#149 石井(2014):高次の学力の質的レベルを捉える枠組み : N. L. ウェブの「知の深さ」を中心に
学力モデルは、子どもの学びにどう貢献するのか。
石井英真さんの「高次の学力の質的レベルを捉える枠組み : N. L. ウェブの「知の深さ」を中心に」論文を読んで
1.なぜ「学力モデル」なのか
石井英真さんの
「高次の学力の質的レベルを捉える枠組み ― N. L. ウェブの『知の深さ』を中心に」
を読んだ。
この論文を手に取った理由は、
「学力モデル」というもの自体への関心があったからである。
学力とは何か
思考力とは何か
「できる」とは、どのレベルのことなのか
こうした見えにくいものを、構造として可視化しようとする営みが、
教育方法学において大切にされているのではないかと感じている。
一方で私は、こうも思ってしまう。
モデルをつくること自体が、
何か大切なものを捨象してしまってはいないか。
その問いを胸に、この論文を読み進めた。
2.「知の深さ(DOK)」とは、何を捉えようとした理論なのか
本稿で石井先生が検討しているのは、
N. L. ウェブ(Webb)による Depth of Knowledge(DOK) という枠組みである。
DOKは、単なる「難易度」や「問題形式」の分類ではない。
石井先生は、DOKの核心を次のように位置づけている。
「DOKのレベルは、問題の形式でもなく、難しさのレベルでもなく、
学習者に実際に求められる認知過程の複雑性のレベルで捉えられている」
この一文に、この枠組みの本質が凝縮されている。
DOKが問うのは、
どれだけ多く知っているか
どれだけ速く解けるか
ではなく、
「その知識を、どのような文脈で、どのレベルの思考として使っているのか」
という点である。
3.レベル③を「二つに分ける」ことの意味
DOKの大きな特徴の一つが、
知識・技能を総合して扱う思考(レベル③)を、さらに二つに分ける点である。
石井先生は、この点を極めて重要な示唆として扱っている。
「DOKは、知識・技能を総合的に活用して問題を解決したり知を創造したりするレベル③を、取り組みの時間の長さ、および、認知的な複雑さや学習活動の単位の質的な違いによって二つに分ける」
ここが、私にとって最も腑に落ちた部分だった。
テスト文脈での総合的問題
長期的・プロジェクト的に取り組む課題
この二つは、同じ「思考力」でも、質が明らかに異なる。
DOKは、その差を曖昧にせず、教育実践の中で区別しようとする。
これは、現場感覚と非常によく一致している。
4.なぜ今、「学力の質」が問われるのか
論文終盤で、石井先生は日本の教育状況に引き寄せて、次のように述べている。
「現代社会は、学校教育が知識・技能を量的に保障するだけでは満足せず、
高度で柔軟な知的能力や、異質な他者とのコミュニケーション能力といった
学力の質の追求をも求める」
そして、決定的な問いが提示される。
「思考力を育てるかどうかではなく、どのレベルの思考力を育てるかが問われているのである」
これは、学習指導要領で語られる
「思考力・判断力・表現力」を、具体的に考えるための視点だと思う。
目標が抽象的であればあるほど、
何を目指しているのか
いまどの地点にいるのか
次に何を支援すればよいのか
が見えなくなる。
だからこそ、質的レベルをもった学力モデルは、現場にとって不可欠なのだと思う。
5.「モデル」だけでいいのか
ここまで読んで、私は改めて思った。
学力モデルは、
確かに「見えにくいものを照らす光」になる。
しかし同時に、こうも感じる。
モデルは、子どもの外側に置かれやすい
教師が「解釈する側」、子どもが「適合する側」になりやすい
モデルを示しただけでは、
子どもが「この力を身につけたい」と心から思えるかどうか。
は、保証されないのではないか。
ここに、教師の力量
学力モデルを解釈し、具体化し、子どもの学びの文脈に翻訳する力
が強く問われるのだと思う。
6.学習としての評価(AaL)へ:私の問い
DOKは、極めて有用な枠組みだ。
しかし、それが「絵に描いたモデル」で終わるか、
「子どもの学びを方向づける道具」になるかは、
教師の関わり方次第であると思う。
このモデルを、どのような言葉で子どもに伝えるのか
子ども自身が、自分の学びをこのモデルで捉え直せるのか
評価が「外からの判定」ではなく、「自分の学びを調整する手がかり」になるのか
その地点に至ったとき、
はじめて 学習としての評価(Assessment as Learning) が立ち上がるのだと考える。
学力モデルは、ゴールではない。
子どもが、どのような力を育てようとするかを示す道しるべになってこそ、意味をもつのではないか。
参考文献
石井英真(2014):「高次の学力の質的レベルを捉える枠組み : N. L. ウェブの『知の深さ』を中心に」『教育方法の探究』第17号,25–32.
