見出し画像

梅干しを三粒入れた|もう普通のお茶漬けには戻れなくなった話

MOON side episode No.27

最高の梅茶漬けをつくるために、
高級な器はいらない。


でも、
梅干しは
一粒では足りないと思った。

三粒。

今日は、
少し贅沢にいくことにした。

夕方の台所。

窓の外には、
少しずつ夜の色が降り始めていた。

換気扇の低い音。
鍋の中で、
小さく揺れる湯気。

まな板の上には、
紀州南高梅。

透明な容器から、
大粒の梅干しを三粒取り出す。

指先で持ち上げると、
皮は薄く、
少し押しただけで、
中の柔らかな果肉が伝わってきた。

その赤い実を眺めながら、
和歌山県みなべ町の景色を思い浮かべる。

山の斜面に続く梅の木。
細い農道を上る白い軽トラック。
腰を屈め、
一粒ずつ梅を拾う人。

手のひらで転がしながら、
表面を確かめていた指先。

ただ酸っぱいだけだと思っていた
梅干しの向こう側に、
ずいぶん長い時間があることを知った。

だから今日は、
本気で食べる。

鍋には、
産地にこだわった昆布。
煮干し。
かつお節。
醤油。
酒。
塩。
そこへ鶏ガラを加える。

弱火で、
ゆっくり煮込んでいく。

昆布の柔らかな旨味。
煮干しの力強い香り。
かつおの輪郭。
鶏ガラの深み。

それぞれ違う味が、
鍋の中で少しずつ重なっていく。

アクを取り、
火加減を見る。

味を確かめる。
もう少し塩。
そして醤油。

この出汁なら、
スープにも使える。
煮込み料理にも使える。
ブイヨンやコンソメのように、
いろいろな料理の土台にもできる。

ただ、
今日はこれを茶漬けに使う。


大切に育てて、
手をかけて、
最後にすることは、
梅干しをぐしゃぐしゃにすることだった。

炊きたてのご飯を、
少し大きめの茶碗によそう。

白い湯気が、
顔の前までふわりと立ち上がった。

その中央へ、
南高梅を三粒。

赤い梅が、
白いご飯の上に堂々と並んだ。

まずは一粒目。

まだ出汁はかけない。

箸先で薄い皮をそっと破り、
柔らかな果肉を少しだけ取る。

そのまま口へ運ぶ。

酸っぱい。

思わず目を細める。

でも、
すぐあとから塩味と、
梅そのものの濃い旨味が広がってきた。

皮は薄い。
果肉は柔らかい。

舌の上で、
ほろりと崩れる。

まずは、
梅干しそのものを楽しむ。

もう一口。

今度は、
炊きたての白いご飯と一緒に。

梅の酸味を、
米の甘さが受け止める。

これだけでも十分うまい。

でも、
まだ終わらない。

二粒目。

今度は少し大胆に、
箸で梅を崩す。

赤い果肉をご飯へ広げ、
白い粒と軽く混ぜる。

そこへ、
熱々の出汁を少しだけ注ぐ。

昆布。
煮干し。
かつお。
鶏ガラ。
醤油と酒。

それぞれの香りを抱えた湯気が、
一気に顔まで立ち上がった。

梅の赤が、
出汁の中へゆっくり滲んでいく。

箸でひと混ぜ。

茶碗を少し持ち上げる。

出汁と一緒に、
ご飯を口へ運ぶ。

うまい。

さっきまで真正面から
飛び込んできた梅の酸味が、
出汁の旨味に包まれて丸くなる。

そこへ海苔の香り。
あられの食感。
三つ葉の青い香り。

もう一口。

もう一口。

箸の動きが、
少しずつ速くなる。

そして三粒目。

ここからは、
もう丁寧に食べるのをやめた。

残っていた梅もまとめて、
箸先でぐしゃっと潰す。

一粒目も。
二粒目も。
三粒目も。

種のまわりに残った果肉まで、
しっかりこそげ取る。

赤い梅の果肉が、
茶碗いっぱいに広がっていく。

白かったご飯は、
ところどころ淡い梅色に染まった。

そこへ、
追い出汁。

熱々の出汁を、
もう一度たっぷり注ぐ。

新しい湯気が、
ふわっと立ち上がる。

梅の酸味。
出汁の香り。
海苔。
三つ葉。
あられ。

全部が、
一つの茶碗の中で混ざった。

ここまで来たら、
箸では少し遅い。

茶碗を両手で持つ。
口元へ近づける。

さらさら。

一口。
また一口。

今度は、
噛むより先に、
出汁とご飯が喉を通っていく。

酸っぱい。

うまい。

熱い。

また、うまい。

途中で一度、
茶碗を置く。

小さく息を吐く。

そして、
また持つ。

さらさらさら。

さっきまで三粒並んでいた梅干しは、
もうどこにもいない。

出汁の中へ溶け、
ご飯に絡み、
一口ごとに姿を変えていた。

最初は、
梅そのものを味わって。

次は、
出汁と出会わせる。

最後は、
全部ぐしゃぐしゃにする。

食べ方が大胆になるほど、
箸の速度も上がっていった。

そして気づけば、
最後の一口までかき込んでいた。

茶碗を置く。

底には、
きれいに三つの種だけが残っている。

みなべ町の山。
梅の木。
農家の人の手。
長い時間をかけて取った出汁。
炊きたてのご飯。

そして、
贅沢に使った三粒の梅干し。

一杯の茶漬けの中に、
たくさんのものが入っていた。

最高の梅茶漬けは、
上品には食べられなかった。

でも、
それが最高だ。

茶碗の底に残った三つの種を見ながら、
もう一杯を茶碗によそうことにした。


🌙実食後の感想

めちゃくちゃ美味しかったです。

結論。

梅干しは三粒と言わず、五粒あってもいい。

夏バテなんて、
まとめて吹き飛ばしてくれそうです。

そして実際に食べてみて、
改善点も見つかりました。

胡麻は多め。

煮干しは出汁を取るだけではなく、
茶漬けへ直接投入する「追い煮干し」
があった方がいい。

梅を崩して、
出汁を足して、
最後はもう遠慮なくかき込んでください。

三粒でこれだけ美味しいなら、
次回は五粒でいきます。

皆さまも、ぜひ。🔴🌙


▶︎梅干し界のドン、マナミさんの記事

▶︎和歌山梅干し界の山奥さんの記事

お茶漬けを楽しんだあとは、
ぜひ、お口直しにお読みください。
🔴


🌙観測note

この作品に登場したもの

紀州南高梅

この記事を最後まで読んで、
梅干しを食べたくなった方へ。

三粒とは言いません。
まずは、一粒から始めてください。

私はもう、五粒の世界にいます。🔴

※この記事にはアフィリエイトリンクを含みます。


🌙初めてMOONへ来られた方へ

▶︎「MOON|違和感の記録」の観測ガイドです。

どこから読むか迷ったら、
まずはこちらからどうぞ。

#空風マナミ
#山奥AI研究所/WONDER LABO
#梅干し界
#MOONsideepisode
#梅干し
#梅茶漬け
#紀州南高梅
#紀州梅
#和歌山
#みなべ町
#お茶漬け
#出汁
#夏バテ対策
#料理
#おうちごはん
#note

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集