* interview Brandee Younger『Somewhere Different』:私は表立って発言しないけど、音楽で表現している(12,000字)
ジャズでハープ奏者ということになるとドロシー・アシュビーとアリス・コルトレーンの話は避けられない。それはヒップホップ世代のジャズ・ハープ奏者ブランディー・ヤンガーも同様だ。
コモンやモーゼス・サムニー、カインドネスからピートロックまでの作品に起用されたり、ジャズ周りではマカヤ・マクレイヴン、カッサ・オーヴァーオール、ジョエル・ロス、リザーバーなどに起用されていて、近年、面白い場所で彼女の名前をよく見かけるイメージがある。
なぜ、ブランディーがそんな様々な場所に起用されるのかと言えば、冒頭のドロシー・アシュビーとアリス・コルトレーンの2人の先人の音楽を徹底的に研究し、その両者のスタイルを消化し、ジャズ・ハープのているからだろう。
ブランディーが2016年にリリースした『Wax & Wane』はドロシー・アシュビー研究の集大成のような作品だった。「Soul Vibrations」「Wax & Wane」「Afro Harping」とドロシー由来の楽曲を3曲も取り上げただけでなく、ヒップホップのサンプリングソースとしても知られるドロシーの音楽のファンキーなサウンドをその演奏のみならず、音像や質感においてまで完璧にオマージュしていた。それはすぐにでもサンプリングされそうな発掘音源のようにも聴こえる新譜だった。『Wax & Wane』を作っているようなブランディーだからこそ、マカヤ・マクレイヴン『Universal Being』やコモン『 Finding Forever』にも起用され、そこにふさわしい演奏ができたのだろう。
アリス・コルトレーンに関してもその影響は大きい。アリスの名曲「Blue Nile」を何度もカヴァーしているし、アリス・コルトレーンのトリビュート・ライブにも出演している。アルバムでは2019年の『Soul Awakening』がその路線だ。スピリチュアルジャズ的な演奏で、ゲストにラヴィ・コルトレーンが参加している。このアルバムはインパルス時代のアリス・コルトレーンの諸作へのオマージュとして聴くこともできる。2020年には『Force Majeure』でアリスのコラボレーターでもあるファラオ・サンダースの名曲「The Creater Has a Master Plan」をカヴァーしたりもしている。
こうやってドロシー・アシュビーにも、アリス・コルトレーンにも、呼応するような音楽を奏でてきたブランディーがジャズの名門インパルス・レコーズと契約し、『Somewhere Different』をリリースした。
ブランディーは2018年にインパルスからリリースされた『A Day In The Life: Impressions Of Pepper』に1曲参加していたので、インパルス的には満を持しての契約とフルアルバムなのかもしれない。
インパルスと言えばアリス・コルトレーンが代表作を残してきたレーベルだ。そして、ここではアリスの『Huntington Ashram Monastery』『Ptah, The El Daoud』にも参加していた大ベテランのロン・カーターを招集している。どんな意図でレーベルがブランディーを迎え入れたのかは容易に想像できるだろう。
とはいえ、僕はブランディーがインパルスと契約することの正当性はアリスの後継的なジャズ・ハープ奏者としての点のほかにもうひとつの理由があると思っている。
そもそもインパルスは公民権運動を始め、ポリティカルな楽曲をいくつもリリースしてきた”過激な”レーベルだったことを思い出してほしい。
ジョン・コルトレーンの「Song Of The Underground Railroad」は19世紀にアメリカの黒人奴隷たちが、奴隷制が認められていた南部から、奴隷制の廃止されていた北部へと逃亡するのをサポートしていた組織The Underground Railroadへ捧げた曲だし、「Alabama」は、アラバマ州バーミンガムで起きた白人至上主義者によるバプティスト教会の爆撃の被害者の子供たちに捧げた曲だ。
アーチー・シェップ『Attica Blues』のタイトル曲はニューヨーク州アッティカ刑務所での黒人囚人の暴動事件をテーマにしたもので、「Blues For Brother George Jackson」はブラックパンサー党の指導者ジョージ・ジャクソンに捧げた曲。ジャクソンはサン・クエンティン州立刑務所から脱獄を試みて銃殺され、その射殺がアッティカ刑務所暴動の引き金になったと言われている。
他にもファラオ・サンダースには『Black Unity』というアルバムがあったり、アフリカ大陸の住民と世界中のアフリカ系住民の解放及び連帯を訴えるパン・アフリカ主義の旗の色を示した「Red, Black & Green」があったりと、アフリカンとしての意識を示したものもある。アリス・コルトレーンが残したエジプトをテーマにした「Ptah, the El Daoud」や「Blue Nile」もアフリカ回帰という意味では近い文脈として捉えられると思う。
それらもほんの一部で例をあげればきりがないくらいにインパルスはそういった文脈のレーベルだった。だからこそ、上記のような強烈なメッセージを提示しているUKのサックス奏者シャバカ・ハッチングスとも契約したのだろう。
そして、ブランディー・ヤンガーもまたコルトレーン夫妻やアーチー・シェップ、ファラオ・サンダース、シャバカ・ハッチングスらに連なる部分もあるアーティストだと僕は以前から感じていた。
ここでは『Somewhere Different』の話だけでなく、ブランディーが発表してきた様々な楽曲に触れながら、彼女の音楽の中にあるステイトメント的な側面を掘り下げてみた。それは彼女が世界的に注目を集めている理由のひとつを明らかにしたと思う。
個人的にはマカヤ・マクレイヴンが繰り返しブランディーを起用するだけでなく、ギル・スコット・ヘロンのトリビュート盤『We're New Again』でも彼女を起用した深い理由が分かったような気がした。
新譜の解説インタビューとは異なるものになったが、だからこそぜひ読んでほしいものになったと僕は感じている。
( 取材・執筆・編集:柳樂光隆 通訳:丸山京子
ヘッダー写真:(c) Erin Patrice O'Brien 協力:Universal Music )
■アナ・グリーンとトレイヴォン・マーティンに捧げた曲
――少し前の話から始めたいんですが、2019年にリリースした『Soul Awaking』について、聞かせてもらえますか?
実は2016年の『Wax&Wane』より前の2013年に作ったもの。作った時はまだ準備ができていないと感じていたから出さなかった。でも、『Wax&Wane』を出したら、ようやく『Soul Awaking』を出したいと思えるようになった。それに、とりあえず、これを出さないと次に進めない気もするようになったし、無駄にするには惜しいいい曲がたくさんあるアルバムだとも感じていた。だから、手を加えず昔の音源のままリリースした。
――スピリチュアル・ジャズ的なサウンドが印象的ですが、その中でマーヴィン・ゲイ「Save The Children」のカヴァーを収録してますよね。その意図について聞かせてもらえますか?
(サックス奏者の)ジミー・グリーンの娘のアナ・グリーンが2012年にコネチカット州で起きたサンディフック小学校銃乱射事件の被害者だった。あの曲はその時にアナに捧げる気持ちで演奏したもの。最初はリリースのことは考えてなくて、ジミー・グリーン本人には個人的に聴かせていたんだけど、最終的にアルバムに収録することになった。
(※ジミー・グリーン本人もアナに捧げる切なくも美しい曲「Ana’s Way」を録音している。)
――あなたは2012年に「He Has A Name(Awareness)」をbandcampで発表していていました。それもアメリカで起きた悲しい事件の被害者へに捧げる曲でした。そういったことを活動を通してやられている印象がありますが、どうですか。
表立って言葉を使って大々的に発言するってことを私はしてないけど、たしかに音楽で表現している。「He Has A Name(Awareness)」は2012年に高校生のトレイヴォン・マーティンが銃殺されてしまった事件が大々的なニュースになる前に写真を見たら、自分の弟にすごく似ている気がして、胸に来るものがあった。マーヴィン・ゲイのカヴァーの時はアナのことを知っていたから、より個人的なことではあったのかもしれないけど、トレイヴォン・マーティンの時は自分からこの件について発言したいって気持ちがあったからリリースしました。
■ジャズ・ハープの先駆者ドロシー・アシュビーの逸話
――『Soul Awaking』ではジャズ・ハープ奏者のドロシー・アシュビーの「Game」のカヴァーをしてましたが、彼女はあなたが最も影響を受けたアーティストのひとりだと思います。以前、僕が取材したときもドロシー・アシュビーからの音楽的な影響の話をしてくれました。実はドロシーも社会的な問題に対して発言をしたり、音楽で表現をしたりする人でした。もしかしたらそういう部分でもあなたはドロシー・アシュビーがやっていることを引き継いでいるような部分があるんじゃないかなと思ったんですが、いかがですか?
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