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津川友介を10年分まとめて読む〜誕生日論文という通過点〜

Xでまた津川友介氏の論文が回ってきた。「外科医の誕生日に手術を受けると死亡率が上がる」。見出しだけ読むとオカルトに近い。

だが、これを単発の小ネタとして驚くか、津川氏が10年叩き続けている一連の研究の一つとして読むかで、見える景色がまるで変わる。

これはBMJのクリスマス号に載った一本だ。毎年12月、英国医学誌が真顔で人を食ったお題を出す恒例企画。


ネタの皮、設計の中身

過去の常連を並べると雰囲気がわかる。飛行機から飛び降りる際のパラシュートの有効性を検証したランダム化比較試験(2018)。被験者23人をパラシュート群と空のリュック群に割り付け、差は出なかった。種を明かせば、地上に駐機した機内で飛び降りたという落ち。ハリー・ポッター読者の頭部外傷、The Sims 4の医師の労働時間、毎年この調子だ。

お題はふざけている。だが査読基準は通常号と同じだ。設計はふざけていない。

論文の対象は、2011年から2014年に17種類の一般的な緊急手術を受けた、65歳から99歳の米国メディケア受給者。980,876件、執刀医47,489人。うち外科医の誕生日に行われたのは2,064件、全体の0.2%。

なぜ誕生日か。患者は執刀医の誕生日を知らない。だから手術日を選んで避けることができない。さらに緊急手術に絞れば、患者の側で日付を選ぶ余地がほぼ消える。誕生日という条件が、ほぼランダムに割り振られる。仕上げに、同じ外科医が誕生日に執刀した手術と、他の日に執刀した手術だけを突き合わせる(within-surgeon)。腕の個人差という交絡も、これで消える。人を食ったお題が、二重の交絡除去装置になっている。 ここが巧い。

誕生日は「仕事と無関係なライフイベントが集中する日」の代理変数だ。家族の予定、お祝いの連絡、スマホの通知。注意散漫が手術成績に出るのか。それを大規模データで殴りにいった研究になる。

数字は、紙一重だった

結果。患者背景と外科医個人差(surgeon fixed effects)で補正した30日死亡率は、誕生日群6.9%、他日群5.6%。差は1.3ポイント。単純計算で約23%増になる。だが、その1.3ポイントの95%信頼区間は0.1から2.5。下限はほぼゼロに張り付いている。p値は0.03。派手な相対値の足元で、絶対差は98万件を積み上げてようやく有意の縁に乗っただけだった。

Xで回るのはここまでだ。論文の表をもう一段見ると、その薄さが見えてくる。

論文にはイベントスタディの図もある。誕生日の前後2週間で死亡率を追うと、当日付近だけが跳ねる。「当日だけ」という形は、ただの偶然では説明しにくい。CI下限の薄さとは逆向きに、効果の実在を支える材料になる。読み手はこの両方を同時に見ておく必要がある。

重症度を含む患者背景は、誕生日群と他日群でほぼ同じ。つまり「誕生日に難しい症例が偏った」では説明しにくい。設計は誠実だ。それでも効果量は薄い。クリスマス号の本領はここにある。題はジョーク、手続きは厳密、結論は慎重。三つが同居している。

津川友介は10年間、同じことを言っている

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