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interview Justin Stanton:自分の個性を押し出すのではなく、音楽に必要な機能を満たすための選択(6,500字)

敏腕揃いのスナーキー・パピーの中でもジャスティン・スタントンは特異な存在だ。

なぜなら彼は高度な演奏技術が求められるスナーキー・パピーで鍵盤とトランペットの二つの楽器を演奏しているからだ。時に鍵盤だけ、時にトランペットだけの時もあるし、両方を行き来することもある。こんな役割を持っているのは20人近いメンバーがいるスナーキー・パピーでもジャスティンだけだ。

2006年からスナーキー・パピーのメンバーとして活動する中で二つの楽器だけなく、作曲も手掛けている。また、ベッカ・スティーヴンス、ギゼラ・ジョアン、ルイス・カトー、マイケル・リーグと共作した『Mirrors』、そして、自身のソロ作『Secret Place』など、スナーキー・パピー以外での活動にも積極的だ。

そんな彼に話を聞いた。そもそもどんな経緯でマルチ奏者になったのか、またマルチ奏者でいることをどう考えているのか、そんなことをジャスティンからスナーキー・パピーというグループのことをもっと深く知るためのヒントになる気がしたのだ。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 現場通訳:染谷和美
協力:コアポート | 写真:Anna Taake

https://www.creativeman.co.jp/artist/2026/05hksp/

写真:Anna Taake

◎ 鍵盤奏者として話

ーーあなたはトランペットとキーボードの両方を演奏しますよね。大学時代はそれぞれどんなやりかたで学んでいたんですか?

大学では両方やっていたんだけど、メインで専攻していたのはトランペット。でも、Snarky Puppyに参加したことが、自分にとって大きな転機になった。そこから少しずつキーボードに比重が移っていったんだ。

もちろん、今でもどっちも大好きだし、自分にとっては同じくらい大切な楽器。でも、当時ダラスには本当に素晴らしいキーボーディストがたくさんいて、街全体がそういうミュージシャンたちの文化でできている感じがあった。特にキーボードとドラムは層が厚かったと思う。

メンバーの多くもそう言うと思うけど、Bernard Wrightの存在は本当に大きかった。彼が僕の視野を一気に広げてくれた。大学ではアコースティック・ピアノが中心だったけど、そこからFender Rhodes、Wurlitzer、Nord、そしてシンセサイザーへと徐々にシフトしていった。そのきっかけがSnarky Puppyであり、あのシーンとの出会いだった。あれは僕にとって“ゲートウェイ”だったんだ。自分の世界が一気に広がった瞬間だったと思う。

ーーそのBernard Wrightについて、どんなところに影響を受けたんですか?

僕や仲間がダラスに住んでいた頃、彼は毎週月曜日にトリオのジャム・セッションをやっていたんだ。ベースとドラムと彼。ほんとにシンプルな編成だよね。当時、僕はノーステキサス大学でジャズを勉強していたんだけど、同じ学生同士ってある程度同じ価値観やボキャブラリーを共有してるところがあるよね。でも、Bernardやその周りのプレイヤーたちは僕らと全然違ったんだ。高度なジャズの語彙を持ちながら、シンセサイザーを使った音作りや、まったく違うフィールやフレージングを奏でていた。僕はそれまでそんな音楽を聴いたことがなかったんだよね。衝撃的だった。

Bernardは、このシーンの“ゴッドファーザー”みたいな存在だったと思う。ただ上手いとかじゃなくて、演奏の“導き方”が独特だったんだ。言葉で指示したり、首を振ったりせず、音楽そのものの流れでバンドを導く人だった。気づいたらいつの間にかついていってるような感覚だった。彼のメロディの作り方、即興、音の置き方、それら全てが僕にとって新しくて、大きな刺激だったよ。

ーーBernard Wright以外にも研究したキーボーディストはいますか?

もちろんいるよ。Herbie HancockChick Coreaみたいな“王道”の存在はもう大きすぎるぐらい大きい。彼らの音楽は本当にたくさん聴いてきた。

あと、僕にとって特別だったのはJoe Zawinul。彼のフレージングって、すごくボーカリストや管楽器的なんだよね。息を吸って、吐いて、そこでフレーズが生まれる。キーボードって息継ぎがなくても演奏できる楽器だけど、Zawinulは走りっぱなしじゃないフレージングをしていた。そこに強く惹かれた。

それから、Bernardの少し上の世代にあたるDonald Blackman。彼もめちゃくちゃ聴いたし、影響を受けてる。挙げ始めたらキリがないんだけどKeith JarrettやJohn Medeskiももちろん大きい存在。

でも、正直言うと、Snarky Puppyの中にも影響を受けた人がたくさんいる。Corey HenryShaun MartinBobby Sparks、もちろんBernard Wright。彼らと一緒に演奏しながら、同時に学んでいった部分は大きいね。
だから、今こうして君の取材相手リストに僕も辿り着くことができたわけだよ(笑)。

※1「Lingus」solo:Corey Henry
※2「Bet」solo:Shaun Martin
※3「RL's」solo:Bobby Sparks

◎ トランペット奏者としての話

ーーははは、たしかに僕はバーナード以外の3人に取材しましたからね。では今度はトランペットの話をさせてください。始めたきっかけは?

始めたのは小学生の終わりだから11歳くらい。僕が育った地域では、そのタイミングでみんな学校のバンド・プログラムに参加するんだ。その中でトランペットを始めた。きっかけは、近所に住んでた1歳年上の友達。彼もトランペットを吹いていて、ある日遊びに行った時に貸してくれたんだよね。その時、彼が「Tequila」のメロディを教えてくれたんだ。最初の音さえ吹ければ成立する曲だから(笑)。吹けた瞬間に完全にハマってしまったんだ。

ーーそこからクラシックやジャズの勉強に進んでいったんですよね?大学ではどんな感じで学んでましたか?

最初は本当に普通の学校教育の延長線だったよ。中学、高校と進むにつれて少しずつ本格的になって、高校生の頃に地元の大学でトランペットの教授からレッスンを受け始めた。でも当時は、音楽で生活している人に出会ったことがなかった。僕の周りで“音楽家”と言えば、学校のバンド教師だけだったんだ。だから大学に進む時、迷わず音楽教育専攻を選んだ。「音楽をやりたいなら、教師として働くのが現実的だよ」と周りに言われたし、自分もそう思ってた。

でも、大学に通っていく中で世界が広がっていったんだ。「音楽の仕事って、他にもたくさんあるのかもしれない」ってね。そこから進路が変わり始めた。大学院に進んで、もっと音楽を深く学びたいと思うようになったんだ。そこで僕はノーステキサス大学に行くことを決めた。そして、今の仲間と出会い、そこから人生の方向が一気に変わったんだ。

ーー大学院からノーステキサスだったんですね。では、トランペットについてももう少し聞きたいんですが、どんな演奏家を研究していたか教えてください

まあ、よく名前が挙がる人ばかりだけど、やっぱりFreddie Hubbardが最初だったね。あとはClifford BrownKenny DorhamChet Baker……定番の人たち。

そこからもちろんMiles Davisにも行くわけだけど、Milesはもう別枠というか“宇宙”なんだよね。Milesはもう完全にバイブル。「墓に入るときはMilesのCDを抱えて入りたい」って本気で思ってるよ(笑)。

それからWoody Shawにも夢中になった時期があるね。Freddie Hubbardと並んでめちゃくちゃ聴いたよ。

そして、 大きかったのがRoy Hargrove。特にRH Factorの時期は衝撃だった。ただ単にトランペットがすごいってだけじゃなくて、音楽のコンセプトそのものが変わってしまう感覚があった。

◎ 鍵盤とトランペットの二刀流について

ーー少し視点を変えた質問なんですけど、あなたはSnarky Puppyの中で、トランペットとキーボード両方を担っていますよね。超一流の鍵盤奏者やトランペッターが揃う中で、両方を成立させるために、どんな考え方をしているんでしょう?

これはすごく難しい質問なんだけど、結論から言うと役割は常に変わるんだ。

Snarky Puppyはコレクティブだから、その日の編成で求められる役割が違う。例えばステージに同じ人数が立っていたとしても、「今日は僕とBobby Sparksがキーボード」「別の日は僕とBill Laurance」
「BobbyもBillもいて3人の日もある」「ホーン・セクションの人数が少ない日もある」みたいな感じ。

そうなると、自分がどこに立つべきかも毎回変わるよね。だから、僕にとって重要なのは「前に出ることじゃなくて、音楽が必要としているものを見つけて埋めること」。「今日は俺の出番だ!俺が主役だ!」って考えじゃない。必要ならトランペットを吹くし、鍵盤に回るし、シンセを埋めることもある。それは自分の個性を“押し出す作業”というより、音楽に必要な機能を満たすための選択なんだ僕はよくこれを“ユーティリティ・ベルト(工具ベルト)”って呼んでる。必要な道具を必要な時に取り出すだけってこと。

でもね、そこから結果的に自分のアイデンティティが形になっていった。でもそれはあくまで副産物に過ぎないなって思ってるよ

ーー2つの楽器を高いレベルで続けるのって、どうやって可能になってるんでしょう?

いや、そう言ってもらうのは光栄だけど……正直、自分では全然そう思ってない(笑)。去年はツアーが多くて、Jay Jenningsが一緒に回ったんだ。彼は大好きなトランペッターで、尊敬してる。彼が吹いてくれるぶん、僕のトランペットの出番は減る。

そうなると、ツアー中はどうしても楽器から離れる時間が増えるんだよね。特にトランペットは身体の楽器だから、筋肉や呼吸を維持しないとすぐ衰える。僕自身はかなり没頭型の人間なんだ。ひとつのことに集中すると、他のことが疎かになるタイプ。キーボードに夢中になるとトランペットが薄くなるし、トランペットに集中すると鍵盤の身体感覚が落ちてくる。ずっとその繰り返しをしてるんだ。

だから僕にとって一生の課題は、バランスの維持。実際、どちらも“完璧に整っている”と感じる瞬間なんてほとんどないんだよ。でも、その不完全さの中で両方続けてきたことが、今の自分を作っているんだと思ってる。

※「Kite」solo:Jay Jennings

◎ 作曲家としての話

ーーあなたが“バランスをとれている”理由のひとつは、コンポーザーでもあるからだと思うんです。Snarky Puppyでも初期からずっと曲を提供していて、『Empire Central』でも2曲書いてますよね。作曲家としては、どんな研究をしてきましたか?

うーん、これは難しい質問だね。まず、ジャズを学ぶってことは、その時点ですでに作曲を学んでいるってことでもあると思う。インプロヴァイザーとしてソロを取るには、その曲がどうできているのか、つまり構造やハーモニーを理解してないといけないよね。だから学生の頃から、自然と“曲をどう読むか、どう理解するか”という意味でコンポジションはずっと勉強してきたことになるんだ。

そこに加えて、自分にとって大きかったのはポップ・ミュージックとそのプロダクションを理解できたことだった。ジャズの文脈だと、曲は「インプロヴィゼーションのための乗り物」みたいなところがある。

それに対して、ポップスのソングライティングって、「いかに簡潔に、ひとつの曲として完結させるか」という発想がかなり強い。録音としてはジャズより短く感じるかもしれないけど、フォームそのものはジャズの32小節型みたいに循環していくわけじゃないから、譜面に起こすとむしろ長くなることも多い。

ーーなるほど。

それに、インストゥルメンタルだけで勝負するバンドって、ある意味かなり不利な立場からスタートしているとも思うんだ。ジャズやインストを普段から聴いている人以外、つまりは「歌と歌詞のある音楽に慣れた人たち」にどう届けるのかを考える必要がある。「ボーカルはどこにいるの?」ってなるからね。じゃあインスト・バンドとして何ができるかというと、ポップ的な感覚を持った“歌えるメロディ”と、“ヴァース/コーラス/ブリッジ”がはっきりした構成を持つ曲を書くことなんだと思う。

Snarky Puppyの曲を書いてリハするとき、メンバーは普通に 「ここがヴァースで、ここからコーラスで、ここがブリッジ」って言い方で伝えるんだ。みんな、かなり強いポップ感覚を持って曲を書いているってことになる。
それは別に音楽を「薄める」とか「わかりやすくしすぎる」ってことじゃなくて、 “曲”として理解できるフレームをリスナーに渡すってことなんだよね。そのうえで、そこにジャズ的な要素や複雑さをどうやって入れていくかを考える、というイメージかな。

※「Broken Arrow」compose:Justin Stanton

ーーでは、ポップ側のソングライター/バンドで影響を受けた人や曲を挙げるとしたら?


人生のある時期、本当に取り憑かれたように聴いていた人たちがいた。例えばJoni Mitchell、それからThe Beatles、特にPaul McCartney。ビートルズ時代もソロも両方大好きなんだ。さっきも少し触れたけど、子どもの頃からクラシック・ロックをたくさん聴いてきた。Pink FloydLed Zeppelinとかね。

それに、作曲のレッスンなんて受けたことがなかった10代の頃、「何か書いてみたい」と思ったときによく聴いていたのがプログレッシブ・ロックだった。Emerson, Lake & PalmerJethro TullYesみたいなバンドたち。今振り返ると、あれが自分にとってのジャズへの入り口でもあったと思う。
父がそういうレコードを僕に渡してくれたのも大きかった。「こいつはトランペットとピアノをやってるし、自分の好きなこの音楽を聴かせたら、きっとどこかで分かり合えるだろう」って考えてたんじゃないかな、って今になって思うんだよね。

それからもうひとつ、外せないのがカントリー・ミュージック。僕はテネシー育ちなんだけど、ラジオをつければ3局のうち2局はカントリーっていう環境で大きくなったから、自然と身体に染み込んでる。特に昔のカントリーは歌詞とメロディがとにかく強い。音楽としてはシンプルだけど、そのシンプルさの中にソングライティングの“本質”みたいなものがある気がしている。カントリーはずっと頭の片隅に残ってる感覚だね。

ーーあなたはSnarky Puppyでの活動だけでもものすごく忙しいのに、その合間にソロ作品を作ってリリースもしている。そんなスケジュールの中で、どうやって“自分の音楽”をやる時間とモチベーションを確保しているのでしょうか?

そう言ってもらえるのはうれしいけど、僕自身としては「特殊なことをしている」という感じはあまりないんだ。ツアーの時間は確かにすごく長いけど、ツアーに出ていない時間もちゃんとある。そのときに「じゃあ何をする?」っていう話なんだと思う。もちろん、ビデオゲームをしたり、テニスをしたり、音楽以外のこともやるよ。そういう時間もすごく大事だと思ってる。

でも同時に自分のために音楽を作る時間を残しておかないと、成長が止まってしまう気がするんだよね。それは自分個人にとってだけじゃなくて、バンド全体にとっても重要なこと。Snarky Puppyが、これだけ長く続いているにもかかわらず、今でもまだ強い生命力を保ち続けているのは、メンバーそれぞれが個人として常に自分をプッシュし続けているからだと思うんだ。
もちろん、Michael Leagueという強いリーダーがいて、全体をまとめてくれているのは大きい。でも、どれだけリーダーシップが優れていても、個々のメンバーの中に 「もっと知りたい」「もっと上手くなりたい」「違うこともやってみたい」って好奇心や成長への渇望みたいなものがなかったら、バンドは前には進めない。

例えばJamison Ross。彼はドラマーとしてもすごいけど、シンガーでもある。ソロアーティストとしてのキャリアも素晴らしいんだ。そういう“二面性”や“多面性”を持った人が、このバンドにはいっぱいいる。僕もトランペットとキーボードをやっているけれど、ステージに立っている全員が、それぞれの分野でいろんなことに取り組んでいる。それが表に見えるかどうかは別としてね。そういう個々の活動があって、またSnarky Puppyとして集まる。その往復運動が、このバンドの活力になっているんじゃないかなって思う。


※スナーキー・パピーの2025年作「Somni」


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