【もも】「甘え上手な末っ子」だと思っていた次女の、本当の正体
次女のもも、4歳。年中さんです。
はじめましての方がももを5分見たら、たぶん「甘え上手な末っ子だなあ」と思うはずです。マイペースで、たまにぎゅっと甘えてきて、悲しいこともどこかコミカルにしてしまう。末っ子の教科書みたいな子だ、と。
でも、ももは甘えているだけじゃありません。空気を読んでいるんです。
そして最近、僕はあることに気づいてしまいました。ももが日々やっていることは、僕が仕事場でよく見た光景と一緒だ、と。
まず、歯磨きの話をします。
正直に言うと、普段のももの歯磨きは、かなり雑です。3秒くらいシャカシャカやって、もう終わった顔をする。これがいつものももです。
ところが、です。姉のぺこが、歯磨きをいいかげんにやって叱られている。その横にいるとき。
ももの歯磨きは、突然、世界一丁寧になります。奥歯の一本一本を、鏡を見ながら、歯科衛生士のような手つきで。普段の3秒はどこへ行ったのか。

僕はそれを横目で見ながら思うわけです。——あ、この子、空気を読んだな、と。
「今この場で、どう振る舞えば自分の評価が下がらないか」を、一瞬で計算している。これ、会議室で「今この発言はしないほうがいい」と察する力と、何が違うんでしょうか。
ひらがなの練習も、そうです。
ぺこが宿題をやりたがらず、叱られて号泣している。家の中の空気が、ぴりっと張りつめている。そういうとき、ももは誰にも頼まれていないのに、おもむろに隣でひらがなの練習を始めます。号泣する姉の、すぐ隣で。静かに「あいうえお」を。

これはもう、聞き分けがいいという次元の話じゃありません。「今は、おとなしくして手を動かしているのが最適解だ」という判断を、4歳が下している。
——上司の機嫌が悪い日に、余計なことを言わず、黙って手元の作業を進める同僚。いますよね。あれです。あれを、4歳がやっている。
そして、極めつけがシャワーです。
僕は出勤前にシャワーを浴びます。水の音で、話しかけられても何を言っているかほとんど聞こえない。だから、めんどくさくてつい「はいはい、いいよいいよ」と返してしまう。よくないとは思いつつ、つい。
——ももは、ここを狙ってくるんです。

普段、僕がちゃんと話を聞ける時間帯には、こういうおねだりはあまりしてきません。ところが、僕がシャワーを浴びている、まさにそのタイミング。僕の処理能力がいちばん落ちて、「いいよいいよ」しか言えなくなっている、その瞬間を、見事に突いてくる。
「いいよ」と言ってしまってから、ハッとする。やられた、と。水を止めて「今の、なんて言った?」と聞き返すころには、ももはもう用件を済ませた顔で、リビングへ戻っていきます。
これを、誰に教わったわけでもなく、4歳が自力でやっている。相手が一番ゆるむ瞬間はどこか。自分の要求が一番通りやすいのはいつか。それを、観察して、ためして、覚えている。
僕は仕事柄、「いつ、どう持ちかければ提案が通りやすいか」を、ずっと考えてきました。相手が忙しすぎず、機嫌が悪すぎず、判断に余裕がある瞬間を見計らって話を持っていく。商談でも、社内の調整でも、結局タイミングがすべてだったりします。
それを、ももは蛇口の前で、自然にやっている。
僕が何年もかけて意識して身につけようとしてきた「相手の状況を読んで動く力」を、この子は4歳で、誰にも教わらず、勝手に発揮しているわけです。
——だから僕は、もものことを「ずるい子」だとは思わないようにしています。
歯磨きが普段雑なのは、できないからじゃなく「ここでは丁寧にやる必要がない」という判断。叱られている姉の横で良い子になるのは、媚びじゃなく「ここでは静かにしているのが最適」という読み。
つまり、できない子なんじゃなくて、状況を読んで損得を計算できる子なんです。
世界をよく見て、相手を読んで、タイミングを計る。
それは、大人になってからも、ずっと必要とされる力です。むしろ、お金を払ってでも身につけたい人がいるくらいの力だったりします。
それを4歳でやっているんだから、まあ、たいしたものだなと。
今日もきっと、僕がシャワーを浴びるころに、何か交渉を持ちかけてくるんでしょう。わかっていても、たぶんまた「いいよいいよ」と言ってしまうんだろうな、と思いながら、僕は今朝も蛇口をひねるわけです。

次女のことを書きましたが、長女のぺこは、これがまた性格が違います。
怖がりで、繊細で。でもその繊細さが、いいところでもあるんです。
姉妹って、本当にぜんぜん違うんだなと思います。
ぺこの話はこちら ↓
