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* interview Sullivan Fortner:伝統と即興のあいだにある自由、"追加する音楽"としてのジャズ(13,500字)

ジャズのシーンを追っていると「今、この人がやっていることを多くの若手が参照しようとしているっぽいな」と気付くことがある。その前段階には「この人がやっていること、すごく新しくて、まだ誰も到達していないものなのかも」みたいに感じることがあるわけだが、そういう「ただすごい」を超えて、シーンに影響を及ぼし始めているのが見えはじめると、これはただ事ではないぞ、となってくる。

ピアニストのサリヴァン・フォートナーはまさにそんな存在で、2020年代に入ったあたりから、サリヴァンがシーンの中で飛び抜けた位置にいることを多くのリスナーも感じとっていたと思う。2020年代のジャズにおいては直接的に影響を及ぼしているミュージシャンとなると、真っ先にサリヴァンの名前が挙がるだろう。2023年にはブラッド・メルドーがサリヴァンに言及したことも僕らの間では話題になった

“Got to hear the incomparable Sullivan Fortner tonight at The Bimhuis in Amsterdam. I’m sure many of you know how unreal his music is…he just blows me away every time I get to hear him. Tonight was piano solo. Sullivan is deep on all levels - touch, counterpoint, utter relaxation, swing, transparency of ideas, no matter how dense the texture. He takes you through the whole emotional spectrum, unabashed joy included. It’s completely rooted and completely original all at once. If you have the chance to hear him, don’t miss it. He is quietly revolutionizing jazz piano playing. Actually piano playing period. ” — Brad Mehldau


邦訳:今夜、アムステルダムのビムハイスで、比類なきサリヴァン・フォートナーの演奏を聴くことができました。彼の音楽がどれほど現実離れしたものか、多くの方がご存じでしょう…彼の演奏を聴くたびに、私はいつも圧倒されます。今夜はピアノ・ソロ。サリヴァンは、タッチ、対位法、完全なリラックス感、スウィング、どれほど音の密度が高くても失われないアイデアの透明感――あらゆる面で深みがあります。彼は、抑えきれない喜びを含め、感情のスペクトル全体を聴き手に体験させてくれます。それは同時に、しっかりとルーツに根差しつつ、完全にオリジナルです。もし彼の演奏を聴く機会があれば、絶対に逃さないでください。彼は静かにジャズ・ピアノの演奏を革新しています。いや、ピアノ演奏そのものを革新していると言ってもいいでしょう。

※ブラッド・メルドーの2023年5月2日のFacebookへの投稿

このブラッドの発言は的確にサリヴァンの新しさを表現している。彼の音楽はわかりやすく新しいものではない。「ジャズとヒップホップが融合」とか「機材を駆使した音響」とか、そういった類の新しさではなく、むしろジャズの伝統に真っ向から挑むことで成し遂げられるものだ。だから、人によってはコンサバティブで古いものとして捉える人もいるかもしれない。それにジャズの100年を超える長い歴史の中で積み重ねられてきたスタイルを織り交ぜたピアニストは過去にも存在していた。つまり、そのベクトル自体は新しいものとは言えない。しかし、それをここまでスムースかつ自然に、それでいて同時にスリリングでもあるやり方で織り交ぜることを成し遂げたピアニストは他にいない。さらに言えば、2000年代や2010年代をも含んだ歴史を視野に入れたケースを僕は知らない。サリヴァンはこれまでにジャズが進んできた歩みをそのままのベクトルで一歩も二歩も前へ進めたのだ。その一歩を前に進める困難さは短距離走における0.1秒の重みのようなもの。彼の一歩はジャイアントステップスなのだ。

去年のセシル・マクロリン・サルヴェントとの来日の際に、そして、フランスのフェスの会場で僕は「あなたのインタビューがしたい」と伝えてきた。サリヴァンの声は日本語で残すべきだと、最優先案件だと思っていた。それがようやく実現したのがこの記事だ。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳:丸山京子
取材協力:ブルーノート東京・コットンクラブ


https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/sullivan-fortner/

◎「過去を知ることで、自分の音楽はより強くなる」

・ゴスペル一家で育った幼少期

——最初に音楽を始めたのは教会だったそうですね。あなたとゴスペルとの関わりについて教えてください。

僕は教会音楽の家庭で育ちました。家族の多くが教会で歌っていて、母はリードシンガーであり聖歌隊のディレクターでしたし、叔母たちもリードシンガーやディレクターをしていました。祖母も聖歌隊でよくリードを取っていました。つまり、教会の聖歌隊はほぼ僕の家族そのものでした。

彼らから音楽の基礎を学びました。耳で聴く力、曲を素早く覚える力、キーを変えて演奏する能力など、すべて教会で身につけたんです。教会にはオルガン、ピアノ、ドラムしかなかったので、たとえばベースやギターなどの役割もオルガンでカバーしなければならなかった。それに、そうしたパートが歌い手の合図にもなる。キーを上げたり、ヴァースに入ったりするタイミングをオルガンの演奏で導くこともありました。

そういった経験が、今の僕のソロピアノのスタイルにもつながっていると思います。演奏を通じて“指揮する”感覚や、他の楽器の役割を模倣する感覚を自然に身につけていきました。

・故郷を出てから発見したニューオーリンズの音楽

——あなたはニューオーリンズ出身ですよね。特にピアノにおいて、非常にユニークな文化と音楽を持った街ですが、その影響はどのように受けたのでしょうか?

実はニューオーリンズの影響を意識し始めたのは、故郷を離れてからなんです。地元にいるときは、あまりその価値に気づかないものなんですよね。

もちろん、プロフェッサー・ロングヘア、ドクター・ジョン、ジェイムス・ブッカー、デイヴィッド・クラフォード、ジョン・クリアリー、アラン・トゥーサン、ファッツ・ドミノといった人たちの名前は耳にしていました。でも、実際に彼らの音楽を深く聴くようになったのは、ニューオーリンズを出て大学に進学してから。

いざ調べ始めると宝の山でした。まだ深掘りしきれていないけれど、あの音楽から受けた影響は確実にあります。特にジャズ、ファンク、R&B、ソウル、そしてストライドやブギウギの伝統から受けた刺激は、ピアニストとしての自分を形作る上で大きな力になっています。

◎ 100年に及ぶジャズの歴史を織り込むこと

——あなたの音楽には、100年に及ぶジャズの歴史が詰まっているように感じます。初めからそうした幅広いスタイルを目指していたわけではないと思いますが、その方向に進んだきっかけは?

まずは、大学で出会った先生たちの影響が大きいです。オバーリン音楽院ではダン・ウォールに師事しました。彼はジョン・アバークロンビーやエディ・ゴメス、ジェレミー・スタイグらと演奏していた人で、現代ジャズ系の音楽に強かった。

同時に、ビリー・ハート、ゲイリー・バーツ、マーカス・ベルグレイヴといったビバップやハードバップに厳格な師匠たちにも学びました。

その後、マンハッタン音楽院ではジェイソン・モランと出会い、彼はストライドピアノを強く勧めてくれました。ちょうどその頃、ロイ・ハーグローヴやステファン・ハリスとも演奏するようになって。ロイはビバップにとても情熱を持っていて、バリー・ハリスに師事するように勧めてくれたんです。

つまり、4年間で現代的なジャズからビバップやハードバップを学び、その後、ストライドにも踏み込み、演奏でもそれを実践するようになっていった。そして、セシル・マクロリン・サルヴァントとの共演も大きな転機でした。彼女は古い音楽の要素を現代的な文脈で再構築するのがとてもうまく、彼女と演奏することで、自分もあらゆる音楽の伝統にもっと深く向き合いたいと思うようになったんです。

クラシックからフラメンコ、キューバ音楽、アフリカ音楽に至るまで、セシルは様々なルーツにインスピレーションを得ていて、僕も彼女の影響でそうした音楽の伝統をリスペクトし、学ぶようになりました。

・ジェイソン・モランとストライドピアノ

——ジェイソン・モランから教わったストライドピアノについてもう少し詳しく教えてください。

ジェイソン・モランの授業では、「このクラスではハービー・ハンコックもチック・コリアもキース・ジャレットもブラッド・メルドーもやらない」と言われました(笑)。代わりに、ファッツ・ウォーラーやジェイムス・P・ジョンソン、スコット・ジョプリンなどの音楽を徹底的に学びました。

この音楽からは、ピアノの音域をフルに使うこと、両手を独立して動かすこと、時間感覚の精度、基本的な和声感など多くを学びました。トライアド(3和音)やドミナントセブンス、メジャー6コードやマイナー6コードの解決など、ハーモニーの基礎がすごく身につきました。

そして何よりも、この音楽にはアメリカの民俗的なリズム、ブルースのリズム、自分の先祖から受け継がれたリズムが詰まっていて、根っこの部分で自分を支えてくれるような力を感じるんです。

フォーク音楽全般に言えることだけど、過去のことをよく知っていて、それをしっかり受け入れたうえで演奏することで、自分の音楽がより強くなる。僕はそれをとても大切にしています。

——1980〜90年代には(ウィントン・マルサリスのコミュニティに)ラグタイムやストライド・ピアノを取り入れていたピアニストたちがいましたよね。そういった演奏家の音楽も聴いていましたか?

はい、聴いていました。ただ、当時は彼らの演奏が「過去を受け継いだもの」だとは感じていなかったんです。たとえば、80〜90年代のピアニストを聴いていても、彼らがどれだけオスカー・ピーターソンに影響を受けているのかなんて、オスカー・ピーターソン自身をしっかり聴いていなければ気づかないものです。

ジョニー・オニールのようなピアニストの演奏を「すごい」と思っても、アート・テイタムを聴けば、その直系の流れが見えてくる。同じように、クリス・アンダーソンやランディ・ウェストン、デューク・エリントン、ナット・キング・コールなどを聴くことで、「つながり」が明らかになっていく。

——つまり、ただ演奏を聴いているだけでは、その音楽がどこから来たのか、見えにくいということですね。

そうなんです。以前の僕もそうでした。音楽が突然「どこからともなく現れたもの」のように感じてしまっていた。でも、本当の“マスター”たちの音楽をじっくり聴くようになって、ようやく少しずつそのつながりが見えてきたんです。

・フレッド・ハーシュの指導法

——フレッド・ハーシュにも学んでいたんですよね。彼の演奏や教育からも多くの影響を受けたのでは?

ええ、とても大きな影響を受けました。というのも、フレッドのようなジャズミュージシャンから学ぶ最も重要な方法は「彼らの演奏を聴くこと」だと思います。レッスンでも、フレッドは両手でピアノを弾いて何かを教えることはほとんどありませんでした。

レッスンの半分以上は会話です。40分くらい話して、最後に「じゃあ何か弾いてみて」と言われる。僕が2曲くらい弾くと、「君の足の使い方が気に入らないな」とか「手の動きが不自然だね」「君、ちゃんと呼吸できてないよ」と言うんです。そういう視点なんです。

——カリキュラムに沿ってエクササイズをこなしていく、というような教え方ではなかったと。

まったく違いましたね。「これを練習してきて、来週また見せて」という感じではない。それは、昔のジャズミュージシャンたちが音楽を教えるときのスタイルでもあったと思います。ジャズはそもそも新しい音楽だったし、誰もが“即興的”に学んでいた。

ジャズを学ぶ一番の方法は、「コミュニティの中に入ること」。現場に行って演奏を聴いたり、リハーサルを見たり、インタビューを読んだり。可能なら実際にそのミュージシャンと飲みに行ったり、ご飯を食べたり、ただ会話することでも多くを学べます。

・多くのピアニストに残るジャッキー・バイヤードの足跡

——あなたの音楽を聴いていると、ジャッキー・バイヤードを連想しました。彼についてはどう感じていますか?

正直に言うと、ジャッキー・バイヤードをそこまで深く聴き込んできたわけではありません。でも、彼に対して最も敬意を抱いているのは、「ジャズのすべてのジャンルを横断して演奏していた最初のピアニストの一人だった」ことです。

ストライド・ピアノに精通していて、リズムに対する深い理解があった。ビバップにも強く、モダン・ジャズやアヴァンギャルド、ハードバップのシーンにも参加していました。彼は本当に“ジャズの歴史そのもの”のような存在でした。テディ・ウィルソンやアール・ハインズと共演している映像も観ました。ジャズの流れにこれほど深くつながっている人はいないと思います。

しかも、僕の師匠たちも彼に学んでいました。フレッド・ハーシュも、ジェイソン・モランも。ラリー・ゴールディングスも彼の弟子だったと思います。直接的であれ間接的であれ、ジャッキー・バイヤードの“足跡”は多くのピアニストに残っているんです。僕自身も、子供の頃には知らなかったけど、今では彼の存在の大きさを感じています。

——ジャッキー・バイヤードのアルバムの中で、特に好きな作品はありますか?

思い浮かぶのは、彼のリーダー作というより、サイドマンとして参加していた作品ですね。サム・リヴァースの『Fuchsia Swing Song』が特に印象に残っています。

正直に言うと、僕はあまり“アルバム”単位で音楽を聴くタイプではないんです。どちらかと言えば、特定の曲を深掘りしたり、いろんなピアニストがどうやってその曲を演奏しているのかを聴き比べるのが好きですね。それ以外にも、インタビューを読んだり、コンサート映像をYouTubeで観たりする方が、僕にとっては刺激的だったりします。アルバムをしっかり聴くように努力はしていますけど、やっぱり曲単位やライヴの演奏のほうに強く惹かれるんです。

◎ ソロピアノは孤独だけど、自由と真実が詰まっている

——あなたはソロピアノに強いこだわりを持っていますよね。でも、すべてのジャズピアニストがソロで演奏するわけではありません。むしろ、避ける人も多いと思います。ソロピアノについて、あなたはどう考えていますか?

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