自転車の逆走で6,000円 青切符で重点取締になるわけ
4月1日から自転車の青切符制度が始まった。
SNSには検挙報告が流れ始めている。その中で目立つのが、逆走での摘発だ。信号無視でも、ながらスマホでもなく、逆走。3月に書いた青切符の記事では「施行初日は一斉取り締まりがある」と予測したが、2週間が経った今、現実がその通りに動いている。反則金は6,000円。「ただ道路を走っていただけなのに」という声もあるが、私はずっとこれを問題だと思ってきた。
安全だと思っている
逆走する人に悪意はない。「前から来る車が見えるから安全」という確信を持っている。対向車線を向いて走れば、車が来ても避けられる。そういう感覚で習慣化している。
なかには、自分が逆走していると気づいていないケースもある。一方通行の標識を見ていない、路側帯との区別がついていない。現場でそういう人を何度も見てきた。
この感覚が間違っている。
施行前の赤切符時代から、通行区分違反は自転車の検挙件数上位に入り続けていた。件数が多い=よくある違反なのに、取り締まられていなかった。それが今月から変わった。
出会い頭より怖い
車と自転車が正面から近づく場合、双方の速度が合算される。時速40kmで走る車と、時速15kmで走る自転車が向かい合えば、衝突時の相対速度は時速55kmになる。同じ方向に走っていれば、その差は25km。運動エネルギーは速度の二乗に比例するので、正面衝突は同方向追突の3倍以上のエネルギーを生む。「見えているから避けられる」は、物理的に成立しない場面がある。
自転車事故の類型として「出会い頭」が有名だ。交差点で視野外から突っ込んでくる。確かに怖い。
逆走はそれと別の問題を抱えている。正面からの衝突は、回避できたとしても接触するケースが多い。路肩が狭い道では双方に逃げ場がない。自転車が車道の右端を走っていれば、車は中央線を越えないと避けられない。対向車線に車がいれば、その回避も不可能になる。車側には選択肢がない状況が起きうる。
さらに電動アシスト自転車の普及が加わる。令和元年から令和6年の5年間で、電動アシスト自転車の事故件数は2.5倍に増えた。子ども乗せタイプは車体だけで30kg超、大人と子ども2人を乗せれば総重量100kgを超える。その重さが逆走で正面から来る。相対速度に重量が乗るので、衝突時のエネルギーはさらに上がる。
頭部外傷の話
衝突直後、意識があって普通に喋れる。それから数時間後に急変する。硬膜外血腫や急性硬膜下血腫の典型的な経過で、"talk and die"と呼ばれる。意識が保たれているうちに画像を撮って、開頭のタイミングを逃さないことが全てになる。逆走自転車の事故で、そういう経過を何度も見てきた。
正面衝突で自転車乗りが車に跳ねられると、ほぼ確実に頭部が地面か車体に当たる。ヘルメット非着用の致死率は、着用者の約1.4倍。 令和6年の自転車死亡事故では、死者の約5割が頭部を損傷していた。全国のヘルメット着用率は21%だ(2025年警察庁調査)。最もダメージを受けやすい部位が、最も守られていない。
助かっても、高次脳機能障害が残ることがある。記憶力の低下、感情コントロールの困難、仕事への支障。事故の瞬間は終わっても、そこからの人生が変わる。
6,000円の意味
青切符制度では、逆走(通行区分違反)の反則金は6,000円だ。信号無視と同額に設定されている。
「なぜそんなに高いのか」という声を見かけるが、この金額は事故の危険性に対応している。ひとつ誤解も多いのが、路側帯の扱いだ。「歩道の端っこなら逆走してもいい」と思っている人がいるが、路側帯も右側通行は違反で同じ6,000円になる。
指導警告が原則とはいえ、危険性・悪質性が高いと判断されれば即切符になる。取締中の現場を逆走でスルーすれば、警告なしで交付される。
16歳以上が対象で、自転車に免許はいらない。「知らなかった」は通用しない制度だが、そもそも「なぜ逆走が駄目なのか」が体感されていない人の方が多い。
6,000円を払って終わる人がほとんどだろう。ただ、手術室で見てきた側からすると、払わずに済んだ方が、ずっといい。
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