バンカラ女子⑤~夏の残り火
私はこの夏の締めくくりとして隣街で開催される夏祭りに参加することにした。ちょうどお盆休みで連休だった。川原で行われる花火大会はここら辺ではけっこう有名で、他県からも観光バスが来たりして大勢の人で賑わう。
いつものように私の家の前で待ち合わせして、あざみさんのバイクにふたり乗りして国道を隣街まで四十分ほど走る。
そういえば頑なにスマホを持とうとしなかったあざみさんもついに私の説得に折れてスマホを買ったのだ。私も一緒にショップへ行って探すのを手伝った。
あざみさんは「あ~あ、あたしも堕落したなあ」なんてぼやきながらも私とお揃いのスマホを買ってくれた。これでいつでも繋がることができると思うととてもうれしかった。
私たちは夏祭りの会場から歩いて三十分ぐらいのところにある
イオンにバイクを停めて夏祭りまでイオンで遊ぶことにした。会場にある駐車場は駐車料金が取られるし出るとき大渋滞するので早めにイオンに着いてそこから歩いていくことにしたのだ。
気の早い私たちはお昼頃イオンに着いたので時間はたっぷりある。
私たちは久しぶりにゲームコーナーで遊んだ。私はクレームゲームで五百円使ってうさぎのストラップを取ろうとしたけど、へたっぴでかすりもしなかった。私は諦めたけどあざみさんが「あたしうまいよ」と言って一発で取ってくれた。しかも一度に二個も爪に引っかけて取ってくれたので、早速スマホに付けてお揃いにした。あざみさんもこういうのが好きみたいだ。
それからふたりで太鼓の達人をやった。あざみさんは相変わらずうまかった。高校生のころに戻ったみたいでとても楽しい。
「ねえ、まだ時間あるけどどこ行こっか?」
「服買いに行きましょ」
「服? あたし下着以外は半分男モノなんだよね」
「ダメですよそれじゃ。あざみさん、ちゃんとやれば可愛いんだから」
今日のあざみさんは黒いバイクジャケットに青いジーパンを履いていて、男子っぽかった。きれいな長い黒髪も邪魔だからってバッサリ切ってショートにしてしまった。本当は長い髪も好きだったんだけど。
ワイルドで男子っぽいあざみさんもかっこよくて好きだけど、可愛いあざみさんも見たかった。私は女の子としてのあざみさんを好きになったのだ。
「それに化粧もしてないですよね」
高校生のころ、ノーメイクだったあざみさんに化粧の仕方を教えたのは私だった。元々目鼻立ちがくっきりしてきれいな顔だったから、化粧をすれば鬼に金棒だったのだ。
「あ~めんどくさくてさ。最近化粧してないや。化粧水と日焼け止めはちゃんと塗ってるよ」
「じゃすっぴんだ。せっかくの夏祭りだし化粧してみません?」
「うん、久々にやってみっか」
私たちは化粧品コーナーを見て歩いた。私の使ってる化粧品をすすめたら喜んで買ってくれた。今度プレゼントしよう。
それから色んな種類のテスターがあったのでふたりで鏡の前で試してみた。アイシャドーを塗ってピンクのリップをぷるんと塗ったあざみさんは、はっとするほどセクシーだった。
化粧品の次は婦人服コーナーで浴衣を探すことにした。実は浴衣を買いにイオンに来たのだった。
「え~あたし浴衣なんて着たことないよ」
「いいからいいから。きっと似合いますよ」
あざみさんの手を引いて見て回った。
私はちょうど青に白い水玉模様の可愛い浴衣があったのでそれを買うことにした。
あざみさんは「いいな~あたしも青がいい」って言ったけど残念。青い浴衣は私のサイズに合うものしか売ってなかった。背の高いあざみさんに合うのは赤に白い朝顔模様の浴衣しかなくて、彼女は渋々ながらそれを買うことにした。帯と下駄の三点セットで10780円だった。
試着コーナーで一足先に浴衣に着替え、彼女が出るのを楽しみに待った。
やがて試着コーナーから出てきたあざみさんは、恥ずかしそうに顔を赤くしていたので思わず笑ってしまった。
「あっ、笑ったな~。あたしの浴衣を笑ったな~」
そう言ってあざみさんは私の頭をぽんと叩いた。
怒ったあざみさんもなんか可愛い。
「いえいえあんまりお似合いだったから微笑んじゃいました。とっても可愛いですよ」
「ほんと? 変じゃない?」
「ほんとに可愛い」
「へへっ。みさきちゃんも鬼可愛いよ」
そう言って私の頭を撫でてくれた。
「ほんとですか。うれしい」
きっと私の顔は赤くなっていただろう。
その浴衣を買って着替えた服の入った紙袋と靴を無料のコインロッカーに預けた。
そして私たちは夏祭りの会場のある川原までぶらぶら歩いて行った。
会場へ続く道の両側には出店が並んで宙にぶら下げられた提灯が灯っている。すごい人だかりだ。
「花火まで時間あるしなんか食う?」
「うん、何にしよっかな」
「とりあえずたこ焼きでしょ。焼きそばにお好み焼きにベビーカステラにチョコバナナ」
「そんなに食べれるかな」
「じゃ一個だけ買って分けっこしよ」
「うん」
「みさきちゃん、ビール飲める?」
「んーん、飲めない」
それにまだ二十歳になってなかった。
「そっか。あたしは飲めるけど帰りバイクだからダメだね。ラムネにすっか」
「うん、ラムネがいい」
人混みの中をあざみさんについて歩いていく。
時々出店で買ったうさミミを付けてるカップルたちを見かけて思わず微笑んでしまう。遠くから盆踊りの音が聴こえてきて、屋台の香ばしい匂いがする。あざみさんは振り返って言った。
「ほれ、迷子にならないように手握って」
「うん」
私はあざみさんの手を握った。彼女の手はしっとりとしていて温かかった。ずっとこのまま握っていたいと思った。そのまま色々見て回った。わたあめ屋さんにお面屋さん。それから金魚屋さん。
「お、金魚掬いやってるよ~。やってみる?」
「うんやる」
私はおじさんに三百円払ってぽいをもらった。
私は小さな赤いのを狙ったがするっと逃げられてしまって面倒になったので大きな黒い出目金を狙った。そしたらあっという間にぽいが破れてしまった。残念。
「出目金か~。見ててね。おっちゃん、あたしもやる」
あざみさんはお金を払ってぽいを貰うと真剣な顔になった。そして水槽に斜めにぽいを入れると、ひゅっと目にも止まらぬ早業で出目金を掬い上げてしまった。どうやら枠に乗っけたらしい。一体どうやってその技を習得したのだろう。
結局その出目金は飼うのが大変そうなので、物欲しそうに眺めている小さい男の子にあげた。
私たちは一通り出店を見て歩いて、たこ焼きと焼きそばとチョコバナナとラムネを買って会場から少し離れたところにある公園のベンチに座った。
「めちゃめちゃ腹減った~。さて、食うか……」
あざみさんはパックを開けて、爪楊枝で刺したたこ焼きをパクっと食べた。
「あっち~! はふはふ」
鼻にしわを寄せるあざみさん。予想外の反応に笑ってしまった。
「ふうふうしないと。はい、ラムネ」
「たこ焼きがこんなにあっついなんて、しばらく食ってないから忘れてた。あたし猫舌なんだよ~」
「意外だね。犬舌っぽい」
「それを言うならマグマ舌。舌はいくら筋トレしたって鍛えられないからね」
まるで猫舌なのを恥じてるようで可笑しかった。あざみさんは面白すぎる。
「私も猫舌だよ」
私はふうふうしてたこ焼きを彼女にあげた。
「サンキュー」
しばらくの間、私たちは黙々と食べた。お昼はハンバーガー一個しか食べていなかったのだ。
「おいしいね」
「うん。第二ラウンドいけるかも」
「もうすぐ花火だね」
「うん。川原行く?」
実は花火をやる川原と橋の上は観覧料が取られるのだ。人がいっぱいいるし。
「どっか人気のないとこ探さない?」
「う~ん、でもあるかなあ?」
あざみさんは後ろを振り返って指差した。
「あの山に神社なかったっけ?」
「あったあった」
川原とは反対方向の小高い山に神社があるようで、さっき通るとき幟が出ていたのだ。
一キロぐらいあるだろうか。ちょっと遠いけど人混みの橋で観覧料を取られるよりいいかもしれない。
「うん、行ってみる」
私とあざみさんは花火に間に合うように急いで神社へ向かった。
兎耳山神社と額に書かれた鳥居を潜ると、本殿は予想に反してずっと上の方にあった。麓から見上げると両側を提灯で照らされた急な石段がずっと上まで続いている。ちょっと後悔したけど今さら引き返しても間に合わない。私は巾着袋から虫除けスプレーを出してふたりの身体にシューッと吹き掛けると意を決して登り始めた。
汗をかきながらはあはあ登ってるうちに、ドンッと音が聴こえた。
「あ~あ、始まっちゃった」
「だね~」
ゴールはまだけっこう先だ。
「みさきちゃん、おぶったげるよ」
「え?」
そう言うとあざみさんは私の前で背中を向けてしゃがんだ。
「でも疲れるよ」
「いいっていいって鍛えてるから。むしろ萌えるシチュエーション」
私は赤い浴衣のあざみさんの背中にひょいとおぶさった。汗ばんだ首もとにほつれ毛がまとわりついて色っぽい。
「いくよ」
そう言うとあざみさんは一段抜かしで一気に頂上まで駆け登ってしまった。
私たちは頂上で息を整えたあと、鳥居を潜って本殿に向かってお辞儀をした。そして「ちょっとここで涼ませてください」と言って五円玉をお賽銭箱に入れて鐘を鳴らした。
本殿の周囲は木々が切り拓かれていて川原の方の景色がよく観えた。すぐ下の方にはさっきまで私たちがいた出店の灯りが見えた。その右手の方はイオンと住宅地の灯り。
私たちは木製のベンチに座ってじっくり花火を観た。
ここは風が吹いて涼しい。
「……スターマインだね」
「うん」
パチパチと花火が散る音がここまで響いてくる。
「他に誰もいないみたいだね」
「うん。さすがに急だから誰も登ってこないね」
「だね」
「頑張って来てよかったね」
「うん」
「ねえ、あたし汗くさくない?」
「別に大丈夫だよ」
実は私もそれを気にしてたのだ。あざみさんは普段から運動してるから汗もさらさらだろうけど私は……。一応制汗スプレーを付けてきたけど。
「私の方こそくさくないですか?」
「ん~ん。てかみさきちゃん、めっちゃいい匂いする」
「え~嘘~」あざみさんが気を使って言ったのかと思った。
「ほんとだって。なんか胸がきゅんきゅんして堪らないんだ」
あざみさんは私の胸元に顔を寄せてくんくん嗅いでくる。
「ほら、めっちゃいい匂い」
「やだ、嗅がないでくださいよ~」
「ふふふ、幸せな匂いだ~」
私はお返しにあざみさんの胸に顔を押しつけた。
「こらこら、おいたはやめなさい」
桃のような甘い香りがして胸がときめいた。
「あざみさんもいい匂い……」
「ねえ、あたし今すごいドキドキしてるよ。触ってみて」
あざみさんは私の右手を取ると自分の左胸に当てた。胸の上からもドクドクと鼓動が伝わってくる。ふくよかな胸の感触に身体の奥が甘く疼いた。
「ほんとだ。さっき走ったからかな」
「い~や、みさきちゃんとふたりっきりだからだよ。こんなにドキドキしたの、北海道でヒグマに遭ったとき以来だな」
真顔でそんなことを言われて私は吹き出してしまった。せっかくロマンチックな気分だったのに。
「もう。台無しじゃないですか」
「え?」あざみさんはきょとんとしてる。
「もしかして怒った?」
「怒ってない」
私はあざみさんの右手を取ると自分の左胸に当てた。実は私の方が何層倍もドキドキしていたのだ。
「あ」
私は台無しにされた仕返しをしようと思った。
「目を閉じてください」
「はい」
あざみさんは言われるままに目を閉じた。
私は震えながら彼女の唇に唇を重ねた。
花火の光が彼女の横顔を明るく照らした。

その夜、私とあざみさんはひとつに溶け合った。
帰りたくなかった私たちは浜辺に行くと、焚き火を燃やして肩を寄せ合い、満天の星を見ながら夜通し語り合った。
やがて焚き火が消える頃、水平線の向こう側が明るく輝き出した。
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素晴らしい記事ですね♪