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解題『両性具有神の恋』⑩:「TAと担当クラス受講生の恋愛は禁止」の件

長編小説『両性具有神の恋』を解説するエッセイシリーズです。単行本はAmazon、共同文化社公式サイト、北海道内の主な書店で発売中です。少しずつ感想が届き始めています。ありがとうございます!
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本作の第二章に、こんなくだりがあります。

「如月くんは、TAの研修会には出たんだろうね」
「はい、出ました。一学期はフランス語のTAをやったので、その前に」
 OHPの電源を入れてレンズの高さを調節しながら、彼は答えた。
 TAを希望する大学院生は、毎年行われる研修会に、最低一度は出席する義務がある。そこで伝えられる注意事項の一つが、担当クラスの学部生と交際してはならない、というものだった。学生の成績評価には教師だけでなく、TAも関わることが少なくない。交際の禁止は、TAが恋愛の相手に不当な高評価をつけるのを防ぐのと同時に、たとえフェアな成績評価をしていたとしても、ひいきをしているのではないかと周囲の学生に疑われる危険を避けるためでもあった。
 学生と、教員や教員に準ずるTAとの間に時々恋愛感情が発生するのは事実で、結婚したという話もたまに耳にすることがある。しかし現在、大学は立場の違う者同士の交際を禁じている。TA研修会で禁止の理由を成績評価の観点から説明するのは、それが院生にとって最も理解しやすいからで、本当の理由はより根本的なところにある。学生と、学生の評価に携わる教員やTAの間には不均衡な権力関係があり、対等な付き合いにはならない。そこから生じうる問題の芽をあらかじめ摘んでおく、ということだ。
 弱い立場と強い立場にそれぞれ固定された者がいる場所で、性的なアプローチが野放しにされれば、そこは醜い揉め事の温床となる。私より上の世代の教員は、それも社会の現実、そういうものだとして放置しておく向きが多かったが、今は時代が変わった。
 一方で学部生には、TAに交際を申し込んではいけない、といった指導はされていない。もしそういうことがあれば、立場が上の者が自制心をもって断るべきだと、TAには暗黙のうちに求められているのだった。

『両性具有神の恋』第二章より

21世紀にOHP!?  というツッコミは脇に置いていただいて(笑)、これは初回授業でTAの如月があまりに女子学生から注目を集めているので、心配になった朝永先生が彼に確認したところです。

本作中の大学のポリシーと筆者の勤務校の方針との関係ですが、TAは担当授業の受講生と交際してはいけない、という指示は実際にされています。理由は上記と同じ、成績を付ける上での公正性(フェアネス)確保の観点からです。一方、教員と学生の交際については、北大ではフォーマルな禁止令はありませんが、アメリカの大学では、学部生(undergraduate)と教員の交際禁止を定めているところはあります。日本においても、大学という共通の名前がついていても中身は千差万別なので、同様のポリシーを持っているところがあるかもしれません。

小説中の大学は東京都内の私大で、より厳しく明確に、TAと学部生、教員と院生および学部生の交際を禁じているという設定です。もちろん、大学コミュニティ構成員の全員がその決まりを遵守するよう、見張る方法はないわけですが……。

なお、作品中のTAの仕事については、自分自身が大学院生としてTAを務めた経験と、逆に教員としてTAを頼んだ経験を踏まえて書いています。

修士課程から博士課程の途中までを過ごした東京大学駒場キャンパスでは、著書『ディズニーランドという聖地』(岩波新書、1990年)で知られる能登路雅子先生の英語の授業でTAを務めました。能登路先生は元・博報堂勤務で、東京ディズニーランドの立ち上げに携わったのちに研究者に転身され、当時は教養学部の教授でした。
今では信じられないことかと思いますが、90年代半ば当時、教室にはまだ冷房設備がありませんでした。春夏学期の期末試験の日、蒸し風呂のような暑さの中で、きちんと化粧した能登路先生はクールなキャリアウーマンのたたずまいを全く乱されませんでした。一方、答案用紙には100%男子(理系クラスでした)の受講者の汗が滲み込み、TAの筆者はしっとり湿った用紙を、使用済み雑巾を素手で回収する気分でつまみ上げ、集めたのを憶えています。

北大の英語教員になって、何度かTAに授業を補佐してもらう機会がありました。制度の使い方は小説に書いたのと同じで、TA配置係の教員が全学の大学院生に向けてTA募集を告知し、集まった院生とTA希望の教師のスケジュールをマッチングします。事前に知り合いの院生と話をつけておき、自分の授業に当ててもらうこともできますが、筆者はやったことがありません。

小説中の如月燎の働きぶりは、筆者に割り振られた中でいちばん優秀だったTAを思い出しながら書きました。女性で、北大文学研究院の院生でした。こちらの依頼内容をこなすのはもちろん、自分から積極的に提案して効率的に仕事を進めていた彼女は、その後博士号を取得し、今は立派な研究者になっています。

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本エッセイシリーズの目次は以下にあります。次回以降は随時、話題ができた時に執筆公開します。今後とも、よろしくお付き合いください。
https://note.com/eiko_mt/n/n40f2d6418db1

******(以下各回共通)*****

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