独走バイオロジカル 〜 僕なりの 『トロッコ問題』 みたいなもの 〜|||シン小説 no.075
とある動画が話題になっていた。
「アメリカの三つの都市に、核爆弾を仕掛けた。あと七十二時間。つまり、三日後に爆発する」
男がひとり、優しく淡々と語っている。
「解除するには、私の家族、妻と子供二人の、完全なる死が求められる」
男は、机の上にある地球儀を、ゆっくりとまわした。
画面が切り替わる。
どこかの部屋のようだ。
女性がひとりと、子供が二人。
小学生くらいだろうか、男の子と女の子が、それぞれひとりずつ。
また、男の部屋へと画面が戻った。
「家族の部屋にも、爆弾が仕掛けてある」
どうやら、監禁しているらしい。
「家族を部屋から移動しても、誰かが部屋に近づいても、都市が消える」
男は、そう言いながら、祈りを捧げる仕草をしている。
「これから、三日間、投票してもらう」
下向きの矢印のようなものが、表示される。
「私の家族を救うなら『Good👍️』都市を救うなら『Bad👇️』を押してほしい」
また家族がいる部屋が映された。
「三日目に多い方が選択される」
また男に戻る。
その途端、男は爆散した。
そして、また家族の部屋の映像となる。
自分の家族?
殉教者?
いや、フェイク動画だろ?
なぜ、こんな動画が話題となったのか。
それは、その直後。
アメリカの都市も、ひとつ、爆散したからである。
大騒ぎになった。
が、それとともに世界は、安堵した。
男の家族には、申し訳ないが、この選択肢ならば……と。
当然、爆弾も、部屋も、どこにあるのか、必死になって探した。
アメリカ、そして……。
たぶん、いくつかの国が。
そもそも、核爆弾が製造された上に、誰にもわからないままに設置されてしまった。
その時点で、詰んでいるといえば、詰んでいる。
世界の目が、二つのボタンに注がれることとなった。
ネット配信され続けている。
部屋は、すぐに特定されるかと思われた。
ところが、なんと「いくつもの国の、いくつもの箇所にある」という答えが。
「協力しないと攻撃するぞ!」と脅すにしろ、多すぎる。
犯人だけの所業ではないのは、明白。
そもそも、大半がアメリカに住んではいない。
そのアメリカだって、都市部に住んでいる人だけではない。
都市部から避難する人々もいる。
反米。
反社。
反社会的人格者。
面白がる人々。
世界には、いろんな国があって、いろんな人がいるもんだ。
二つのボタンは、僅差で拮抗しつつ、揺れ動いた。
時間は、あっという間に過ぎていく。
タイムリミットまで、あと少し。
部屋の場所は、わからないままだ。
だが、国までは、特定された。
核ミサイルの照準が合わされる。
特定された国は、仕方なく、部屋を探した。
すぐに見つかる。
いや、知っていたのかもしれない。
砂漠にある小屋のような建物。
軍が包囲する。
アメリカの無人攻撃機も発進した。
家族を救う方法はないか、模索される。
どんな爆弾なのか。
どんな仕組みなのか。
いまだ、わからぬまま。
近づけない。
時間がない。
悪魔の証明。
ないものを探す難しさよ。
部屋が見つかったあたりから『ボタン』は、男の家族を救う方に、大きく傾いていた。
家族が救われるか、否か。
もう、その二択に変わってしまっていたからだ。
無情にも、もう時間がない。
仕方ない。
そう、仕方がない。
無人攻撃機が、部屋にミサイルを撃ち込んだ。
部屋は、爆散した。
そして、ついに、タイムリミットを迎えた。
その瞬間、三つの都市が爆散した。
なぜ……?
……。
…。
動画の画面が切り替わる。
家族のいる部屋。
妻、子供たち。
ひとりひとり、掠れるように消えていく。
また画面が切り替わる。
爆散したはずの男が、元に戻っていく。
まるで、逆まわしのように。
笑っている。
そして、消えた。
映像だけが、フェイクだった。

