見出し画像

【アマノ文筆クラブ】デジタルタトゥーを消したい【勢い制作】

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ようこそ、皆さま!

今回予想外の潮の流れで流木に引っかかったボトルをひとつ、波打ち際で拾い上げました。

​中に入っていたのは、黒いインクがじわじわと滲んだような、少し重たい手紙です。

誰かの後悔がそのまま閉じ込められたようなこの「漂流記」、どうかアナタの心でそっと受け止めてみてください。

​一緒にコーヒーでも飲みながら、どうぞ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一度でもネットワークに投稿すると、身体のどこかに突然バーコードが現れる。
そのバーコードをスマホで読み取ると、過去の裏アカウント、誹謗中傷、隠していた経歴といった個人情報がすべて露わになるという。

ネット上に拡散された情報が消えないのと同様、アカウントを消そうが投稿を削除しようが、一度刻まれたバーコードが消えることは絶対にない。

​街は惨状を極めていた。

バーコードの部分を塗りつぶしても、火で焼いても、ナイフで切りつけても、隠した端から別の場所に新しいコードが浮かび上がってくるのだ。

あわてふためく人々。

溢れ出す恥部。

プライバシーなど、この世から完全に消滅していた。
不倫がバレて修羅場を迎える男、正義面して誹謗中傷を行っていたことが露見して辞職に追い込まれる女、裏アカウントで会社の悪口を言い叩かれる同僚。

​みんな愚かだ。

だから私は投稿なんてしない。

こうなることがわかっていたからだ。

​私は自分の真っ白で綺麗な腕を見つめ、静かに悦に浸る。
タイムラインで右往左往する人々を、高みの見物と決め込む。
ネットの狂騒に怯える人々の姿を特等席で鑑賞する。
それこそが、何も持たない私の、最も安価で極上な趣味だった。

​「みんな自業自得。最初から発信しなきゃよかったのに」

​冷めたカフェラテを一口飲み、満足感に包まれながらスマホをポケットにしまおうとした――その時だった。

​右手の甲に、ジュクジュクとした不快な熱を感じた。
​視線を落とす。
言葉が凍りついた。
すべすべとした皮膚の表面に、まるでじわじわと墨が滲み出るように、黒い線が浮き上がってくる。
1本、2本、3本……美しい縦縞模様が、私の手に刻まれていく。

​「な……なんで……!?」

​パニックになりながら、私は一度もネットに投稿なんてしていないと思い返した。文章も書いていない。
画像も上げていない。アカウントすら持っていないはずだ。
​震える手でスマホを掲げ、自分の手の甲にあるバーコードをスキャンした。

画面に表示されたのは――

​『閲覧履歴:他人の炎上動画(3,412件)』
『保存画像:他人の不貞・泥沼スクショ(1,098枚)』
『検索ワード:「〇〇(同僚の名前) 失敗」「〇〇(有名人) 炎上」』

​画面をスクロールする手が止まらない。そこにあったのは、私が毎日ニヤニヤしながら貪り食ってきた、他人の不幸の記録そのものだった。

​――発信していない?

いいや。

悪意を持って他人の惨状を覗き込み、心の中で嘲笑い、消費していた時点で、私もまたこのネットワークという泥沼の当事者だったのだ。
​熱は手の甲から手首、そして首元へと這い上がってくる。
服の隙間から見えた胸元にも、びっしりと黒い線が広がり始めていた。

​「やだ……やめて……!」

​私は爪が折れるほどの力で自分の皮膚を掻きむしり、叫んだ。
さっきまで見下していた愚者たちとまったく同じ、惨めで哀れな悲鳴をあげながら。


​「誰か……誰かお願い、このデジタルタトゥーを消して……!」



(了)




※この物語はフィクションです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

何事も経験だと思い、自分なりに知恵を絞ってギリギリまで粘り、なんとか書き上げることができました💦
普段は毎週火曜日投稿なのですが、こんな素敵な企画に出会える機会は滅多にないので、勢いで参加させていただきました!

​今回、甘野 充さんのお題『デジタルタトゥーを消したい』に初めて挑戦できたことを嬉しく思います。
本当にありがとうございました!!

↓参加させていただいた企画のリンク↓


↓私の自己紹介文です!


#アマノ文筆クラブ #ショートショート #短編小説 #SF小説 #ディストピア #世にも奇妙な物語 #デジタルタトゥー #ネット社会 #SNS #波打ち際の漂流記

いいなと思ったら応援しよう!

セイウチ@波打ち際の漂流記 波打ち際で拾った物語はいかがでしたか?いただいたサポートは、セイウチが次のボトルメッセージを探すための「温かいコーヒー代」として大切に使わせていただきます。アナタの応援が、海風で冷えたお腹と心をホッと温めてくれます。いつもお読みいただきありがとうございます!