たるとは、2人の高校時代は忙しすぎだね!

今回の4編は、桑港が《ミステリーズ!》、羅馬と倫敦が《紙魚の手帖》に掲載され、最後の維納が書下ろし。

「桑港クッキーの謎」:高1の冬、二人の通う船戸高校のOBの芸術家、縞大我しま たいが氏がサンフランシスコ・ビエンナーレで黒熊賞を受賞。新聞部員の堂島健吾が、校内で、縞大我が高校時代に製作し、県の美術展に出展した作品を発見する。テレビ局が取材に来ることになってこの作品を紹介する、ということになったのに、この作品がニコラ・ド・スタール(あっこの画家は、白石一文『道』で重要な役回りをした絵を描いた人だな)の作品の模写であることがわかる(画集にそっくりの絵があることを、これも健吾が発見)。当時、作品がオリジナルでなく模写であることを隠して出展していたのであれば、それは作家の大スキャンダルになる? 健吾に泣きつかれ、小佐内さんの助けを求めることになった小鳩くんは、縞大我が〈視線と外郭、あるいはfortune cookie〉とタイトルをつけていた高校時代の作品が、何故fortune cookieなのかを、小佐内さんから聞かされる。わからないふりをして美術教師の甲村先生と健吾の追及から逃げようとしていたのに、結局小佐内さんを名探偵に仕立て上げることになってしまい、小鳩くんは大きな借りを作ることに。
「フォーチュンクッキーはおいしいのか」

「羅馬ジェラートの謎」:小鳩くんは、小佐内さんに借りを返すべく、3月の期末試験後、郊外のショッピングモールに新しく出店したジェラートショップ〈アバーネッティーズ〉のジェラートを奢ることになる。
バスが遅れて小佐内さんが待ち合わせに遅れたことも、出店の経緯も、ジェラートにふりかけられたチョコスプレーがあまりにも速くジェラートの中に沈んだことも、ショッピングモールのテーブルで手付かずのジェラートを前にじっと座っているスーツの女性も、何もかもがミステリの種だった。
アバーネッティーズの店長は小佐内さんに復讐されちゃうか?
なお、このお店の名前がアバーネッティーズだったことも、実はミステリの一部なのだが、浅学なわたしにはちょっと難しすぎた…本書未読の方が読むことをお勧めできない謎解きが、東京創元社の公式noteに掲載されているので、この原稿の文末に貼っておく。

「倫敦スコーンの謎」:高2になってすぐ、小鳩くんも小佐内さんも、それぞれのクラスで、家庭科の調理実習でアフタヌーン・ティーのメニューを作る。キュウリとトマトのサンドイッチ、茹で卵とバジルソースのカナッペ、スコーン。更に宿題としてレポートが課され、失敗した班は、失敗した原因を書くように指示されている。
小佐内さんから、助けを求めるメッセージが届き、〈スコーンを見ます〉という用事に付き合うことになった小鳩くん。
古民家カフェで、一から作るスコーンの製造過程を見ながら、小佐内さんは自分の班のスコーンが何故生焼けで、家庭科教師に食べてはいけない、と言われるまでの失敗作になってしまったかを検証する。
謎は解ける。しかし小佐内さんが本当に導き出したかったのは、小市民的に、誰も傷つけずにレポートに失敗の原因を書けるか、だった。

「維納ザッハトルテの謎」:高2の6月。縞大我が講演会をやるためにわざわざ海外から帰ってくる、やぁやぁやぁ! それに先立ち、学生に自分の作品を見てもらいたい、と作品を送ってきて、〈桑港〉でも出てきた美術教師の甲村先生が、美術準備室で展示するために、日直だった小鳩くんたちに運搬を依頼する。
講演会前日にちょっと大きな地震が起き、その後で、作品にひびが入っていることが判明。美術準備室の彫刻がぶつかって割れた、ということにしたいが、どうも状況が不自然。そして、翌日の講演会では、きずひとつない作品が体育館に据えられる。
講演会を中止しろという脅迫状が学校に届いている、という噂が流れ、作品が壊されたのもその流れではないか、と思われたが、講演会も行われ、作品も無事展示された。
脅迫状の謎、作品損壊の謎、たまたま入った喫茶店で小鳩くんと小佐内さんは絶品のザッハトルテを食べながら謎解き。作品損壊の犯人と、展示された作品の復元については謎を解き明かすことが出来たが、脅迫状の謎と、それが一人の人間の運命を大きく変えてしまったことについては、当事者の告白を待たずにはわからなかった。それは...ロマンと名付けていいものなのか?

この、予想以上に重たい数ヶ月の4つの事件があってからの「夏期限定トロピカルパフェ事件」、そして二人は、秋期に向けてすっかりばらばらに分かれてしまったということか。

なんて切ない高校時代だろう。
青春のときめきとか、華やぎを置き去りにして、スイーツを共に味わう歓びだけを友にして、それぞれの業と向き合っていく、そんな苦しい高校時代を送っていたんだろうか。
シリーズが続くほどに、聡明であることの苦しみがいや増す。
二人にとっての幸福ってなんだろう、と答えのない問いかけを、わたしは誰に聞きたいのか。
最初読み進めているときは謎解きに気を揉み、答えを得た爽快感で突き進んでいたのだが、あらためて感想書くために振りかえって、押し寄せる切なさに苦悶することとなった。

#読書 #読書感想文 #米澤穂信 #倫敦スコーンの謎 #フォーチュンクッキー #ジェラート #スコーン #ザッハトルテ #ビエンナーレ #ニコラ・ド・スタール #アバーネッティーズ  #冬期限定ボンボンショコラ事件 #秋期限定栗きんとん事件 #夏期限定トロピカルカフェ事件 #春期限定いちごタルト事件 #巴里マカロンの謎 #創元推理文庫 #小市民シリーズ #小鳩常悟朗 #小佐内ゆき #スイーツ #小市民 #片山若子 #岐阜 #木良市





いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集