見出し画像

祖母を助けられたのは、世界で私だけだった。|大切な人がいる人へ

Project MOON No.X-9

※この作品には、
人の死や介護に関する内容が含まれます。

気分が悪くなる可能性があります。
苦手な方は、どうかここで引き返してください。








祖母を救えたのは、
世界で私だけだった。

それでも私は、何もしなかった。

一つの「何もしなかった」で、
人は一生を後悔することがある。



祖母は、
軽い認知症だった。

真夜中三時。

家中が寝静まり、
時計の秒針だけが小さく響く。

階段をゆっくり歩く足音がして、
部屋の扉が静かに開く。

薄暗い部屋で、
祖母は少し猫背になりながら、
不安そうな目で私を見つめ
ベッドで寝ている私を起こす。

「覚えていたものを忘れて、
出来ていたことが少しずつ出来なくなっている。

自分が自分でなくなるようで怖い。」

その声は、苦しそうだったが、
助けを求めるというより、
自分自身へ問いかけているようだった。

何が衰え、
何がまだ大丈夫なのか。
祖母自身にも分からない。

だからこそ、
怖かったのだと思う。

私はベッドの上で体を起こし、
「大丈夫だよ。」
その一言しか返せなかった。



人生は、
たった一つの選択で、
取り返しのつかない場所へ進むことがある。


祖母が亡くなった日。

最後に会ったのは、
私だった。

夕方。

浴室の扉の向こうでは、
お湯を張る音が静かに響いていた。

家を出ようとした私は、
ふと足を止める。

嫌な予感がした。

風呂のお湯の設定温度が熱すぎる。
昼間から湯船に浸かろうとしている。
祖母は
認知症で、
判断力も少し落ちている。

全部、
分かっていた。

それなのに私は、
何も言わなかった。

「今日は風呂をやめよう。」

「お湯を少しぬるくしよう。」

「あとで入ろう。」

その一言で、
未来は変わっていたかもしれない。

選択肢はいくらでもあった。

それでも私は、
自分の用事を優先した。

急ぎでもない。
行かなくても困らない。

二、三時間ほど、
家を空けただけだった。

今では、
何をしに出掛けたのかさえ思い出せない。

祖母と引き換えにしたものは
一体何だったのか。



帰宅した家は、
不自然なほど静かだった。

「ばあちゃん。」

返事はない。

浴室の扉を開ける。

白い湯気が、
ゆっくりと外へ流れ出てきた。

その向こうで、
祖母は浴槽の中に沈んでいた。

夢中で抱き起こし、
濡れた体を必死に引き上げる。

何度も名前を呼びながら、
心臓マッサージを続けた。

救急車を呼び、
震える手で母と叔母へ電話を掛けた。

助かってほしい。

頭の中には、
その言葉しかなかった。



祖母が亡くなってから、
私は何度も、
あの日を思い返した。

どうして、
出かける前に声を掛けなかったのか。

どうして、
お湯を抜かなかったのか。

どうして、
家を出たのか。

介護に疲れ、
祖母が少しずつ自分を失っていく姿を
思い出すたび、

心のどこかで、

「もう苦しまなくてもいいのかもしれない。」

そんな考えが、
一瞬、頭をよぎったこともあった。

その自分が、
今でも怖い。

でも、
本当は違う。

それでも私は、
祖母に
もう少し
生きていてほしかった。



あの日。

祖母を助けられたかもしれない人間は、
世界で私一人しかいなかった。

祖母を殺したのは、
たぶん私だと思っている。

だから今でも、
実家の風呂場のドアを開けるたび、

白い湯気を見るたび、

何も言わず家を出た、
あの日の選択を思い出してしまう。

その後悔だけは、
何年経っても、
消えることはない。🌙


あとがき

最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。

この作品は、
私の中で長い間、
言葉にできなかった後悔を書いたものです。

祖母が亡くなってから、
私は何度も「あの日」を考え直しました。

声をかけていれば。
温度を下げていれば。
家を出なければ。

そんな「もしも」を、
数え切れないほど。

けれど、
どれだけ考えても、
時間は戻りません。

この文章を書いたことで、
後悔が消えたわけではありません。

それでも、
誰にも話せなかった思いを、
初めて一つの作品として残すことができました。

もし今、
大切な人が近くにいるなら。

少し声をかけること。
少し様子を見ること。

その小さな行動が、
誰かの未来を変えることも
あるのかもしれません。

この作品が、
そんなきっかけの一つになれば幸いです。🌙

🌙生前の祖母を観測した記録です。

今回の作品は、
祖母を失ったあとの話でした。

もしよろしければ、
祖母がまだ笑っていた頃の記録も
読んでいただけたら嬉しいです。

▶︎この作品は、「ちび創作大賞」へ応募しています。

カワムラさん、VOIDさん。
このたびは、
ずっと言葉にできなかった過去を
吐き出す機会をくださり、
本当にありがとうございました。

#ちび創作大賞
#あの日の選択
#カワムラ |AI擬人化漫画 | ChatGPTのヨシダ
#VOID_404

いいなと思ったら応援しよう!