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「考えればわかるでしょ!」が通じない子の頭の中で起きていること。優先順位という難問

帰宅後の息子。

ランドセルから宿題を出して、
机に並べる。

算数のプリント。
漢字ドリル。
音読カード。
明日の準備の連絡帳。

3分後、見にいくと、
息子は机の前で固まっていました。

手は動いていない。
視線はぼんやり。

「早くやりなさい!」
声をかけても動かない。

そう少しイライラした声を出すと、
息子はますます硬直していきます。

最終的に、
何もできないまま夜が来る。

きっと、
心当たりのある親御さんは
多いと思います。

これが、
優先順位がつけられない子の現実です。

サボっているわけでもなく、
やる気がないわけでもない。

頭の中で何かが
「詰まっている」状態。

今日は、
その「詰まり」の正体と、
親ができる支援の話を
書いてみます。



「考えればわかる」が通じない、脳科学的な理由

「優先順位をつける」という行為。

言葉にすればシンプルですが、
脳にとっては
高度な複合作業です。

少し分解してみます。

ひとつ。目の前のタスクを
全部リストアップする。

ふたつ。それぞれの所要時間を
見積もる。

みっつ。重要度を判断する。

よっつ。緊急度を判断する。

いつつ。順番を組み立てる。

むっつ。組み立てた順番を
保持したまま、作業を進める。

これらすべてを、
頭の中だけでやらなければなりません。

ここで使われているのが、
実行機能と呼ばれる脳の働きです。

主に前頭前野が
中心になって処理しています。

そして発達特性のある子どもは、
この前頭前野の発達が
ゆっくりだったり、
処理の仕方が独特だったりすることが
多いのです。

さらに、
ワーキングメモリの容量にも
限界があります。

複数のタスクを
同時に意識の上に置いておくこと自体が、
すでに脳の負担を超えている。

「考えればわかる」のは、
脳の処理容量に余裕がある人だけです。

容量がいっぱいの子に
「考えなさい」と言うのは、
すでに水でいっぱいのコップに
「もっと水を入れて」と言っているのと、
同じことなのです。

固まっているのは、
頭が悪いからでも、
やる気がないからでもない。

容量を超えているから、
動けないだけ。


親がやりがちなNGアプローチ、3つ

ここで、
親がやりがちな3つのNGを整理します。

ひとつ目。

「自分で考えて優先順位つけて」

これは、
以前の記事で繰り返し書いてきた
「ちゃんとしなさい」と
同じ構造の指示です。

「ちゃんと」「自分で」「優先順位」

すべてが抽象的すぎて、
何をどうすればいいか
脳の中で形にならない。

固まっている子に、
追加のプレッシャーを
かけているだけです。

ふたつ目。

「全部やればいいでしょ」

「全部」と言われた瞬間、
脳は「全部」を一気に
処理しようとします。

タスクが3つでも、10個でも、
脳の中では同時並行で
全部が浮かんでくる。

それぞれにどれくらい時間がかかるかも
分からない。

全体が把握できないから、
最初の一歩が踏み出せない。

「全部」という言葉は、
親が思っているほど
やさしい指示ではないのです。

みっつ目。

「とりあえず始めたら?」

これは一見、
やさしいアドバイスのように見えます。

でも「とりあえず」が
抽象的すぎて、指示になっていない。

どれを「とりあえず」始めればいいかが
分からないから、固まっている。

そこに「とりあえず」を重ねても、
詰まりは解消されません。

3つに共通するのは、
すべて「脳の中だけで処理すること」を
求めている点です。

詰まっている頭に、
もっと考えろと言っている。

これではかえって、
脳の容量を圧迫してしまいます。


優先順位は「脳の外側」で組み立てる

ここからが本題です。

解決策の核は、
「優先順位を脳の外側で作る」こと。

脳に詰まっているなら、
紙やホワイトボードに
出してしまえばいいのです。

5つのステップで書きます。

ステップ1:タスクを全部書き出す。

やるべきことを全部、
付箋やメモに書き出します。

一つの紙に、一つのタスク。

これだけで、
脳の負担が劇的に減ります。

「頭の中にある」状態から
「目の前にある」状態に変わるだけで、
子どもの表情が変わるのが分かります。

ステップ2:所要時間を一緒に見積もる。

「これ何分かかりそう?」と聞きながら、
それぞれに時間を書き込みます。

凸凹キッズは時間感覚も苦手なので、
最初は親が
「これは5分くらいかな」と
サポートしてあげてください。

だんだん本人が
見積もれるようになってきます。

時間が書き込まれるだけで、
タスクの「重さ」が
具体的に見えるようになります。

ステップ3:「今日やる」と「明日でもいい」を分ける。

全部を「今日やる」に
入れる必要はありません。

優先順位の本質は、
「やらないことを決める」ことです。

今日やらないものを
別の箱に移すだけで、
脳は一気に楽になります。

「今日の箱」「明日の箱」
「いつかやる箱」

物理的に紙を移動させるのが
ポイントです。

ステップ4:順番を並べ替える。

付箋を、物理的に並べ替えます。

ここが大事なところで、
脳の中で順番を
シミュレーションするのは難しいけれど、
目の前で動かすのは簡単です。

視覚的に順番が見えると、
子どもは納得して動けるようになります。

「最初はこれ、次はこれ、最後にこれ」

順番が手で触れる形になることで、
頭の中で迷う時間が消えます。

ステップ5:一つずつ完了マークをつける。

終わったタスクに線を引く。
丸をつける。
別の場所に移す。

「終わった」を見える形にすることで、
脳は次のタスクに集中できます。

達成感も視覚化されるので、
モチベーションも保ちやすい。

この5つのステップを
毎日繰り返すうちに、
「優先順位を組み立てる」という
作業のパターンが、
脳に少しずつ蓄積されていきます。

最初は親と一緒に。
次は親が見守るだけ。
最後は本人が一人で。

階段を、
1段ずつ上がっていく感覚です。


「やらないことを決める」という最強のスキル

ここで一つ、
強調しておきたいことがあります。

優先順位の本質は、
「何からやるか」ではなく
「何をやらないか」です。

これは、
大人になっても通用する
人生のスキルです。

発達凸凹キッズは、
すべてを完璧にやろうとして
潰れやすい子が多い。

「全部やらなきゃ」が
頭にこびりついている子は、
選択肢を絞れません。

だから子どもに教えるべきは、

「今日、全部やる必要はない」
「やらないものを決めていい」

という考え方です。

具体的には、
こんな声かけが効きます。

「今日は2つだけにしよう。
 残りは明日でいい」

「これは今日のうち。
 これは明日でも大丈夫」

「今日はもう疲れたから、
 明日に回そう」

完璧主義の凸凹キッズに、
「やらない自由」を渡してあげる。

これはサボりを教えるのではなく、
生き延びる戦略を
教えることだと私は思っています。

5月の崩壊の記事でも書きましたが、
凸凹キッズは
過剰適応で潰れやすい。

「全部やらなきゃ」を
持ち続けていると、
本当に倒れてしまいます。

「やらないことを決める」スキルは、
将来の彼ら自身を
守ってくれる武器になるのです。


時間とともに育つ「自分で組み立てる力」

最初は親が全部やる。

次第に子どもが
自分で書き出すようになる。

中学生になる頃には、
付箋ではなく
スマホのアプリで
管理できるようになる子もいます。

優先順位を組み立てる力は、
外側のツールを使い続けるうちに、
少しずつ内側にも
蓄積されていきます。

それは「成長」というよりも、
「学習」です。

経験の積み重ねでしか、
身につかない。

だから、焦らないでください。

今、紙に書き出さないと
動けない子も、
5年後、10年後には、
自分なりの方法で
タスクを整理できるようになっています。

ただし、
それは「考えなさい」と
言われ続けて
自然に育つものではありません。

外側で何度も組み立てる経験を
重ねた子だけが、
内側にも同じ回路を
作れるようになる。

外側で繰り返した経験が、
やがて内側の力になる。

これは、
セルフモニタリングの記事や
アイコンタクトの記事でも
書いてきたことと、
同じ原理です。


頭の中で見えないものを、目の前に出す

「考えればわかるでしょ」

そう言われて固まっていた、
あの夜の息子に、
今ならこう言ってあげられます。

「一緒に書き出してみよう」
「全部やらなくていいよ」
「順番、並べ替えてみようか」

脳の中で見えなかったものを、
目の前の紙に出すだけで、
子どもの表情は変わります。

優先順位は、
脳の中で組み立てなくていい。

手と目を使って、
外側で組み立てる。

それで十分だし、
それが一番、効きます。

詰まった頭に
「考えろ」と言うより、
紙とペンを渡してあげてほしいのです。

それだけで、
今夜の夕食前の時間が、
少しだけ穏やかになるはずです。



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