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プロセスや学習こそ評価したい/新規事業はなぜ失敗する?「第2の壁:評価・キャリアの壁」を越える!①

優れた人事評価制度は、新規事業開発を進める上で担当者のモチベーションを高め、事業を成功に導きます。
しかし、評価制度は、既存事業に最適化された仕組みであり、そこに新規事業が大切にする「挑戦」という価値が入る余地はほとんどありません。そのため新規事業を進めても「挑戦が評価されない」という構造的な問題を抱えることになります。

これを解決するには「評価基準」と「評価者」を見直すことに加え、担当者の新たな「キャリアパス」を整備して統合的にアプローチすることが必要です。
まず、ここ(第5回)では「評価基準」と「評価者」を考えます。

評価基準を再定義:プロセスと学習を評価

新規事業の評価基準について考えてみたいと思います。
新規事業は、成果が現れるまで時間がかかります。なぜなら、新しい事業に必要な「仕組み」を0から作り出さねばならないから。新規事業の成果とは、既存事業のように事業が生み出す売上や利益と異なり、まずは事業の「仕組み」そのものを生み出すことです。
そのため評価基準には、売上や利益といったこれまでの成果指標だけでなく、プロセスや学習を評価する新たな基準が必要になります。

評価基準の多面化

そこで評価基準として、事業の進捗を示す指標、たとえば仮説検証のサイクル数、顧客からのフィードバック件数、市場インサイトの獲得量などを採用します。既存指標との評価ウエイトの置き方に難しいところがありますが、これによって事業の収益化前でも、事業プロセスや担当者の努力を可視化し、評価できます。

しかし、せっかく評価基準を見直すのであれば、そもそもの事業価値を問いただしてみてはどうでしょうか。新規事業には、既存事業の視座からは見えない価値が潜んでいます。それは、企業ブランド価値、環境的価値、組織的価値、顧客価値など多面的であり、それらの獲得こそが企業の真の利益につながります。

そこで、これら事業価値を見える化(経済価値換算)したうえで、新たな目標を設定します。すでに設定されている売上や利益などの財務的目標に加え、事業目標が複数になるわけです。当然、新たに加わった目標に合わせて評価基準も見直します。
こうすることで初めて、既存事業の縛りから解放され、新規事業がもたらす多面的価値が企業の財産となります。そしてまた、財務的目標が達成されないので撤退するという新規事業の事例が多いなかで、これは事業を存続させることにもつながります。

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プロセス評価・加点評価の導入

人事評価制度の多くは、成果主義であり、減点評価で構成されています。しかし、プロセス評価や加点評価の仕組みを取り入れることができれば、失敗を単にマイナスに評価するのでなく、失敗から何を学び、次の行動にどう活かしたかを評価できます。たとえば、失敗報告書といったものを作り、評価項目に「失敗から得た学びの共有」「顧客からのフィードバックの獲得」などを追加します。

このアプローチは、新規事業担当者の心理的安全性を高め、イノベーションを促す土壌を築きます。失敗が許容される環境が根付くことで、チーム全体がより積極的にリスクを取り、事業の創出に集中できるようになります。

クリエイティブ系のクラウドサービスを提供するアドビシステムズ(Adobe Inc.)は、パッケージ販売からサブスクリプション(SaaS)モデルへと転換する際、従来の年一度行っていた目標管理制度(MBO)を廃止し、上司と部下が随時・継続的に評価を行う「チェックイン制度」を導入しました。
従来のMBOでは、目標が未達だと評価が下がりましたが、チェックイン制度では、失敗の要因とそこからの学び、次への展開というプロセスを評価するので、評価が下がるというわけではありません。
また、評価のタイミングを年次から随時に変更したことで、プロジェクトに遅れが生じた際も、即座にフィードバックと軌道修正が可能になりました。
これにより、迅速なPDCAサイクルと、失敗を恐れない挑戦文化が根付いているといいます。

また、失敗のプロセスを評価するだけでなく、失敗からの学びを全社的なナレッジベースの仕組みにする会社も現れています。
有名なのは、富士フイルムです。「アスタリフトプロジェクト」という制度を立ち上げて、医療・ヘルスケア分野など新領域への進出で積み上がった失敗で得た知見を組織全体で共有する仕組みを作り、従来のフィルム事業からの大転換に成功しました。この制度は、挑戦して失敗した経験やナレッジを全社の資産として、全社員・全部署がフルに活用する仕組みです。

ピアレビュー・ピアボーナスの活用

ピアレビュー(相互評価)とは、チームメンバーや同僚同士が、互いの貢献度やスキル、勤務態度を評価し合う仕組みです。上司や部門長だけが評価を行う従来のやり方では見えにくい、個人の貢献や行動を多角的に捉えることができます。

たとえば、上司、同僚、部下、そして自己評価を含む多面的な評価を行う「360度評価」では、上司だけで把握しきれない日々の業務への貢献や、チーム内での役割が可視化されます。また、貢献度の高い同僚に少額のボーナス(ポイントや金銭)を送り合う「ピアボーナス」は、リアルタイムで感謝や貢献を可視化する効果があります。

筆者も、所属する部門でピアレビューを導入した経験があります。プロジェクトを終えた段階で、各メンバーの貢献度をメンバー全員で相互評価し、それに基づいてプロジェクトが生み出した利益を各メンバーに配分するという大がかりな制度です。
驚くのは、どのメンバーの評価もほとんど差異がなかったことです。評価者は実名、オープンな環境で評価するというルールが守られれば、非常に有効な制度だと思います。

このようにピアレビューは、評価制度の公平性と透明性を高め、個人の努力が正当に報われるという感覚を生み出します。また、チーム内のコミュニケーションを活性化させ、メンバー間の信頼関係を深めます。
特に、部門横断的なプロジェクトが多い新規事業では、関係者全員が評価に参加することで、評価の客観性を保ち、担当者のモチベーションを維持する上で非常に有効です。

評価者の育成:新規事業の特性を理解する

新規事業における人事評価の有効性は、「評価者」自身が新規事業の特性を深く理解し、適切な視点を持つかどうかに大きく左右されます。既存事業の成功体験や評価基準に縛られることなく、新規事業の不確実性やプロセスを正しく評価できるよう、評価者を育成することが不可欠です。

評価者研修

評価者には、新規事業特有のマネジメント手法に関する専門的な研修を実施する必要があります。「リーン・スタートアップ」「アジャイル開発」「デザイン思考」といった新規事業に不可避な基本概念やフレームワークを学び、新規事業がどのように進められるかを身体的に理解してもらう必要があります。
こうした研修を通じて、評価者は担当者の活動を「単なる遅れ」として見るのでなく、はじめて「Pivot段階」として捉えることができるようになります。この研修は、既存事業しか知らない評価者に対して、価値観を180度転換するものであり、単なる座学だけではその効果は期待できないかもしれません。

評価プロセスの多様化と専門家の活用

評価者の専門知識不足を補う手段は、研修だけではありません。
一つは、「外部メンター」の活用です。新規事業の立ち上げ経験を持つ外部の専門家や、社内の他部門のベテラン社員をメンターとして迎え、担当者の評価に加わってもらいます。これにより、評価の客観性が高まり、担当者もより専門的なフィードバックを得られます。

また、「評価内容の言語化」も必要です。評価者が評価の理由を具体的に言語化することを義務付けるというものです。
たとえば、「なぜその失敗を高く評価するのか」「次のステップとして何を期待するのか」を明確にすることで、担当者は評価の根拠を理解し、納得感を持つことができます。

これらの取り組みを通じて、評価者のスキルと視点を向上させることで、新規事業担当者のモチベーションを維持し、組織全体のイノベーション能力を高めることが可能になります。

(丸田一如)

次回(第6回)は、引き続き「第2の壁:評価・キャリアの壁」を突破する「キャリアパス」のあり方について考えたいと思います。

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