「学校行きたくない」が始まるのは、なぜ決まって5月なのか
4月。
新学期が始まって、
心配していた新しいクラス、新しい担任。
でも意外とうまくいっている。
「友達できたよ」
「先生やさしいよ」
「学校たのしい」
その言葉に、
親はようやく肩の力を抜きます。
「今年は大丈夫かもしれない」
ところが、GW明け。
朝、起きてこない。
「お腹が痛い」
「頭が痛い」
「学校行きたくない」
あの4月の笑顔はなんだったのか。
何がいけなかったのか。
何か見落としていたのか。
実は、
4月うまくいっていたこと自体が、
5月の崩壊の原因だったのです。
過剰適応とは何か
「過剰適応」という言葉を
聞いたことがあるでしょうか。
簡単に言うと、
環境に合わせすぎること。
発達特性のある子は、
新しい環境に放り込まれると、
生存本能として
「周りに合わせなきゃ」と
全力で適応しようとします。
教室で静かに座る。
先生の指示に従う。
友達と同じように振る舞う。
空気を読もうとする。
定型発達の子が
50%くらいの力で
自然にやっていることを、
100%のフルパワーで
必死にこなしている状態です。
しかも厄介なことに、
本人にはその自覚がありません。
「頑張っている」という意識すらなく、
全力で走り続けている。
以前の記事で、
セルフモニタリングについて書きました。
自分の体の状態を、
自分で把握する力のことです。
過剰適応の問題は、
ここと直結しています。
自分の心や体の状態を
モニタリングする力が弱いから、
「自分が今どれだけ無理をしているか」が
分からないのです。
ガス欠の警告ランプがつかない車で、
高速道路を走り続けているようなもの。
ランプがつかないまま、
ある日突然エンジンが止まる。
それが、5月に起きることです。
なぜ「5月」なのか
4月は持ってしまう理由があります。
まず、「新しさ」という刺激。
新しい教室、新しい友達、新しい先生。
脳にとって新奇刺激は
ドーパミンを出します。
興奮状態になることで、
疲労を感じにくくなる。
アドレナリンで走り切ってしまうのです。
さらに4月は、
学校側も「様子見モード」です。
授業もゆるやかで、
行事も少ない。
先生も子どもの名前を覚える段階。
環境からの要求レベルが
まだ低い時期だから、
全力を出せば対応できてしまう。
だから4月は持ってしまう。
そしてGW。
ここが決定打になります。
数日間の休みで、
張り詰めていた糸が一度ゆるむ。
体と脳が、
ようやく気づくのです。
「あ、自分は疲れていたんだ」と。
ここが多くの親が誤解するポイントです。
GWで休んだから疲れが取れる、
のではありません。
GWで休んだことで、
疲れに気づく。
蓄積した疲労が、
休んだ瞬間に一気に表面化する。
そしてGW明けの月曜日。
もう一度あの100%のフルパワーを出して、
教室に座って、
周りに合わせて、
いい子をやらなければならない。
その瞬間、心と体が拒否する。
「行きたくない」
それはわがままではありません。
脳と体が出した、
正直なSOSです。
4月に見落としがちなサイン
5月の崩壊を防ぐには、
4月の「うまくいっている」を
疑う視点が必要です。
過剰適応している子が、
4月に見せるサインがあります。
帰宅後の様子が極端になっていませんか。
学校では「いい子」なのに、
家に帰った途端に爆発する。
癇癪を起こす。
きょうだいに攻撃的になる。
異常にだるそうにしている。
学校で使い果たしたエネルギーの反動が、
家に出ているのです。
「学校ではちゃんとできてるのに、
なんで家ではこうなの?」
この疑問が浮かんだら、
過剰適応のサインだと思ってください。
家で荒れるのは、
家が安全だからです。
学校で我慢した分を、
安心できる場所で吐き出している。
睡眠に変化が出ていませんか。
寝つきが悪くなった。
夜中に起きるようになった。
朝、起きられなくなった。
脳が興奮状態から抜けられず、
睡眠の質が落ちているサインです。
「楽しい」を言いすぎていませんか。
「学校楽しい!」
「友達できた!」
「先生やさしい!」
こうした報告が毎日のように続く場合、
全部が本心とは限りません。
「親を安心させたい」という
もう一つの過剰適応が
働いている可能性があります。
親の不安な顔を見たくないから、
「大丈夫」と言い続ける。
これもまた、
セルフモニタリングの問題です。
自分の本当の気持ちより、
親の反応を優先してしまう。
週末の過ごし方はどうですか。
土日にぐったり動けなくなる。
あるいは逆に、
ハイテンションで止まらない。
どちらも平日の過剰適応の反動です。
これらは
「新学期が順調なサイン」ではなく、
「限界が近づいているサイン」です。
4月に気づけるかどうかが、
5月の分かれ道になります。
5月の崩壊を防ぐ、4月からの具体策
過剰適応は、
「頑張りすぎ」が原因です。
だから対策の本質は、
「頑張らなくていい」を仕組みで作ること。
精神論ではなく、
環境と習慣で作ります。
家庭でできること。
帰宅後に
「何もしなくていい時間」を
意識的に確保してください。
宿題より回復が先です。
学校でフルパワーを出し切った子に、
帰ってすぐ「宿題は?」と聞くのは、
マラソン走り終わった直後に
「もう一周走って」と言うのと同じです。
まず休ませる。
宿題はその後で十分です。
週の真ん中に
「ガス抜きデー」を設けるのも効果的です。
習い事を一つ減らす。
放課後を完全にフリーにする日を作る。
週5日をフルパワーで走り切るのではなく、
途中で意図的に出力を下げる日を作ってください。
「学校どうだった?」を
毎日聞くのもやめてみてください。
聞かれると
「楽しかった」と答えなきゃいけない
プレッシャーになります。
聞くなら週に1回くらいで十分です。
それも「どうだった?」ではなく、
「今週いちばんめんどくさかったことある?」
のように、ネガティブな感情を
出しやすい聞き方にしてみてください。
GW中は、
完全休息日を最低2日は確保してください。
旅行や外出で予定を詰め込みすぎると、
GWが「休み」ではなく
「もう一つの全力イベント」になってしまいます。
何もしない日を作ること。
GW明けの助走を意識すること。
学校にお願いできること。
「全部の活動に参加しなくていい」
という逃げ道を、
4月のうちに先生と共有しておいてください。
以前の記事で書いた
「撤退ラインを先に見せる」技術を使って、
「無理なときは保健室で休んでいいですか」
と先に確認しておく。
この一言があるだけで、
子どもは「逃げ場がある」と分かり、
逆に教室にいられる時間が延びることが多いのです。
逃げ場があるから踏ん張れる。
逃げ場がないから折れる。
5月に面談の機会があれば、
「家では帰宅後にこういう様子です」と
事実ベースで伝えてください。
学校での「いい子」と
家での反動のギャップ。
このギャップを先生に知ってもらうことで、
「この子は学校で無理をしているかもしれない」
という視点が生まれます。
「行きたくない」はSOSであり、成長でもある
それでも、
5月に「行きたくない」が
始まってしまうことはあります。
そのとき、
自分を責めないでください。
それは親の失敗ではありません。
4月に全力で頑張った子どもが、
ようやく「自分の限界」に気づいた瞬間です。
以前の記事で、
セルフモニタリングが苦手な子は
自分の状態を把握できないと書きました。
「行きたくない」と言えたということは、
自分の状態をモニタリングできた証拠です。
言えずに倒れるより、
ずっといい。
「行きたくない」と言えた日は、
その子にとって大事な一歩です。
崩れたときに大切なのは、
「なんで行かないの」と問い詰めることではなく、
「気づけたね」と受け止めること。
そこから立て直す方法は、
いくらでもあります。
