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習い事を全部やめた娘と6年続けた息子〜同じ家庭で起きたこと〜

先日、こちらの記事を読んだ。

「早いうちからしっかり教育を入れていくほうがいいのか、子どもらしくのびのび過ごせる時間を大切にしたほうがいいのか」。現場で子どもたちを見ている方の実感として書かれていて、読みながらずっと頷いていた。

そして、この記事を読んだときに真っ先に頭に浮かんだのが、うちの二人の子どものことだった。

同じ家庭で、同じ親が育てている兄と妹。それなのに、習い事に対する反応がまったく違った。片方は自分で選んで6年間続け、もう片方はバーンアウトして全部やめた。

この経験と、以前から気になっていた脳の発達に関するいくつかの研究知見を重ねてみたら、元記事で書かれていた「現場の実感」を裏付けるようなものが見えてきた。一つの家庭の記録として、書いてみたい。

はじめにお断りさせていただきます。今回の記事は個人的情報が多数入っているため、いつものように身バレ防止の有料設定とさせていただきます。引用させていただいた、あいびより。様には申し訳ありません。


「自分で選ぶ」を6年間やり続けた長男

長男がピアノを始めたのは、本人が「やりたい」と言ったからでした。塾も同じです。親が先回りして用意したのではなく、本人が自分で「行きたい」と言った。

始めてしまえばもちろん、楽しい日ばかりではない。練習が面倒な日もあっただろうし、塾で歯が立たない問題に出くわすこともあったはずです。それでも6年間続きました。

そして受験のタイミングで、長男は自分から「ピアノは卒業する」と言った。やめさせられたのではありません。「今は受験を優先する。だからピアノはここで区切りにする」と、自分で決めた。中学からは野球がやりたいそうです。6年間の個人競技から、集団スポーツへ。

心理学者のEdward DeciとRichard Ryanが提唱した自己決定理論(Self-Determination Theory)では、人間の動機づけは「自律性」「有能感」「関係性」の三つの基本的欲求が満たされるときに最も健全に機能するとされています。数十年にわたる膨大な実証研究に支えられた理論です。

同じ行動でも「自分で選んだ」という感覚があるかないかで、脳の中ではまったく別の体験になっている。外から与えられた課題をこなすときと、自分で選んだ活動に取り組むときでは、ストレスホルモンの分泌パターンが異なります。自律的な動機づけで始めた活動は、持続しやすく、燃え尽きにくい。

長男がピアノを6年続けられたのは、根性があったからではないと思います。「自分で選んだ」という感覚が、最初からずっとあったからです。

もう一つ面白いのは、「やめる」という判断を自分でできたこと。

ブリティッシュコロンビア大学の神経科学者Adele Diamondは、前頭前皮質が司る実行機能(executive function)の研究を長年行っています。実行機能とは、抑制制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性といった、いわば「脳の交通整理」をする力のことです。

「やりたいことを選ぶ」だけなら、衝動でもできる。「今はこちらを優先するから、こちらは手放す」という判断には、自分の状況を俯瞰し、優先順位をつけ、感情的な愛着を抑える力が要ります。前頭前皮質の仕事であり、小学校高学年になって初めて本格的に動き始める能力です。

Diamondの研究が繰り返し示しているのは、この実行機能がドリル型のトレーニングよりも、遊びや自律的な活動の中でこそ育つということです。 長男が受験期に冷静に取捨選択できたのは、それまでの6年間、自分で選んで自分で続ける経験を積み重ねてきたからではないか。そう思っています。

もう一つ、長男の「中学から野球」という選択にも触れておきます。6年間のピアノという個人競技から、集団スポーツへの移行。これが思春期の脳の変化と重なっている。

神経科学者のSarah-Jayne Blakemoreらの研究によれば、思春期は「社会脳(social brain)」が大きく再編される時期です。内側前頭前皮質や上側頭溝といった、他者の意図を読み取り集団の中で自分の立ち位置を調整する脳領域が、シナプスレベルで再構築されていく。思春期の子どもが急に仲間関係に敏感になり、集団への帰属意識を強めるのは、この脳の変化と連動しています。

長男が「野球がやりたい」と言ったとき、親としてはただの好みの変化に見えました。でも脳の発達段階から見れば、個人で完結する活動から、チームメイトの動きを読みながら連携する集団スポーツへの移行は、社会脳が求めている刺激そのものだったのかもしれません。

全部やめた長女

長女は真逆の経過をたどりました。

長男が習い事をしている姿を見ていたからか、長女も「やりたい」と言うことが多かった。本人が望むなら、と思って、行きたいと言ったものに行かせた。

結果、バーンアウトしました。

正確に言えば、ある日スクールから逃げ出しました。5歳です。

怖かったです。物理的に「ここにいたくない」を身体で表現するしかなかった。言葉で「つらい」「もう無理」と言える年齢ではなかった。身体が先にSOSを出した。

親としては正直、動揺しました。本人の意志を尊重したつもりだったのに、なぜこうなるのか。長男と同じように「自分で選ばせた」はずなのに。

ここで一つ理解しておくべきことがあります。幼児期の脳は、「やりたい」という衝動を生み出す力と、「自分がどこまでできるか」を見積もる力のバランスが、まだ取れていません。

前頭前皮質は人間の脳の中で最も成熟が遅い部位です。完全に成熟するのは25歳前後とも言われる。幼児期にはまだ発達の初期段階にあり、自分のキャパシティをモニタリングする力が十分に備わっていない。

長女が「やりたい」と言ったとき、その気持ち自体は本物だったのだと思います。でも「やりたい」と「それを継続できるだけの余力が自分にあるか」を判断する脳の回路は、まだ育ちきっていなかった。好奇心のままに手を広げすぎて、オーバーロードになった。

長女の弱さでもなければ、親の失敗でもありません。脳の発達段階として、起こりうることです。

何もしない時間に、脳は何をしているか

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