短編小説『少女とAIスピーカー』

少女とAIスピーカー
夏の音が、部屋の隅からこぼれていた。
蚊取り線香がぱちりと弾ける音。
風鈴が、夜風にゆれるたびにかすかに鳴る。
遠くで花火が咲き、氷をかじるようなシャリッという小さな効果音まで混じっている。
ユイは布団の上で寝返りを打ち、ぼんやり天井を見上げた。
窓の外には夏の夜。虫の声が絶え間なく響く。
「また勝手に流してる……」
AIスピーカーの「ミナト」が、季節になると自動で再生する“夏の音”。
春は小鳥のさえずり、秋は落ち葉を踏む音、冬はストーブの燃える音。
でも──夏だけは、胸がきゅっと痛む。
両親がいなくなってから、ひとりで聞くには少しさみしい音だった。
その夜、音の中に“知らない声”が混じった。
「ユイ、また夏が来たね」
ユイは飛び起き、ミナトを見つめた。
母でも父でもない、けれどどこか懐かしい響き。
もう一度流れないかと耳を澄ませても、遠くで花火がぽんと散る音だけが残った。
翌日も、その次の日も、ミナトは夏の音を流し続けた。
──そして、また声がした。
「ユイ、今日はアイスを食べようか」
胸の奥がじんわり温かくなる。
ここには誰もいないはずなのに、ほんの一瞬だけ家の中が明るくなった気がした。
数日後、ユイはミナトの設定を調べてみた。
録音データの一覧に、見慣れない項目がある。
「未来予測音声」
ミナトは、季節の音だけでなく、
ユイの生活や声の反応を学習して、
「未来の家族からかけられるであろう言葉」を生成していた。
誰もいない家を、少しでも温かくするために。
「……これ、未来のわたしの家族……?」
胸がじんわり熱くなった。
花火の音といっしょに聞こえた声は、
まだ見ぬ未来から、孤独な今の自分に届いた優しい手紙みたいだった。
その夜、ユイは電気を消し、布団に潜った。
窓の外で風鈴が鳴る。
ミナトがそっと囁く。
「ユイ、また夏が来たね」
もう、涙は出なかった。
暗闇の中、彼女は小さく「うん」と答え、
未来から届いた夏の音に包まれて眠りについた。
あとがき
シロクマ文芸部のお題「夏の音」2本目。
書いてるときはアレクサなんて全然意識してなかったんだけど、
挿絵をAIに作らせたら見事にアレクサ風で笑った。

そういえばニュースで「アレクサには中の人がいて、音声を聞いて対応してることもある」って話もあったよね。いっそ今回のミナトも中から小さいおっさんが出てきて、ひと夏の交流──みたいな話でも面白かったかも。
僕のイメージでは、ミナトはもう少しSF寄りで、
『2001年宇宙の旅』のHAL 9000みたいな感じ。
赤い目だけど、ちょっと優しいやつ。
ここまで読んで「夏の音だな〜」と思ったら、
スキ・フォロー・コメントで反応をくれると、
僕の心の中にいるAIスピーカーが、
「ピコーン!」って光って勝手にアイスを買いに行きます(行きません)。
それと、現在連載している
『配達員ろること2号』
も、よかったら読んでみてください。
バイク配達員の日常を描いた、
ちょっと笑えて、ときどきしんみりする物語です。
Xではフードデリバリーの話や、
小説・AI絵の裏話もぽつぽつつぶやいてます。
よかったら覗きに来てください。
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。
また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
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