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解題『両性具有神の恋』⑦:ナサニエル・ホーソーン「痣」「ラパチーニの娘」「緋文字」

2026年4月下旬発売の長編小説、『両性具有神の恋』を解説するエッセイシリーズです。
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※以下は若干のネタバレ要素を含みます。読了後でなければ、ネタバレを気にしない、もしくは読む前に詳しい情報を知りたい方向けです。

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語り手の朝永惇也教授は19世紀アメリカ文学を専門とする研究者で、一般教養の英語の授業でも文学作品を教材に使っています。本作のメインパートにあたる学期では、ナサニエル・ホーソーンの短編集から4本を読む授業を開講し、ここに大学院生の如月燎がTA(授業補助)として加わることで物語が進んでいきます。

本作では、授業の教材として選ばれた4本のうちの「あざ」と「ラパチーニの娘」に加え、ホーソーンの代表作、「緋文字」がストーリーにからんできます。以下、この3作を簡単に紹介しながら本作中での意味を解説します。

「痣」(1843年)

あらすじ:美しい妻にある唯一の欠点は、頬にある手の形をした小さな痣だった。夫は妻を完全な存在に高めようと痣を消す薬を調合し、妻に飲ませるが、痣が消えると同時に妻の命の火も消えてしまう。

この短編に登場する夫が本当に妻を愛していたのか否かについて、燎と惇也が話をするシーンがあります。「完全な存在しか愛せない人」と妻に評される夫の心をどう解釈するかという問題は、『両性具有神の恋』においては、惇也の語りの最終盤まで残されます。
また、「痣」中の夫婦の関係は、惇也と彼のかつての恋人・アーネストとの関係に重ねられてもいます。惇也の下唇の左端にある小さなほくろは、惇也の身体的個性として、何度かクローズアップされることになります。

「ラパチーニの娘」(1844年)

あらすじ:舞台は昔のイタリア。青年ジョバンニは名高い老医師ラパチーニの娘、ベアトリーチェに恋をする。しかし、娘を何よりも強い存在に育てようとしたラパチーニの目論見により、ベアトリーチェは毒のある植物とともに育ったため、彼女自身が毒を持つ存在になっていた。ベアトリーチェと逢瀬を重ねるうち、ジョバンニは自らも毒気を放ち始めたことに気づく。彼はラパチーニのライバル医師から解毒剤を入手し、一緒に飲もうとベアトリーチェに提案するが、解毒剤はベアトリーチェにとっては毒であり、それを飲んだ彼女は死んでしまうのだった。

ホーソーン作品の中で、筆者が最も好きな寓話的物語。このエッセイを準備していて初めて知りましたが、今年の2~3月に、東京でミュージカル化作品が上演されていたそうです。ミュージカル『ラパチーニの園』 公式ホームページ | 2026年2月~3月新国立劇場小劇場
ほか、漫画家の水木しげるが「妖棋死人帳」のタイトルで翻案作品を描いています。

惇也は燎の、時に扇情的な振る舞いや言葉に加え、悪意を持つ同僚に真偽不明な話を聞かされて、彼が果たして最初に思った通りの純粋な心を持つ若者か、それとも魔性的本性を持つ者かと思い悩むようになります。これは、美しいが毒を持ったベアトリーチェに対するジョバンニの苦悩と重なります。また、「痣」と同様、愛の対象を理想の存在に作り上げようとする男の試みは、アーネストの惇也との関係と相似形を成しています。

緋文字ひもんじ」(1850年)

あらすじ:17世紀のアメリカ植民地、宗教と政治が一体化していた時代のボストン。ヘスター・プリンは夫の長期不在中に娘パールを身ごもり、罰として姦通を表す赤い「A」の文字を服の胸に一生まとうことを義務づけられる。ヘスターはパールの父親が誰なのか決して明かさないが、夫のチリングワース医師は町の人々の尊敬を集める牧師・ディムズデールがヘスターの相手とにらみ、彼を心理的に追い詰めていく。衰弱したディムズデールが公衆の前で真実を告白した時、彼の胸にも「A」の文字があったとのちに言う者がいた。ディムズデール、次いでチリングワースが亡くなった後、ヘスターはパールを育て上げ、町の女性たちの悩み事の聞き役となった。

ホーソーンのあまりにも有名な代表作。『両性具有神の恋』の中では、秘密の恋と罪の意識にかかわるシーンで、登場人物たちの間で話題にされます。また、物語を通じ、惇也は職業倫理と情熱との間で葛藤しますが、終盤には自らを「緋文字」の登場人物に重ねるシーンがあります。

ホーソーン作品にかかわるどの部分も、元の作品を知らなくてもわかるように書いていますが、知っていればより楽しめるかもしれません。

なお、ホーソーンの短編を読む授業は、筆者が大学院生の頃、実際に受講していた授業を元にしています。担当は國重純二先生(1942-2013)でした。
國重先生のほか、東大駒場キャンパスでは島田太郎先生、瀧田佳子先生、亀井俊介先生、柴田元幸先生の文学関係の授業を受講する機会に恵まれました。筆者は文学の専門ではありませんが、当時はアメリカの何を専門にするのでも、アメリカの歴史と文学・文学史は学ぶものという一般的理解があったと思います。

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次回のトピック:大学のハラスメント相談体制―小説での描写とリアルとの相違

シリーズ第10回までの目次は以下にあります。2026年5月1日まで、週1回、金曜日の20:30に順次公開します。
https://note.com/eiko_mt/n/n40f2d6418db1

******(以下各回共通)*****

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