「労働調査」で判明!非正規社員の人たちはなぜ非正規で働いているのか?「自分の都合」は本当か
非正規雇用者は雇用者全体の約36.8%を占め、日本の労働市場において欠かせない存在です。総務省の労働力調査によれば、2024年の非正規社員数は2,126万人と前年比で2万人増加しました。人手不足が深刻化する中で非正規が増えている事実は、正社員の採用が抑制されている裏返しともいえます。統計上は「自分の都合」を理由とする人が多いものの、その回答の陰には「仕方なく非正規を選んだ」現実も潜んでいるのではないでしょうか。
なぜ非正規雇用は増えているのか
2024年の非正規社員数は2,126万人、前年から2万人増加しました。雇用者全体(5,771万人、役員除く)の36.8%に達し、3人に1人以上が非正規で働いていることになります。
一見わずかな増加に見えるかもしれません。しかし深刻な人手不足が叫ばれる中で、増えたのは正社員だけではなく、非正規も増えている事実は重い意味を持ちます。本来なら人材確保のために正社員を積極採用すべき局面で、企業は非正規も増やす方向を選んでいます。これは正社員募集の抑制、あるいは労働コストを抑える経営判断の結果とも受け取れるのです。
男女別では男性682万人(1万人減)、女性1,444万人(3万人増)。女性比率は約7割を占め、依然として「女性中心の非正規」という構図が続いています。
非正規という働き方を選ぶ本当の理由
調査結果では、非正規の理由として最も多かったのは「自分の都合のよい時間に働きたいから」で731万人。
男性:224万人(前年比15万人増)
女性:506万人(前年比4万人増)
男性においては「正規の職員・従業員の仕事がないから」(89万人、13.7%)を大きく上回り、女性では「家計の補助・学費等を得たいから」(289万人)が続きました。
統計上は「自分の都合」が強調され、非正規を積極的に選んでいるかのように見えます。ですが、本当にそうでしょうか。匿名調査であっても、人は本音を隠し、より無難な回答を選びがちです。「正社員になれなかった」と答えるのは自尊心を傷つけます。そのため、実際には「仕方なく非正規」なのに「自分の都合」と答える人が少なくないのではないでしょうか。
「仕方なく」の非正規と転職希望
「正規の職がないから」と答えた人は180万人、非正規全体の8.5%にのぼります。この人々は明確に「正社員になりたかったがかなわなかった」層です。
さらに、この層では約4割が転職や離職を望んでいるという調査結果があります。一方で「自分の都合」と答えた層でも1~2割は転職を希望しており、実際には「都合」という建前の中に「仕方なく」というの現実が紛れ込んでいる可能性が高いといえます。
数字だけを見れば「非正規は選ばれている」と解釈できますが、心理的なバイアスを考えれば「選択」よりも「制約」の要素が強い現実が透けて見えてきます。
非正規に映る多様なライフスタイル
もちろん、非正規という働き方がすべてネガティブなものではありません。
・子育てや介護との両立を重視し、短時間勤務を選ぶ。
・定年後の生活リズム維持のためにアルバイトをする。
・複数の仕事を掛け持ちする「パラレルワーク型」の非正規。
こうした事例は柔軟な働き方の選択肢として評価できます。統計上も「家事・育児と両立しやすい」「専門スキルを活かせる」という理由は一定数あります。
ただし、これがどこまで「純粋な選択」で、どこからが「正社員の受け皿不足を言い換えたもの」なのか、その境界は曖昧です。
労働市場の課題と今後の展望
非正規雇用には柔軟性というメリットがある一方で、課題は依然として深刻です。
・賞与や昇給が少なく、所得格差が固定化しやすい。
・社会保障や福利厚生が正社員に比べて限定的。
・キャリア形成や昇進の機会が乏しい。
さらに、日本では賃上げや最低賃金の上昇が進んでいますが、そのコスト増を企業が正社員雇用に転嫁するよりも、むしろ非正規雇用を増やして調整する方向に動くのではないかという懸念もあります。
つまり、「賃上げ=正社員の安定」という構図ではなく、「賃上げ=非正規のさらなる拡大」という逆説的な現象が起きかねません。今後の労働市場では、正社員の増加よりも、むしろ非正規の比率が高まる可能性があるのです。
政府は同一労働同一賃金の徹底や社会保険適用の拡大を進めていますが、それだけでは格差は是正できません。「正社員になりたい人が正社員になれる」「非正規を望む人は納得して非正規で働ける」――その両方を保障する仕組みが不可欠です。
賃上げや最賃引き上げは非正規を増やす
2024年の労働力調査では「自分の都合のよい時間に働きたい」が最多理由でしたが、その背景には「仕方なく」の声が隠れている可能性があります。非正規が前年より2万人増加した事実は、人手不足下であっても非正規の採用が増え、企業が非正規に頼っている現状を映し出しています。
そして、今後の賃上げや最低賃金引き上げの流れは、むしろ非正規拡大という形で跳ね返ってくる恐れがあります。
非正規雇用は「選択」と「制約」の二面性を持っています。そのどちらを強めるかは、制度設計と企業の姿勢次第です。働く人々が「仕方なく」ではなく「納得して」働ける社会を築けるかどうか――、それが日本の労働市場に突きつけられた課題なのです。
文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)
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