味噌と血圧「信頼できる論文」6本を全部読んだ
前回の記事に、マルカワみその河崎専務ご本人から反応があった。
「信頼できる論文を提示させていただきます」として、6本のリンクが並んでいる。
ブログありがとうございます。
— マルカワみそ@河崎紘徳 (@marukawa1914) March 26, 2026
腎臓にご病気がある方、塩分制限しなければならない方はお医者様と相談して塩分制限してください。
少しでも皆様の健康に貢献できれば、私は嬉しいです。
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ありがたい。具体的な論文が出てきたので、一本ずつ開いて読める。
味噌メーカーの経営者が自社に有利な論文を並べるのは、ビジネスとしては合理的な行動だ。それ自体を批判しているわけではないことを最初にお断りしておく。
① 527名の横断研究
“The Effects of the Habitual Consumption of Miso Soup on the Blood Pressure and Heart Rate of Japanese Adults: A Cross-sectional Study of a Health Examination”
Ito K et al. Intern Med. 2017; 56: 23-29
健康診断受診者527名を対象に、味噌汁の摂取頻度と血圧・心拍数の関連を見た研究。結論は「味噌汁の摂取頻度は血圧と関連しなかった。心拍数は頻回摂取群で低かった」。
横断研究だ。ある一時点で集団を観察し、相関を見ている。
著者自身がDiscussionでこう書いている。「the present study was designed as a cross-sectional study. We should therefore avoid claiming the existence of a causal relationship」。因果関係の主張は避けるべきだ、と。
血圧が高い人がすでに味噌汁を控えていた可能性がある。運動習慣や他の食事の影響も統制しきれていない。「飲んだから上がらなかった」とは言えない。著者自身が認めている限界を、引用する側が無視してはならない。
対象も健康診断受診者に限られる。重症高血圧や食塩感受性の高い人は含まれていない。著者はselection biasの存在もlimitationに挙げている。
前回の記事で指摘した研究そのものであり、限界もそのまま当てはまる。
② レビュー論文
“Review of the health benefits of habitual consumption of miso soup: focus on the effects on sympathetic nerve activity, blood pressure, and heart rate”
Ito K. Environ Health Prev Med. 2020; 25: 45
新しい実験データを含む原著論文ではない。既存の研究を著者がまとめたレビュー(総説)だ。
著者のIto Kは①の筆頭著者と同一人物で、レビュー内で引用している研究の多くが自身のマウス実験である。自分の研究を自分でまとめた総説ということになる。
レビュー論文は、そこに含まれる個々の研究の質を超えない。元の論文に限界があれば、レビューにも引き継がれる。
そしてこのレビューのPerspectivesセクションに、著者自身がこう書いている。「The results obtained from animal experiments cannot be directly applied to clinical settings」。動物実験の結果を臨床に直接適用することはできない。さらに「data are inadequate to conclude the effects of miso on blood pressure and heart rate in humans」。ヒトにおける味噌の効果を結論づけるにはデータが不十分である、と。
提示された「信頼できる論文」の著者自身が、データ不十分と認めている。
③ 38名のRCT
“Long-term intake of miso soup decreases nighttime blood pressure in subjects with high-normal blood pressure or stage I hypertension”
Kondo H et al. Hypertens Res. 2019(Nature掲載)
味噌群19名、対照群19名。8週間のランダム化比較試験。日中の血圧に差はなく、夜間血圧のプロファイルで味噌群に有意な低下が認められたとする。
研究デザインとしてはRCTであり、横断研究よりエビデンスレベルは高い。
ただし、各群19名。この規模で検出された差が臨床的に意味のある効果なのか、偶然の変動なのかは判別しにくい。日中血圧には有意差がなく、差が出たのは夜間血圧のプロファイル(全夜間の反復測定分散分析)だ。個々の時点ではp=0.085やp=0.062と、有意水準に達していない値が並ぶ。
使われた味噌はマルコメ株式会社が特別に製造した高ACE阻害活性の味噌(MK-34-1味噌と市販「ねんりん」味噌の2:1配合)で、スーパーで買える味噌とは違う。この結果をもって「普段の味噌汁は大丈夫」とは言えない。
資金欄に「Marukome Co., Ltd.」が明記され、共著者にマルコメ社員が入っている。それでいて利益相反欄には「The authors declare that they have no conflict of interest」。味噌メーカーが資金を出し、社員が共著に入り、メーカー製造の味噌を使った研究で「利益相反なし」。医薬品の臨床試験なら通らない開示の仕方だ。
前回の記事で詳しく触れた研究そのものである。
④ ③の先行研究
“Long term intake of MISO soup unaffected blood pressure in subjects with normal or stage I hypertension — Double blind comparative intervention trial”
Kitagawa M et al. Jpn Pharmacol Ther. 2016; 44: 1601-1612
正常血圧またはステージI高血圧の被験者に味噌汁を1日2杯、3か月間摂取させ、日中血圧に影響がなかったとする二重盲検比較試験。③の論文が先行研究として引用しているのがこれだ。
掲載誌は「薬理と治療」。国際的な査読プロセスを経た英文誌ではなく、国内向けの媒体になる。
③と同じ上原教授のグループ、同じマルコメのMK-34-1味噌。③と④は独立した2本の研究ではなく、同じグループ・同じスポンサー・同じ味噌による連続した研究だ。
「複数の論文がある」ことと「独立した根拠が複数ある」ことは違う。
⑤ 大規模コホート
“Fermented Soy Product Intake Is Inversely Associated with the Development of High Blood Pressure: The Japan Public Health Center-Based Prospective Study”
Nozue M (Shimazu T) et al. J Nutr. 2017; 147: 1749-1756
JPHC Study(多目的コホート研究)のデータを用いた前向き研究。正常血圧の男女4,165名を5年間追跡している。今回の6本で最もサンプルサイズが大きく、研究デザインの信頼性も高い。味噌業界からの資金提供は確認されない。
ただし、結論を正確に読む必要がある。
この論文が示したのは、「発酵性大豆製品」の摂取が高血圧発症と逆相関したということだ。発酵性大豆製品には味噌だけでなく納豆が含まれる。非発酵性大豆製品(豆腐)には関連がなかった。
「味噌汁の塩分は問題ない」という主張の根拠にはならない。味噌汁の塩分は味噌汁の塩分として存在している。発酵過程の何らかの成分で完全に相殺されるという結論は、この論文からは出てこない。
6本の中で最も質の高い研究が、「味噌汁で血圧は上がらない」という主張を支持していない。
⑥ ラットの実験
“A miso (Japanese soybean paste) diet conferred greater protection against hypertension than a sodium chloride diet in Dahl salt-sensitive rats”
Watanabe H et al. Hypertens Res. 2006; 29: 731-738
Dahl食塩感受性ラットに味噌食と食塩食を与え、同じ塩分量でも味噌食群の方が血圧上昇を抑制されたとする動物実験。
ヒトの研究ではない。
Dahl食塩感受性ラットは遺伝的に食塩への血圧反応が極めて強い特殊なモデルだ。ヒトの一般集団にそのまま当てはめることはできない。②のレビュー著者自身が「動物実験の結果を臨床に直接適用できない」と述べていることは、すでに触れた。
6本並べて見えるもの
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