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愛され最低妻のやり直し記|第1話|窓の日——風が通った瞬間

ギュイーーーーーーーン!!!!!!!


突然の容赦ない轟音の正体は、夫が家の外壁にドリルを突き立てる振動でした。


「 私は何も持っていない。私に何ができるんだろう? 」

40代、4人の子育ても終わりが見えてきて、副業にも少し疲れて、そんな問いかけで自分を追い込んでいた朝。

まさかこのあとに、私にとって青天の霹靂ともいえるような ” 気づき ” が待っているなんて、思いもしませんでした。


夫は世間一般でいう、『 愛妻家 』です。
今では決して珍しくない、「 イクメン 」や「 神ダンナ 」という言葉をよく目にするし、ネットの中や身の周りにも尊敬すべき旦那様方はたくさんいます。

70代の母は、「 私たちの時代はとてもじゃないけど、そんなに色々してもらえなかったよ 」と当時を懐古します。
「 時代 」…確かにそれもあるのでしょう。

働くママが増えるにつれて、家事や育児に積極的に参加し、" 思いやり " を形にしてくれるパパたちも世の中にたくさんいると実感しています。
家族のあり方として、お互いを助け尊重し合う、本当に素敵な時代になったと感じています。

それを踏まえてなお、
私が23年間見てきた夫は、世間でいう『 愛妻家 』の枠を超えているように思うんです。
時代や環境が変わって歳を重ねても、変わることのない熱量で愛情を注ぎ続けてくれる夫。
あまりに当たり前にそこにあって、近すぎて軽視してしまうほど、その愛情は純粋で、真っ直ぐでした。


その朝


デスクに片肘をついて、深いため息をつく。
重たい気持ちのまま惰性で向き合ったのは、32インチのモニターに透けてみえる、『 何も持っていない私 』でした…

フルタイムで10年、あっという間に40代。
4人の子育てももうすぐ終わりが見えてきたところ。

" 自分の可能性探し " と5月から思い切ってweb副業を始めて、素人なりに全部自分で調べて頑張って、4ヶ月で30記事まで突っ走って、ちょっと息切れして。
気が緩むそんな隙間を狙っていたかのように、不安や虚しさが襲ってきました。

「 私は何も持っていない。私に何ができるんだろう? 」
その問いに、朝から晩まで、夢にまで、連日苛まれ始めたんです。

これまでに私を社会人たらしめてくれていた肩書たちは今は意味を持たず、人様のために活かせるものではないと思い知らされる毎日。
これだけ生きてきて何も持ってないなんて滑稽すぎる、とさえ感じていました。

これからもずっと同じような毎日を繰り返していくのかな。
だったら、別に長生きしなくてもいいな。

元々、あまり何かに期待しない冷めている私には、そうゆう人生が相応なんだろう…そう漠然と受け入れていました。


そう…きっと誰もが一度は足をからめ取られるだろう " 自分と向き合う沼 " に腰までどっぷり浸かっている、そんな朝でした。

9時間の工程


思考にすうっと集中してしまうと、話しかけられてもどこか上の空になりがちです。

「 トーン、タンタン 」
大好きな作品の有名なゾーン状態に入りかけたとき…



…..ギュイーーーーーーーン!!!!!!!
ギャリギャリ!!!  
ゴリゴリ!!!



突如始まった轟音と地響きに、体がビクッと飛び上がりました。

「 なにごと? 」

立ち上がって覗きにいったのが始まりで、結局私は、全9時間ほどの工程を最初から最後まで眺めていました。

好奇心と、現実からの逃避を兼ねて。


今年、2025年。
記録的な酷暑が連日続く8月の終わり、夫が窓を新設していたのです。

一応言っておくと、夫は設備系の職人ではありますが、窓作りは本職ではありません。
にもかかわらず、住んで10年になる家の玄関を広く作り変えてあげたいと言い出して、本業の傍ら2日間にわたってほとんど1人で工事をしていました。

広くしたことで窓の位置が変わったため、ここが暗くて熱気が抜けなくなったらいやだろうからと私を気遣って、急遽新たな窓を作ると決めたようです。

工程に足りない知識は事前に知り合いの業者さんに聞いたり、YouTubeで勉強したり、屋根裏に上がって配線を事前確認したりと、いつも私や子どもたちのため家の中をより快適にしようと考えてきてくれた夫。


見ようとしなかった「途中」


同僚やママ友と話す何気ない会話の中で、
「 本当にまいさんの旦那さんってやってくれることがレベチなんだよね 」
「 愛情がスゴイ、異常よね 」
などと驚かれることがたくさんありました。

「 まぁ、特級過呪怨霊だからね 」
( ↑ 某人気作品の愛すべきキャラクターです )

そうサラッと返してしまうほど、私にとってはそれが日常で当たり前になっていたんです。

夫が作業している " 途中 " を見る機会もほとんどありませんでした。
サプライズ好きな夫は、私が仕事から帰宅するまでにはいつもきれいに仕上げてくれていたからです。

仕上がりを見ながらザッと説明を聞いて、
「 すごーい、サンキュー! 」

私が伝えるお礼なんて、せいぜいそれくらいだったと思います。
本当に、恥ずかしいです。

玄関に座って夫の作業を眺めながらも、工事関係に疎い素人が特に何を手伝えるわけでもなく、轟音や粉塵に圧倒されて
「 うわ〜 」とか「 ひょ〜 」と騒いでいただけ。
それでも夫は私が見ているのが嬉しいようで、私にかまい気遣いながらも作業を進めていました。

家の外壁を貫くドリルの轟音と振動。
ハンマーでたたくと割れて飛び散る壁の破片。
濛々と舞い狂う粉塵。
階段に脚立を立て板を水平に渡しながらの繊細な力技。


その工程と夫の背中を見ながら、私には何とも言えない想いが込み上げてきていました。


…カッコイイ。


そう思ったんです。


…? なにこれ。


今まで夫をカッコイイと思ったことがなかった私は、
その背中を見て初めて『 カッコイイ 』と思った自分に、大いに戸惑っていました。

心の壁が崩れた瞬間


そして、ハンマーでたたき割られた壁の穴から、ブワッと熱い陽光と風が流れ込んできたとき…


まるで落雷に打たれたように、
私の " 心の壁 " もガラガラと崩れ落ちた気がしました。



輪郭を広げられ四辺をまっすぐに削られた空間、
水平器を当てながらミリ単位で微調整を重ねられた窓枠、
夫が両腕を全開にして、しっかりと掴んで慎重にはめ込まれた重い窓ガラス。

ついに完成した、新しい窓。

夫が1人で作り上げた、家族のための窓。


「 よし! これで風が通るよ、まいちゃん 」


1度着替えたとはいえ、全身汗まみれでぐじょぐじょのドロドロ。
顔や腕についた粉塵が固まってブロンズ像のようになった夫が、
そう言って、ニッコリ笑いました。


40代、いいオッサンのその笑顔は、まるで " いいこと " をしてママに褒めてもらいたがっている5歳児のようで。


”なんて純粋なんだろう”


そう思った途端…涙で視界が滲んで。


そして次の瞬間には、堰を切ったように溢れてしまって、止まらなくなりました。


私の顔も夫と同じく粉塵まみれで、
そこへ涙とメイクのMIXで悲惨なくらいにドロドロ。
黒のカットソーも真っ白。
白髪もないのに真っ白くガシガシになった髪。


突然泣き出した私を見て、夫はびっくりして、戸惑ったようでした。

” でもきっと嬉しくて泣いてるんだよね? ” といった表情で、
へへっと笑って私の真っ白な頭をポンポン。

「 な~んで泣いてるの? 」

なんだこれ。


なんだこれ。


仕事でもないのに、そんなドロドロになってまでなんでこんなめっちゃ頑張ってくれるの?

いっつもそんな表情してたの?


見てなかった…。


見ようとしてなかった…。


気づいたこと


私は、言わなきゃ。

いつものような
「 お、できた?すごい。ありがとー 」だけじゃなくて。

仕上がった結果を見るだけじゃなく、
その " 途中 " にこそ「 ありがとう 」って言わなきゃ。


「 何も持っていない 」なんて、大間違い。
持っていたのに見ようとしていなかっただけ。

23年間という年月に、夫が表現・体現してきてくれた無数の愛情。
それこそが私だけのかけがえのない体験談で、
何気ない毎日にビッシリ散りばめられていた、宝石のカケラだったんだ。

見ない
聞かない
応えない
与えない…


こんな最低妻なのに、
一度も挫けることなく愛し続けてくれている夫を
" 宝物 " だと気づいたこの日のことを、
私は、一生忘れないと思います。

落雷を受けたような衝撃を感じた瞬間から、
過去の私が拾わなかった何かを探すように、
埋もれた何かを掘り起こすように、
幾多の出来事を心の中でスキャンしています。

…その時点では気づけなかった事実と、
その瞬間には感じ得なかった夫の想いの質量に、
私は、打ちのめされています。

23年越しに、ようやく夫の愛の"本質"を理解できたのかもしれません。


心から夫を『愛妻家の鏡』と称えたいです。


仕上がった真新しい窓から風が抜けたとき、粉塵のベールの奥に、夏の匂いがしました。


第1話 「窓の日」 END


ここまで読んでいただいてありがとうございました。
夫への感謝の種まき、「ありがとう」を取り戻す旅を、その日から少しずつ始めています。
慣れなくて、飲み物を出したり、食後のアイスをどうぞってしてみたり、手を握られても外さなかったり。
そんな些細なことばかりですが、夫はあれ?と感じているようで、なんだか嬉しそうです。

この「愛され最低妻のやり直し記」は、傲慢だった妻が、23年分の“見ようとしなかった愛”を見直す記録です。
過去の一部分ずつを切り取って、私の鈍感さや愚かさも隠さずに、事実のままに書いていこうと思っています。

②家出 ③私の味方 ④無言実行 ⑤旅行 ⑥介護 ⑦表現
今絶対書きたいと思っているエピソードだけでもこれだけあります。
1話ずつが私にとって大きくて大切です。
時間が欲しい、集中して書くために仕事を辞めようか?と真剣に考えているくらいです。
夫や家族に内緒で、さらにAIに頼らず自分の言葉で執筆しているので、時間がかかると思いますが、必ず完走します!!
見守っていただけるとこの上なく嬉しいです。


→ 次の記事へ:第2話「家出」——家族の原点 《前編》
自己紹介へ:愛され最低妻のやり直し記|夫への恩返しプロジェクト

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