創作短編*文鳥と逃げ足
※はじめに
企画お題拝借(周回遅れしまくり)の短編コメディです(本編約2950字)
「私、あの日助けていただいた文鳥です。」
ある夕暮れ時、道で突然声をかけられた。
金髪の、小柄で可愛らしい女性だ。
黒いリュックを背負っている。
「恩返しをしたいので……一晩泊めていただけませんか?」
彼女いない歴××年の俺は思った。
おっ…おめでとう!おめでとうございまあああす!?えっ、あのっ、文鳥とか助けた記憶無いんだけど、大丈夫ですか?!
*
「絶対に中を覗かないと約束してください。」
二間続きの1LDK安アパート。
彼女はそう言って、寝室代わりの3畳間の引戸を閉めた。
まあ、うん、ですよねー(棒読み)
引戸越しに声をかけてみる。
「あのー…、妹が来た時用のパジャマと布団が押し入れにあるんで、使ってください。
あと、機織り?(無いけど)しなくていいですから。文鳥とか体小さいから、すぐつるっぱげになるでしょ。」
向こうで小さく笑う気配がした。
「靴下くらいなら織れるかも…。」
「マジで?じゃあショート……いや、グランデサイズで。嘘です、絶対やめて。」
信用ならなかったら壁んとこの木刀使ってください、と付け加えて、俺は居間でタオルケットを被った。
…名前も何も確認しなかったけど、未成年じゃないよな?後から訴えられたりしない?
そっと引戸に手をかけると普通に開いた。
自分の羽根を抜いてせっせと機織り…なんて事は無く、自称文鳥は背を向けて寝ている。
つっかえ棒しなかったのね…と思ったら、枕元に木刀を発見。
oh…殺られるや〜つ…。
見なかったことにして、戸を閉めた。
まあ、なんとかなるか。
危ない事に巻き込まれそうだったら、また逃げればいい。
*
俺はフリーター、乱南道夫。
ランナウェイとか呼ばれている。
その名の通り、逃げ足が早い。
鬼ごっこでは捕まった事がない。
修学旅行で夜中に外出したのがバレた時も、廊下で正座させられたのは悪友たちだけ。
受験勉強からも、就職活動からも、ブラックっぽいバイトからも逃げてきた。
ついでに先日、キャバクラの支払いも幼馴染に押し付けて逃げた。
いや、まあ…それはそのうち返そうと思ってるよ?
*
翌朝、コンソメみたいな匂いで目が覚める。
妹のなんかフワフワした素材のパジャマを着た文鳥が、台所に立っていた。
おっ…!おめでt(以下略)
ウチの数少ない食材でささやかな朝食を作ってくれたようだ。
これが一宿の恩返しってとこか。
トーストにいちごジャム。
野菜室の乾きかけた切れっぱし達がスープに転生していた。その中に、妹が置いてって使い方に困っていたマカロニのなんかでかいやつが入っている。
「ペンネです。」と、文鳥は小さく笑った。
食べてみたらとても美味い。
特にたまねぎが甘く煮えてて、いい。
けど、
「たまねぎ買った覚えないんだけど…」
すると、文鳥は唯一の荷物であろうリュックを開いてみせる。
土のついたたまねぎがギッシリ詰まっていた。
「どんな料理も美味しくなる魔法のたまねぎ…1個1万円です♡」
*
俺は自分んちから逃げ出していた。
直感でヤバいと思った。
超高いたまねぎ買わされる!?
確かに美味かったけども!
ってか食べちゃったよ!?
なんか請求される!?
幼馴染から鬼電きてたけどフルシカトした。
そっちはそれ…そのうち返すから!
気付けば歓楽街に入り込んでしまっていた。
昼間は割と閑散としている。
「オイ」と声をかけられ反射的に振り向くと、
恐いオジサンに睨まれていた。
逃げ…ようとしたが、手下っぽい黒服二人に捕まってしまった。
*
「ワレ、この女ぁ知りまへんかー?」
エセくさい関西弁とともに眼前に突き出されたスマホの画面に、金髪の可愛らしい女性が写っている。
「文鳥…?」思わず口にしてしまった。
オジサンは目の色を変えて俺の肩を掴むと前後に激しく揺さぶる。
「知っとんかあああっ!?どこに居るんじゃあああっ!?」
あだだだ!やめてええ!酔う!酔っちゃう!
「お父ちゃんやめて!」
背後から声がして、オジサンの動きが止まる。
肩がホールドされたままで俺は振り向けないけど、声で分かった。文鳥だ。
ってか…えっ?お父さん?
「文子(本名)…どないして家出なんか…たまねぎまで持ち出しよって」
「キャバ嬢とかもうヤなの。」
「ほうか?お父ちゃんの店やで安心やん?虫よけバッチリやろが。」
「あとそのエセ関西弁気持ち悪い。」
「そうか…顔がおっかねぇから似合うと思ったけど、お前が嫌ならやめるわ。」
「いや…ちがくて、」
文鳥が躊躇いがちに言葉を繋ぐ。
「お父ちゃん…ホントは牛丼屋さんがやりたかったんでしょ?ホントは私より…たまねぎの方を探してたんじゃないの?」
オジサンは、ハッと息を呑むと俺を突き飛ばし(痛え)「たまっ…文子ぉ…」と文鳥へ駆け寄った。
「ほら、たまねぎって言おうとした〜」
文鳥は眉尻を下げて笑う。
「私、もう大人だよ?自分の将来は自分で決めるし…だからお父ちゃんも好きな事やってよ。」
座り込む俺の傍らで手下の黒服がグスッと鼻をすすった。
ってか…アレだな。
多分この親子、俺がこないだ逃げた…
アイツ金払ってくれてるよね??
俺はさりげなく、その場から逃げた。
*
数日後、インターホンが鳴る。
「私、あの日助けていただいた文鳥です。」
咄嗟にドアを閉めようとするが、刑事ばりにウエスタンブーツの足をねじ込んでくる。保安官だったか!?
「金なら勘弁してーー!!」
「ちょっ、何言ってるんですか、パジャマをクリーニングして返却しに来ただけですけど!要らないですか?」
「妹に殺されるんで返してください!!」
ドアを開け、袋に丁寧に入れられたパジャマを受け取る。
「それと…」
文鳥は眼前に靴下を突き出してきた。
父親と同じ仕草だ。
「織っ…てはなくて買ったやつですけど。恩返し。」
「ショートどころか、くるぶしソックスだけど。」
「要らないですか?」
「すみません要ります。」
その後、少し文鳥と話をした。
父親がこれからは牛丼メインでやっていくと一念発起したんだそうだ。
展望デッキのキャバクラをそのまま牛丼専門店に改装、キャバ嬢たちは希望する娘は店員として再雇用する計画らしい。
「君はどうすんの?」
「私は、畑仕事をするのが夢で…。私の作った野菜をおと…父に料理してもらいたいなぁって。」
*
あれから数ヶ月、
「行ってきます。」と言って笑った文鳥は、広い草原と豊かな畑がある、とある地方のたまねぎ農家へ修行に出た。
そして、そこの長男だかと何やらイイ感じになって、あっさり結婚してしまった。
別にガッカリなんかはしていない。
オジサンは分かりやすく凹んでて、お互い八つ当たりしあってるうちに、牛丼専門店のオープニングスタッフに加えられていた。
店のコンセプトとか言って、周りの元キャバ嬢たちと同じ金髪にさせられる。
だから文鳥も金髪だったのか…と思いきや、彼女だけは地毛みたいだった。
「あの娘は、昔出てった母親似やで。」と、オジサン。
俺は深くは聞かなかった。
「お客様ご注文は…!げ。」
ある夜、注文を取りにカウンター席へ行くと幼馴染が来ていた。
やべ、ちょっと忘れてたわ…。
ヤツも俺に気付いた様子で、したり顔で頬杖を付く。
「牛丼ひとつ。たまねぎ多めで。」
分かってるよ。バイト代入ったら返すから。
お前くらいだもんね、俺を逃がしてくれないの。
あ、そうだ。
「なあなあ、裏メニューも頼んでみねぇ?
たまねぎとペンネのスープ。宇宙一美味いよ。」
(答え合わせと反省会)
いつもコッソリお世話になっております、以下の企画の過去数週間分のお題を周回遅れしまくりながらお借りした創作になります。
【↑「ねぎ多めで」牛丼・金髪・デッキ】
【↑宇宙・スープ・虫よけ】せりふは断念…
【↑「おめでとう!」いちご・パジャマ・文鳥】本当はこの週に合わせたかった…
【↑「ショート……いや、グランデサイズで」草原・返却・ペンネ】
いやグランデサイズの靴下って何だよ…!?
…まあまあまあ、そういう無理矢理感もお題モノの面白さだと思います(と自分で言ってメンタルを平行に保とうとする/笑)
改めて、素敵なお題を使わせていただき、ありがとうございました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
↓幼馴染くんサイド
