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デンシン|||シン小説 no.067

「そうか。
 他に、言い遺したいことは、あるか?」

「もう、ないわ。
 アナタの話を聞いていたら、私のことなんて、なんてバカらしいのかしら、って」

そう言うか、言わないか。

彼女は、消えていった。

ーーー

生き物は、大なり小なり、電気信号で動いている。

摂取された食べ物は、エネルギーに変換され、血液に乗って脳へ。

脳内で電気となり、電気信号となり、神経系を通って、カラダ中へと巡る。

そして、意識、無意識、関係なく動作し続けている。

生きている間。

いや、生きていなくとも。

ときに、無念の中で死を迎える者がいる。

ときに、その電気信号は、とんでもなく増幅される。

そんな強力な電気は、周りに帯電し、残る。

それらは、電信と略された。

特定の意思を、意志を、伝達しそびれた、増幅された電気信号の束。

昔は、まだ良かった。

変な音や声が聴こえる、だとか。

街灯が明滅してる、だとか。

せいぜい、その程度だった。

ところが、近年、まずい事態が起こるようになった。

人間の使う、あらゆる道具たち、乗り物たちが、電子化されてしまったのである。

電信は、そのすべてに影響してしまう。

それは、機器の異常にとどまらない。

停電程度なら、まだかわいいものだ。

交通事故、火災、などなど。

枚挙にいとまはない。

ついには、現代科学をもってしても、解明できない、行方知れずの飛行機事故まで発生。

軍事兵器にまで、影響がみられはじめたとき、人類は重い腰をあげた。

とある研究所の研究結果を、採用することとなった。

それは、死者が残す電気信号についての研究。

もっといえば、その電気信号を専用の機器に取り込み、コントロールできる。

そんな風に、研究所のリーダーは息巻いていた。

そもそもは、殺人などの犯罪現場の残留思念を集めて、捜査に役立てる。

その程度のモノだった。

ある日。
その事件は起きた。

筆舌に耐え難き事件。

誰も、書きたくない。
誰も、口にしたくない。

そこで、採取された残留思念、つまりは電気信号は、事情を聴取した程度では消えなかった。

仕方なく、採取ボックスに遺されたまま、次の現場へと向かった。

いつしか俺は『デンシンくん』

人によっては『デンシンさん』

そんな風に呼ばれるようになっていた。

電信には、問題点がある。

そう、そこに残り続け、生き物や電子機器に影響してしまうこと。

いくら採取ボックスの機能が向上しても、そこから完全に吸い取ることは、できずにいた。

そんなとき。

俺は、電信を、消し去った。

研究者たちは、俺に尋ねる。

「なにをしたのか?」と

俺は、答える。

「それを調べるのは、お前らだろ」

俺は、とんでもなく酷い目にあって、残っている。

態度が悪いのは、ある程度、勘弁してほしい。

それに、本当にわからない。

俺は、ただ聞いていた。

最後に見たもの。
最後に聞いた音。
最後に思い出した顔。
最後の後悔。
最後の願い。

そういうものを、ただ聞く。

たまに、俺のことを話すこともあった。

それだけ。

さらに、現場を重ねた。
実験を繰り返すことで、わかってきた。

共感。
もしくは、
圧倒。

相手の事情を聴いているうちに、周波数が同調しはじめる。

強い側の電信が、相手を吸収する。

もうひとつのパターンは、圧倒。

より強い無念を持つ側。

その強力に増幅された信号によって、弱い方が掻き消される。

いつしか、俺より強力な電信が、現れるかもしれない。

そしたら、俺は消える。

もうだいぶ経つ。
場数も相当こなしてる。

それでも、まだ消えられないでいる。

消えられないどころか、より強力になってる気すらする。

多くの電信を、吸収し続けているせいなのだろう。

もう、たくさん。
声にならない聲が、俺の中に溜まっていく。

俺は『デンシンくん』ではなくなっていく。

いつしか。
私は『伝神』と当て書きされるようになっていた。






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