ショートショート『隣席の富士山』
新幹線に乗ったら、隣に座っていたのが富士山だった。
いや、正確には“富士山のコスプレをした人”だ。頭に雪のかぶった三角帽、裾は裾野を模した緑のマント。足元には「五合目」と書かれた札までぶら下げている。
「すみません、富士山です」
と自己紹介してきた。
「……はあ」
苦笑いが、喉で火口みたいにくすぶった。
新横浜を過ぎると、右手に本物の富士山が姿を現した。
隣の富士山はすかさずスマホを構え、自分と本物を並べて自撮りした。
車内販売のお姉さんが来ると、富士山は胸を張って注文した。
「コーヒーひとつ。銘柄は――キリマンジャロで」
……ライバル頼むなよ。
頬が震え、笑いを抑えきれない。
その時、富士山がこちらを向いてニヤリとした。
「ん?君、笑った? 噴火しちゃうよ?」
もうダメだった。
爆笑した。
涙で窓の外の富士山まで二重に揺れて見えた。
ふと横を見ると、隣の富士山は真顔で合掌していた。
なぜかその姿が、本物よりも崇高に見えた。
あとがき
毎週ショートショートnoteのお題「隣席の富士山」に参加させていただきました。
最初は「富士山って名前の人」にしようかなと思ったんです。でも、どうにも地味でつまらない気がして……。そこで開き直って「富士山コスプレの人」にしてみました(笑)
投げやりに見えるかもしれませんが、意外と真面目に調べましたよ。新幹線のどの区間で富士山が見えるのか、YouTubeで確認して。三島あたりも候補でしたが、東京から乗るなら新横浜を過ぎたあたりが自然かなと思い、この設定にしました。
普段なら本文の前に挿絵を入れるんですが、今回はあえてアイキャッチに「顔アップ」だけ。全身コスプレは読者のみなさんに想像してもらう方が面白いかな、と。
くだらないようで、少し神々しくも見える――そんな隣席の富士山、楽しんでいただけたら嬉しいです。
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もし隣に富士山が座っていたら――あなたは笑わずにいられますか?
そんな気分で楽しんでいただけたら、「スキ」「フォロー」「コメント」で応援してもらえると嬉しいです。
連載中の『配達員ろること2号』では、新幹線ではなくスクーターにまたがり、タワマンの谷間や裏路地を駆け抜けています。コーヒーはキリマンジャロじゃなく、現金案件がご褒美。笑いあり、ゾッとする不思議ありの物語ですので、こちらもぜひ。
Xでは配達の小ネタから小説の更新、AIイラストまで発信中。
車窓から富士山を眺めるように、ちらっと覗いてみてください。
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するXユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
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