生理痛体験研修という利権〜東京都「指針」の裏側〜
生理痛体験研修「炎上」の構造
大晦日に燃えた。四十肩氏(@frozen_investor)が「生理痛体験をして、女は甘えていると分かった。シフト無視する」と投稿した。明らかな風刺である。


この投稿が拡散されたことで、施策の本質的欠陥が露呈した。体験しても、逆効果になりうる。風刺が現実を先取りしていた。
SNSでは男女問わず批判が殺到した。「拷問」「逆差別」「見せ物」「罰ゲーム」。女性からも「そこまでして分かってもらおうとは思わない」「女性側も求めていない」という声が上がった。賛否両論というより、否が圧倒的だった。
東京都が「指針」に載せた
2025年12月9日、松本明子副知事が「女性活躍推進条例案」の指針に「男性管理職への生理痛体験会」を盛り込むと答弁した。12月17日には都民ファースト・自民等の賛成多数で可決。2026年7月施行予定となっている。
都は「直接実施しない」「事例として示しただけ」と釈明する。しかし指針に載れば事実上の推奨である。企業は「やらなければ」と思う。そういう構造になっている。
背景には経済産業省の試算がある。女性特有の健康課題による経済損失は年間約3.4兆円。この数字が「女性活躍推進」の錦の御旗になっている。損失を減らすために理解を深める。理解を深めるために体験させる。論理としては通っているように見える。
だが、管理職に電気を流しても、部下の生理痛は改善しない。
研修ビジネスの実態
装置の名前は「ピリオノイド」。甲南大学と奈良女子大学の研究から生まれた。もともとは重い生理痛に悩む女子学生が、同性にも痛みを理解してほしいと開発に関わったものだ。
20名で1時間30万円から。一人あたり約1.5万円。セミナー、体験、ワークショップの3部構成でパッケージ化されている。
参入業者は複数いる。開発元は大阪大学発ベンチャーの大阪ヒートクール。2023年4月に企業向け研修を開始した。翌年8月にリンケージが事業を引き継ぎ、2025年6月時点で累計270社・団体、のべ1万2千人に提供。今年度の研修数は昨年度比3倍に伸びた。マイナビ健康経営がパッケージ販売、nanoniが研修提供。学校向けには生理用ショーツメーカーのBe-A Japanが参入している。
導入企業には名だたる大企業が並ぶ。東京ガス、シャープ、パナソニック コネクト、小林製薬、LIXIL、三菱商事。「健康経営」「ダイバーシティ推進」の文脈で広がっている。
東京都中小企業振興公社は「女性活躍のためのフェムテック開発支援・普及促進事業」として、製品開発側に最大2,000万円(助成率2/3)の助成金を出している。2023年度から始まった制度だ。開発・普及を後押しする公的資金が存在する。
弁護士からは「強制すれば暴行罪の可能性がある」との指摘も出ている。業者側は「希望者のみ」「同意書を取る」と説明するが、会社の研修で上司に勧められて断れるかどうかは別の話だ。
「体験しないと信じない」という構造
この研修には、もっと根深い問題がある。
女性が「つらい」と言っても信じてもらえない。男性が体験して初めて「本当だったんだ」と認める。研修後の感想として「想像以上に痛かった」「大げさだと思っていたが本当につらいと分かった」という声が紹介される。美談のように。
だが、これは女性の言葉を軽視していることの裏返しではないか。
漫画家・エッセイストの倉田真由美氏はこう指摘した。「他人の身体に痛みを与える権利など誰にもない。また、痛みを実際に感じなければ他人の痛みが分からないわけでもない」
「女性のため」と言いながら、研修の主役は男性管理職だ。メディアで注目されるのは男性の反応。「うおおっ…!」とうめく姿。女性の身体を「教材」にして、男性が学ぶ。その構造自体に違和感を覚える女性は少なくない。
構造的な問題を、個人の意識に矮小化している。3.4兆円の損失は、理解不足だけが原因ではない。制度の不備、人員配置の問題、休みにくい職場文化。研修で「意識が変わりました」と言わせても、それらは解決しない。
医学的には別物
そもそも、この装置は生理痛を再現できているのか。
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