会社を辞めてカナダに来たら、自分を説明できなくなった
37歳、無職。
正確には「駐夫」です。
2年前、妻の大学院留学に帯同して、家族でカナダ・モントリオールに来ました。駐夫になることも、無職になることも、自分で納得して決めたことでした。
もともと海外生活には興味がありましたし、子どもたちにとっても良い経験になると思っていました。
「これは前向きな選択だ」
「人生にとって意味がある」
「良いキャリアブレイクの期間だ」
ただ、実際に来てみると想像以上にしんどかった。移住して1ヶ月後、私は高熱で1週間倒れます。40度を超える熱の中、ベッドで天井を見ながらふと感じたのは
「こんなとこで俺、今何してんだろ…」
という虚無感でした。今振り返ると、あれは身体より先に“アイデンティティ”が壊れていた気がします。
今回はこの2年間キャリアを止めて、次のキャリアを見つけるまでに分かったことを原体験を交えて赤裸々にお伝えします。
「会社員じゃない自分」が想像以上に空っぽだった

それまでの私は、日本企業で11年間働いていました。法人営業をやり、マネジメントも経験し、ありがたいことに成果も出してきました。
仕事が好きでしたし、自分なりに頑張ってきたつもりです。ただ、それゆえに会社を離れた瞬間に思い知ったことがあります。
それは
「自分から仕事を引いたら何が残るんだろう」
カナダに来てからはこの問いに悩む日々でした。朝起きても、行く場所がない。財布の中の名刺はもう肩書きが消えていて、誰かに
「あなたは何をしている人ですか?」
と聞かれても、固まってしまう。うまく答えられない。今までであれば、当たり前のようにしていた自己紹介で詰まる。すると、急に自分の価値が全てなくなったような気持ちになりました。
今振り返ると、自分で思っていた以上に "会社に所属していること" が自分のアイデンティティの中核になっていたのだと思います。
⚪︎⚪︎社の会社員のワタシ。
⚪︎⚪︎社で管理職をするワタシ。
⚪︎⚪︎社で✖️✖️をしたワタシ。
そんなラベルを全部外した時、自分の存在意義が急になくなった気がしました。典型的なアイデンティティクライシスの症状です。
この悩みは、自分だけのものではなかった
当時は、社畜の自分が特殊なケースだと思っていましたが、冷静に考えるとこれは決して珍しいことではありません。
キャリア理論には
という考え方があります。
30代後半から40代にかけて将来の不安が訪れる心理的な転換期のことで
・このままでいいのか?
・自分は何者なのか?
・本当にやりたいことは何か?
といった問いに向き合う不安になりやすい時期だと言われています。

この点、私は無職になる以前からこの迷いはずっとありました。
30歳を過ぎたあたりから少しずつ
「将来の見通しが持てない…。」
「自分らしいキャリアが分からない…。」
そんな悩みを抱えており、30代後半にはその不安が強くなっていました。そんな中、カナダに来て無職になったことで、その不安が一気に表面的な症状にでたのだと思います。
人と話をしたり相談を受けて確信したこと
実際、海外帯同でキャリアをストップさせている人の話を聞くと、大なり小なり似たような感覚を持つ人が多いです。
また、その後、キャリアコンサルタントとして同世代の人の相談を受けると
「育休で休んでいるけど急に不安になってきた…。」
「仕事に不満はないけど、将来への不安が消えない。。」
「そもそも自分が何をしたいか分からない。。」
など30~40代の声を聞くことが多いです。同世代の人から同じ悩みを共有される中で
「あーこれ、みんな悩むことなんだ。。」
と誰もが抱える大きな悩みだと腹落ちしました。実際、以下のような調査もあり、30~40代の会社員は特にモヤっとしやすい時期のようです。

日本人は「所属」を失うことに苦しむ
そんな中で、カナダに来て面白いなと思ったことがあります。それは、多くの人が「所属」より「個人」で語ることです。
日本だと自己紹介の流れで最初に
「どこの会社ですか?」
という話になりやすい。でもカナダにいると
「何をしている人?」
「何が好きなの?」
「どんなことに興味があるの?」
という話になることが多い。そもそもカナダでは"会社"・"所属"という概念が興味の外にある印象です。

また、カナダで、実際に仕事を失った人とも何人も話しました。もちろん大変そうです。でも、日本で感じるような
「仕事を失った=自分には価値がない。。」
という空気感はあまりありません。むしろ
「会社に急にレイオフされて最悪だよ笑。」
「ほんと、ひどい会社だわ、全く。。」
みたいなテンションで、深刻度が日本のものとまるで違います。カナダでは社員を切るのは割と普通で、社員も個人としてキャリアをどう積むか、息を吸うように考えています。多分ここが全然違うなぁと。
カナダと日本のキャリア観の違いは以前もnoteに書きましたが、カナダに来て思うのは、日本人は相対的に会社・仕事の割合が大きいため
「所属を失うことを極度に恐れる」
傾向にあると思います。そしてこれに関連して多くの人が不安になって苦しんでいるのではないか、と。
カナダの人たちを見ていて感じたこと
カナダの人たちを見ていて面白いなと思うことがもう1つあります。仕事を選ぶ理由が、意外とシンプルなんです。
「面白そうだったから」
「興味があったから」
「この人と働きたかったから」
もちろん全員ではありません。でも、日本に比べるとそういう人が多い気がします。日本人の感覚だと、
「もっと比較とか将来性とか考えないの?」
と思うこともあります。実際、失敗する人もいるでしょう。ただ一方で、"次いい感じにすればいいや"くらいの感じで、あまり先のことを考えて不安にしている印象がありません。
逆に、やりたいから始めたことを何年も続けている人も多い。その結果として専門性が育っている。そんな人をたくさん見ました。
カナダと比較して分かった違和感の正体
もちろん、日本人の考え方・働き方が全て悪いと言いたいわけではありません。
むしろ私は、日本人の働き方の質(特に真面目さ/責任感/基準値の高さ)は世界トップクラスだと思っています。
会社のために頑張る。
チームで成果を出す。
求められたこと以上をやる。
こういった姿勢も日本の強みです。一方で、その強みの裏側には弱みもあります。
日本では、会社が人生に占める割合が大きい。給与はもちろんですが、人間関係も、成長機会も、社会的信用も、キャリアも、かなりの部分を会社が握っています。
だから会社を離れたり、役割が変わったりすると、自分自身まで揺らいでしまう。私が駐夫になって苦しかったのも、まさにそこでした。

私の場合、会社に所属をしていない事実以上に
「全ての可能性を無くした自分」
という考えを無意識にしてしまい、その考えが自分を苦しめました。
色々な仕事を試してわかったこと
高熱で倒れてから、私は今後どうするべきかを何日もベッドの中でぐるぐる考えました。
でた結論としては
「このまま悩んでいても仕方ない。」
「まずは色々試してみよう…!」
と、いうことで色々と動いてみました。
・英会話力の育成。
・英語でアルバイト。
・ブログ/アフィリエイト。
・ライター。
・YouTuber。
・スポットコンサル。
・プロフェッショナルヒアリング。
・コンテンツ販売。
・キャリアコーチング。
などなど。。
できることはとにかくやってみました。正直、全て手探りです。
「何が向いているのかも分からない。」
「どれが将来につながるのかも分からない。」
「そもそもやる意味があるかも分からない。」
ただ、やっていく中で一つだけ分かったことがあります。それは、
「楽しいものは続く」
ということです。

特にキャリア相談関係の仕事は不思議でした。
・人の話を聞く。
・一緒に悩む。
・客観的に整理する。
・気づきを作る。
・行動プランを立てる。
これらをやるのに気づくと時間を忘れてやっていました。肉体的には疲れているのですが、なんか爽快感がある疲れなんです。
収入面だけを見れば、もっと効率の良い選択肢もあったと思います。それでも、”やりたい!面白い!学びたい!”と思える。
そんな感覚がありました。これは他のものと比べると大きく違うなという感じがあります。
好奇心から始まったものが、結果的に専門性になる
振り返ると、日本で働いていた頃の私は、
「市場価値があるか」
「将来性があるか」
「年収が上がるか」
を先に考えていました。もちろん大事なことです。ただ、そればかりを考えていると
「自分が本当にやりたいことは何か?」
と問われても全く分からなくなります。実際、ワタシは30代に入ってからこの悩みが続きました。ただ、カナダに来てからは、とりあえず手当たりしだいに色々と試し、その上で
「この中でどれが一番面白いか…?」
を考えるようになりました。すると不思議なことに、自分の興味や強みも簡単に見えるのです。
また、その考えになると、”どうやったらその興味を今までの経験で強化できるか”という方向に考えが流れるようになります。
その結果、私の場合は、転職エージェントやLinkedinなどから新たな経験によって多くのオファーが来るようになりました。

好奇心を中心にして、今までの経験を再統合して専門性にしていく。これは日本人なら誰でもできるような感覚があります。
日本人の強みは"実は選択肢が多い"コト
ここで私は、日本人には日本人の強みがあるとも思っています。
カナダではジョブ型の雇用が中心です。一つの専門性を深く掘る人が多く、企業もスペシャリストを採用する。従業員の専門性は高い一方で、柔軟性はあまりない。
一方、日本はメンバーシップ型の雇用です。
営業もやる。
企画もやる。
調整もやる。
その結果、幅広い経験を積む人が多く、柔軟性が高い。専門性が低いことに目がいきがちですが、これは大きな強みです。
私は、日本人に必要なのはゼロから専門性を作ることではなく
「今までの経験の上に専門性を乗せること」
だと思っています。
本業での幅広い経験に加えさらに副業で新たなチャレンジをすればかなりの選択肢が出ます。
その中から自分にフィットをするものを選んで自ら深めることをするわけです。いわゆるT型人材というやつです。

横軸は今まで積み上げた経験(ゼネラリスト)。
縦軸は自分の専門性(スペシャリスト)。
この組み合わせができると、時代の流れに柔軟に対応しつつも、自分らしさをもったキャリアが歩めます。
実際、私自身も営業やマネジメントの経験の上に、今のキャリア支援の新たな動きを乗せることが価値になっていると思っています。
自分の人生を考える時間は、意外と少ない
とはいえ、私が会社員時代を思い出すと
猛烈に仕事
片手間で家事・育児
余暇があったら勉強
とにかくキャリアアップするためにムダな時間をなるべくゼロにできないかと、今考えるとヒクほど偏った生き方をしていました。そして、ゆっくり立ち止まる時間はなく
「このままでいいのか?」
と思うことはあっても、その問いとゆっくり向き合う時間はありません。たまに少し考えたところで深くは考えられず、結果、目の前のタスクに溺れます。
こんな状況が続いたからこそ、今回カナダでキャリアを止めたことには意味があったと思っています。これはもちろん最初は不安でした。何者でもない自分と向き合うのは、思った以上にきつかった。
特に、最初のアイデンティティクライシスの状態で高熱でベッドの中でひたすら
「俺は一体何がしたいんだ..?」
と考え続けて、答えが出ないまま朝になった日も多くありました。ただ
「自分は何が好きなのか?」
「どんな人生を送りたいのか?」
「どんな人の役に立ちたいのか?」
結果として、これらを改めて真剣に考えることができました。
「孤独な時間」がないと、自分の声は聞こえない
最近感じるのは、現代人は普通に過ごしていると考える時間が圧倒的に不足するということです。
・普段は仕事のことで頭がいっぱい。
・スマホを開けばSNSやYouTube。
・仕事が終われば家事や育児。
絶え間ないタスクと、スキマ時間に意図せず情報がどんどん入ります。そしてAIがそれをより加速させています。その結果、1人で考える時間がなくなり
「自分はどうしたいのか?」
が全く分からない状態になりやすいのが現代です。だから私は、意識的に1人になる時間が必要だと思っています。
散歩でもいい。
カフェでもいい。
ジャーナルを書くでもいい。
スマホを置いて、自問自答したり、アナログで何かを書き出したり、自分の考えだけと向き合う時間を作る。私はこれを「1人時間」と呼んでいます。
私はアイデンティティクライシスから立ち直ってからも、子供が起きる前の静かな時間や日中散歩をするなど、意識的にこの「1人時間」を作るようにしています。

この「1人時間」があることで自問自答する機会を増やせます。"自問自答"を繰り返すことで、自分の本当にやりたいことに目を向けやすくなり、結果として次の打ち手が見えてきます。
また近年、コーチングサービスが増えているのも、この"自問自答"する価値を大事だとする人が増えているからだと思っています。
逆に、この孤独時間を持たないと、一生、キャリア迷子になり続ける末路が待っています。
極端な選択はせずに自分のペースでシフトする
ここで1つ誤解してほしくないことがあります。私は、
「好きなことを見つけて会社を辞めよう」
と言いたいわけではありません。正直、これはかなりリスクがあります。(今、無職の私がいうのもアレですが)
私は今でも、日本の会社員は非常に優れた仕組みだと思っています。給与や福利厚生はもちろん、経験やスキルを積める環境としても恵まれています。
だからこそ、いきなり独立したり、大きくキャリアを急に変える必要はありません。実際、私も興味があるキャリア支援だけで生活しているわけではありません。
ブログもあります。
コーチングもあります。
スポットコンサルもあります。
色々な収入源があります。そして帰国後はもらっているオファーを受けてパラレルキャリアにするつもりでもあります。だからこそ思うのです。
人生後半のキャリアは、一気に変えるものではなく、好奇心の芽を少しずつ育てていくこと、それらを全てまとめあげることが大事なのではないかなぁと。
"会社人生"ではなく、"自分人生"を設計する
私は今でも仕事が好きです。
そして、おそらく80歳を過ぎても何らかの形で働いていると思います。ただ、会社にしがみつきたいからではありません。なぜかと言うと
自分が面白いと思うことを続けたいから
会社にしがみつくというより、むしろ好奇心に従って会社を作りたい気持ちが強いです。今回カナダで過ごした2年間は、キャリアを止めた期間でした。
でも振り返ると、人生を考え直す時間でもありました。会社を離れた時、
「自分は何者なのか。」
「何に価値を感じるのか。」
「どんな人生を送りたいのか。」
これらは走り続けているだけでは見えなかったことです。もし今
「このままでいいのか…?」
と不安に思っている人がいたら、危機ではなく変化の時と捉えてみてください。その違和感の先に、自分だけの専門性を作るための好奇心の芽に目を移す前項のタイミングかもしれないからです。
好奇心を起点に、キャリアを積み上げ、長い目で見て、自分らしい生き方・働き方を作っていく。これからの時代は、そんな主体的な姿勢・人生のデザイン力が求められている気がしています。
まずは自分の心の赴くままに行動しつつ、少しずつ自分らしいキャリアを積み上げていく、そんな流れに今後シフトしていくのではないかな、と思う今日この頃です。
今回の内容は以上ですが、少しでも似たような経験・感覚を持った人に共感してもらったり、参考にしてもらえる点があったら嬉しいです…!!
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