翻訳者としての私の役割 ー 多様性を活かし、組織の成熟度を高める ー
私は大学職員として約10年弱、教学、法人、経営企画、中央政府との接点を持つ業務など、5つの部署(中央政府で2年)を経験してきた。
さらに大学の外では事業実装や経営者としての視点も持つようになった。
振り返ると、自分のキャリアは特定分野の専門家を目指したものではなかった。
教育。
研究。
経営。
政策。
現場。
事業。
それぞれの世界を経験しながら、異なる立場の人たちが何を見て、何を大切にしているのかを学んできた。
その結果、今の私はこう考えている。
私の最大の価値は「翻訳すること」にある。
大学職員の4類型
大学職員を私は次の2軸で考えている。
卒業生か
他大学出身か
プロパーか
中途か
それぞれに強みと弱みがある。
① 卒業生プロパー
強み
大学への愛着
学生目線
組織文化への理解
卒業生ネットワーク
弱み
客観性を失いやすい
大学生感覚を引きずりやすい
外部比較が少ない
② 他大学卒業プロパー
強み
比較視点
客観性
改善意識
弱み
文化理解が浅くなりやすい
愛着形成に時間がかかる
③ 中途・卒業生
強み
社会経験と大学理解
学生視点と社会視点
弱み
理想と現実のギャップ
母校への期待が高くなりやすい
④ 中途・他大学卒業
強み
外部視点
危機感
変革志向
弱み
組織文化への適応
孤立リスク
重要なのは、
どのタイプが優秀かではない。
それぞれが異なる景色を見ているということである。
「能力が低い」のではなく、見ている景色が違う
大学ではよく、
「あの部署は経営感覚がない」
「あの人は現場を分かっていない」
「能力が低い」
という言葉を耳にする。
しかし本当にそうだろうか。
教員は研究と教育を考えている。
職員は実務を考えている。
経営層は持続可能性を考えている。
行政は政策効果と社会的責任を考えている。
中央政府との仕事を経験した時、私は強く感じた。
多くの対立は能力の問題ではない。
前提条件の違いである。
研究者の正しさ。
経営の正しさ。
現場の正しさ。
政策の正しさ。
どれも正しい。
しかし、それぞれ違う言語で語っている。
だから噛み合わない。
私に求められているのは翻訳者
だから私は、どちらかの味方になりたいわけではない。
教員の味方でもない。
職員の味方でもない。
経営の味方でもない。
私に求められているのは、
翻訳者
である。
教員の想いを職員へ伝える。
職員の現実を経営へ伝える。
経営の危機感を現場へ伝える。
政策の背景を大学へ伝える。
大学の課題を社会へ伝える。
翻訳とは単なる言い換えではない。
相手が見ている景色を理解し、
相互理解を生むことだ。
翻訳者に必要な7つのスキル
翻訳者には次の力が必要だと思う。
① 構造化力
感情や不満を論点に変える力。
② 傾聴力
言葉の裏側にある不安や期待を理解する力。
③ 多面的視点
教育、研究、経営、政策を行き来できる力。
④ 分析力
定量と定性を分けて本質を見抜く力。
⑤ ストーリーテリング力
相手に伝わる言葉へ変換する力。
⑥ 人脈形成力
人と人をつなぐ力。
⑦ 布石を打つ力
未来から逆算して今行動する力。
共創の種をまく
私は仕事を調整だとは思っていない。
むしろ、
共創の種をまく仕事
だと思っている。
人と人をつなぐ。
情報をつなぐ。
視点をつなぐ。
その場で成果にならなくてもよい。
適切なタイミングで水をあげる。
育てる。
そのために必要な人脈や情報は惜しまない。
紹介する。
共有する。
応援する。
未来の成果は、今日の出会いから生まれることが多いからだ。
仕事は囲碁に似ている
私は仕事を囲碁に例えることが多い。
目の前の一手だけでは勝てない。
重要なのは布石である。
今すぐ成果にならないことでも、
将来につながる一手を打つ。
人との信頼を築く。
学び続ける。
情報を共有する。
共創の土壌をつくる。
だから私は忙しい時こそ立ち止まる。
10分でもいい。
15分でもいい。
落ち着いて考える。
「今、自分が置くべき布石は何か」
を考える。
その時間が、最も価値の高い時間だと思っている。
翻訳者の先にあるもの
私は翻訳者であると同時に、
アントレプレナーでありたいと思っている。
アントレプレナーとは会社を作る人ではない。
新しい価値を生み出す人である。
翻訳によって理解を生み、
共創によって可能性を生み、
実装によって新しい価値を生み出す。
その循環をつくる人になりたい。
おわりに
これからの大学に必要なのは、同じ考えの人ではない。
多様な考えを持つ人である。
そして、その多様性を組織の力へ変換する人である。
私はそれが翻訳者だと思っている。
囲碁には有名な言葉がある。
着眼大局、着手小局
大学の未来という大きな視点を持ちながら、
目の前の人をつなぐ。
一つの対話を生み出す。
一つの種をまく。
翻訳することこそが、私自身の価値の最大化である。
そして、その先に組織の成熟と新しい価値創造があると信じている。
