「転勤」の辞令が出ると7割が転職・退職を検討?もう恐ろしくて辞令が出せない社員の静かな反乱
転勤辞令が出たとたん、退職を真剣に考える人が続出しています。エン・ジャパンの調査では、転勤経験者の44%が「転勤で退職を考えたことがある」と回答しました。とくに20代では4人に1人が実際に退職しており、若年層の間では転勤はもはや“辞める理由”になっています。変化する価値観と働き方のなかで、企業はどのように転勤制度を見直すべきなのでしょうか。
「転勤」は早期退職の理由になってしまう現実
かつて転勤は「昇進への登竜門」「社内人脈を広げる機会」とされ、企業にとっては人材育成の一環でした。しかし現在では、その価値観が大きく揺らいでいます。
人材サービス大手エン・ジャパンが実施したアンケート(2025年版)によれば、転勤経験者のうち44%が「転勤をきっかけに退職を考えたことがある」と答えました。さらに20代では実際に転職・退職した人が25%にも上り、年齢が若いほど転勤に否定的な傾向が見て取れます。
新卒社員の3年以内離職率が約30%に達する現在、たとえ内定時に「転勤あり」と説明していても、いざ辞令が出ると「話が違う」として離職を決断するケースが増えているのです。
拒否できない辞令と、人生設計との衝突
転勤をきっかけに転職を考えた時に、「実際に退職した」と回答した人は何があったのでしょうか。
「転勤先での待遇が事前の説明と違い、不利益を被った。」(30代男性)
「転勤先の街を気に入り、定住するために退職した。」(30代女性)
「転勤を断ったら待遇が悪くなった。」(40代女性)
そもそもの転勤に伴う制度不備は論外としても、不利益を被ったり、待遇が悪くなったりするなど、人間関係の崩壊にもつながるリスクを内包していると考えるべきでしょう。
さらに、転勤が嫌われる理由は単なる“引っ越しの面倒さ”だけではありません。最大の問題は、個人のライフプランとの衝突です。
たとえば、パートナーの仕事、子どもの進学や介護など、ライフイベントが重なる中での転勤は致命的です。しかも多くの企業では、転勤辞令に拒否権がなく、従わなければ人事評価や昇進に響くという“見えない圧力”がかかっています。
育児中の女性や共働き世帯にとって、転勤は「キャリアを一方的に犠牲にさせる制度」と映ることもあります。単身赴任の負担や家族の分断、生活コストの増加も避けられません。こうした理由から、転勤辞令を受けた瞬間に「退職」を選ぶ社員も少なくないのです。
転勤が多い業界は“人材難”に直面
実際、全国転勤が当たり前とされる業界では、人材の確保がますます困難になっています。
たとえば地方銀行、大手メーカー、総合商社など、かつては「花形」と言われた業界でも、若手の離職率が高まり、採用難が深刻化しています。厚生労働省の「雇用動向調査」(2024年)によると、転勤ありの職種に応募する若者の比率は10年前の半分以下に落ち込んでいます。
また、コロナ禍をきっかけにリモートワークが普及し、「働く場所に縛られない仕事スタイル」が定着したことで、わざわざ見知らぬ土地へ移動させる意義も問われるようになりました。今や、「転勤を命じる企業=時代遅れ」というレッテルすら貼られかねません。
変わる企業の対応、転勤制度の見直しが急務に
こうした流れを受け、企業側でも転勤制度の見直しが進みつつあります。
たとえば、日立製作所は2022年に「全社員を転勤対象から外す方針」を発表し、大きな話題となりました。NECや富士通も転勤を原則廃止、もしくは社員の同意を前提とした制度へと移行しています。これにより、優秀な人材の定着率が改善されたとする報告も出ています。
一方、従来型の「転勤あり・全国転勤型採用」にこだわる企業は、採用難や離職率の高さに悩まされ続けています。単身赴任手当や社宅提供といった“転勤補助”で対応しようとする企業もありますが、本質的な解決には至っていません。
求められているのは、「会社都合」ではなく「社員都合」を起点とした働き方の再構築です。全国転勤を前提としない「地域限定正社員制度」や、リモートで完結できる仕事体制の導入などが現実的な対策として注目されています。
転勤を理由に辞めない組織づくりのために
転勤を理由に社員が辞めてしまう現実に、企業はどう向き合うべきでしょうか。重要なのは、「なぜ転勤が必要か?」を企業が自ら問い直すことです。
本当にそのポジションは現地でなければできない仕事なのか。オンラインでの対応は不可能なのか。属人的な慣習に依存した人事配置を見直すことで、転勤の必要性そのものを減らせる可能性があります。
また、事前に社員のキャリア志向やライフプランを共有し、個別に対応する姿勢が求められます。最近では、「転勤希望の有無」を定期的に確認する制度や、社内公募制度を取り入れる企業も増えています。こうした取り組みは、社員の自主性を尊重し、モチベーションや定着率の向上にもつながります。
転勤制度は「時代に合わせて変える」もの
かつては終身雇用や年功序列とセットで機能していた転勤制度も、現代の価値観やライフスタイルにはなじみにくくなっています。とくに若い世代にとって、転勤は「理不尽な命令」ではなく、「人生設計を妨げる障壁」となっています。
企業が人材確保や定着を目指すならば、転勤制度そのものの柔軟化や廃止を視野に入れた改革が不可欠です。個人が人生を主導する時代において、組織が一方的に“場所”を決める時代は終わりつつあります。
社員が「辞めたい」と感じる前に、企業が「変わりたい」と動けるかどうか。転勤をめぐる課題は、企業の未来に直結する重要な経営テーマなのです。
文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)
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