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恋する六本木・闇と光編 第2部

・第1部は下記です

※下記、諸事情により、名前を、クミからマヤへ、スミアからスアに変更しております🙇‍♂️

恋する六本木・闇と光編 第2部
by Ryoji M.

第2部 スポットライトの裏側

第1章 新しい世界
六本木の高級ホテルで行われたパーティーから数日。

マヤは、都内の雑居ビルにある小さなスタジオの控室にいた。

「マヤちゃん、メイク終わった? 次、スチール撮影だから準備してね」

スタッフの声に、マヤは「はい!」と明るく声を張った。

姿見に映る自分は、数ヶ月前の自分とはまるで別人だった。プロの手によって施されたメイクは目元を強調し、スタイリストが用意した華やかな衣装が体のラインを綺麗に見せている。

鏡の中の自分を見つめるたび、胸の奥から湧き上がるような優越感と高揚感を覚えずにはいられなかった。

「どう? だいぶ様になってきたじゃない」

ドアを開けて入ってきたスアが、満足そうにマヤの肩を抱いた。

「スア先輩…あのお仕事、本当に私でよかったんでしょうか。この前のホテルのパーティーも、すごく大きな会社の方ばかりで…」

「何言ってるの。社長がね、『マヤちゃんは度胸もあるし、何より華がある』って絶賛してたわよ。今度の大型イベントのメイン・コンパニオンも、ほぼ決定だから」

「本当ですか!?」

「ええ。だからね、余計な心配はしないで、目の前の仕事に集中すること。…そういえば、あの譲司って子、最近しつこく連絡してきたりしない?」

スアの問いかけに、マヤの胸が一瞬キュッと締め付けられた。

あの日、ホテルのエントランスで目撃された譲司の顔が脳裏をよぎる。蔑みと悲しみが混ざり合ったような彼の視線。

スマホの画面には、彼からの未読メッセージが何通も溜まったままだ。

「…ううん、別に。もう連絡してきてないです」

「そう。ならいいけど。あいう堅物で夢のない男と付き合ってると、運気が下がっちゃうからね。ここは六本木よ? 自分の価値を高めてくれる人と付き合わなきゃ」

「うん…分かってる」

マヤは、自分に言い聞かせるように深く頷いた。

譲司はただの心配性だ。私が成功するのが羨ましいだけなんだ。

そう思おうとしても、胸の奥に引っかかった冷たいトゲは消えてくれなかった。

「マヤちゃん、準備できた? 撮影入るよー!」

「はい、ただいま行きます!」

呼び出しの声に背中を押され、マヤは笑顔の仮面を張り直して控室を出た。

眩しい撮影用ライトが彼女を照らし出す。その強烈な光は、足元に伸びる深い影を隠すように、強く輝いていた。

第2章 甘い罠
スタジオ撮影を終えたマヤは、スアに連れられて西麻布の会員制バーへと向かった。

看板もなく、重厚な扉の奥に広がる店内は、静かなジャズが流れ、洗練された大人たちがグラスを傾けている。

奥の個室に通されると、そこには先日ホテルで出会った巨漢の男…事務所のスポンサーであり、複数の飲食店を経営する実業家の鬼元(オニモト)が待っていた。

「お疲れ様、マヤちゃん。今日の撮影もバッチリだったみたいじゃないか」

彼は、柔らかな笑みを浮かべ、マヤを隣のソファへと促した。

「鬼元さん、ありがとうございます。スア先輩やスタッフの皆さんのおかげです」

緊張しながらもお礼を言うマヤに、彼は、高級感のある小さな紙袋をテーブル越しに差し出した。

「これ、日頃の頑張りのご褒美だよ。次の大型イベントの件も、君を推薦しておいたからね」

袋の中身を確認したマヤは息をのんだ。そこには、彼女がずっと憧れていた海外ブランドの小ぶりなハンドバッグが入っていた。あまりにも高価な贈り物に、思わず手が止まる。

「こんな高価なもの、いただけません…!」

「いいんだよ。頑張っている綺麗な女性にプレゼントをするのは、大人の男の嗜みだからね。それに、君にはそれだけの価値がある」

彼は、マヤのグラスにシャンパンを注ぎながら、優しく微笑んだ。

その言葉と気品ある態度に、マヤは、自分が特別な存在として扱われているような、甘美な万能感に包まれていく。

「ただし…」

彼は、グラスを傾け、ふっと目を細めた。

「来週、うちのクライアントを集めたプライベートな接待パーティーがあるんだ。そこにスアと一緒に来て欲しい。君の将来にとっても、絶対にプラスになる人脈ができるはずだから」

「接待…ですか?」

一瞬、胸の奥で警告音のようなものが鳴った。

だが、彼の穏やかな笑顔と、目の前に置かれた美しいバッグ。そして、「将来のため」という甘い響きが、その小さな不信感を容易に押し流してしまう。

「大丈夫よ、マヤちゃん。私がずっと横についてるから」

隣でスアが優しく微笑み、マヤの背中を後押しする。

「…はい! 喜んで参加させていただきます」

マヤは差し出されたグラスを受け取り、一口、口をつけた。

フルーティーな泡が喉を通り抜ける。

自分が一歩ずつ華やかな世界の階段を登っているのだと、そう信じて疑いもせずに、彼女は、良い気分になっていった。

第3章 深夜のSOS
時計の針が、午前二時を回ろうとしている。

譲司は、自室の机に向かい、レポートの資料と格闘していたが、一向に筆は進まなかった。頭の片隅には、いつもあの夜見た六本木の光景と、マヤの張り付いたような笑顔が居座り続けている。

その時、静まり返った部屋にスマホの振動音が低く響いた。画面を見ると、そこには数週間途絶えていた「マヤ」の名が表示されている。

鼓動が高鳴る。すぐに通話ボタンを押し、耳に当てた。

「…マヤ?どうしたんだ?」

『…譲司…?』

スピーカー越しに聞こえてきたのは、いつもの強がりな声ではなかった。震え、今にも途切れそうな、掠れた声だった。

背景からは、激しいクラブ・ミュージックの重低音と、酔客の怒号のような騒めきが漏れ聞こえてくる。

「どこにいる? 何があったんだ!?」

『たすけ…て…。西麻布の…ビルの…』

「西麻布のどこだ? クミ!」

『鬼元さんが…スア先輩がいなくなっちゃって…部屋から出してもらえなくて…トイレに…っ』

マヤの短い悲鳴と同時に、ガタンという鈍い音が響き、通話が唐突に途切れた。

何度かけ直しても

「電波の届かない場所にあるか…」

という機械的なアナウンスが流れるだけだ。

「クソッ…!」

譲司は、上着を掴むと、靴もまともに履かないまま部屋を飛び出した。

通りへ駆け出し、運良く拾えたタクシーに飛び乗り

「西麻布交差点まで大至急!」

と叫ぶ。

車窓を流れる街灯の光が、焦燥感をいや増していく。

接待パーティー。

鬼元という男。

そして、美香の不在。

マヤが「甘い罠」の真の姿に直面していることは明白だった。

華やかな世界の裏側に潜む毒が、とうとう彼女を呑み込もうとしている。

(間に合ってくれ…!)

拳を強く握りしめる譲司の手には、じんわりと嫌な汗が滲んでいた。

雨上がりの東京の夜を、譲司は、タクシーを重低音を響かせて六本木方面へと飛ばした。

第4章 雨の六本木交差点
深夜の西麻布交差点でタクシーを降りた譲司は、土砂降りの雨の中をがむしゃらに走り回っていた。

「西麻布のビルの…」

マヤの途切れた言葉だけを頼りに、雑居ビルの看板を片っ端から確かめていく。

冷たい雨が容赦なく服を濡らし、視界を奪う。

スマートフォンの画面は雨粒で濡れ、何度かけ直してもクミには繋がらない。焦りと恐怖で、鼓動が早鐘のように鳴り響いていた。

路地裏の雑居ビルの前を通りかかった時、重い防音扉が開き、数人の男たちの下品な笑い声が漏れ聞こえた。

「おいおい、あの女。本気で逃げるつもりかよ!」

「鬼元さんを怒らせたら、この街で生きていけないって、スアも教えてやればよかったのにな!」

譲司は、弾かれたように足を止め、ビルの中に飛び込んだ。

薄暗い階段を駆け上がると、二階の廊下で男たちに腕を掴まれ、必死に抵抗しているマヤの姿があった。

ドレスは、乱れ、髪はボサボサになり、顔は、涙と恐怖でぐしゃぐしゃだった。

「やめて…!離してください!」

「マヤ!」

譲司の叫び声に、男たちが一斉に振り返る。

「あ? なんだお前は?」

譲司は、男の手を力任せに振り払い、マヤの腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。

マヤは、怯えた瞳で譲司を見上げると、縋りつくようにその服の袖を強く握りしめた。

「譲司…!来てくれたの…っ!」

「行くぞ!」

男たちが制止の声を上げる間もなく、譲司は、マヤの手を引いて階段を駆け下りた。ビルの外へ飛び出すと、激しい雨が容赦なく二人の全身を叩きつける。

「待てよ、ガキが!!!」

背後から追いかけてくる男たちの足を振り切るように、二人は雨の六本木交差点を目指して必死に走り続けた。濡れたアスファルトにネオンの光が滲み、歪んで映る。

六本木交差点の歩道橋の下に辿り着いた時、ようやく追っ手の気配は消えていた。

雨音だけが激しく響く高架下で、二人は肩を上下させながら息を整えた。マヤは、その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込み、激しい悪寒と恐怖で身体を丸めて震えていた。

「マヤ、大丈夫か?!」

譲司が自分の濡れた上着を脱いで彼女の肩にかけると、マヤは、顔を覆い、子供のように声を上げて泣き出した。

「ごめんなさい…ごめんなさい、譲司…っ。私、バカだった…」

冷たい雨が降る六本木の交差点で、二人は、ただ、打ちのめされた現実の重さに耐えていた。

第5章 破られた約束
雨は上がり、濡れた六本木の街並みに朝焼けの薄紫色の光が差し始めている。

高架下のベンチで、マヤは、譲司の上着に包まれながら、静かに事の顛末を語り始めた。震える声で明かされた現実は、譲司が危惧していた以上のものだった。

「最初は…本当に綺麗な仕事だけだと思ってたの。でも昨日のパーティーで、急にお酒をたくさん飲まされて…スア先輩は、『ちょっとお手洗い』って席を立ったきり、戻ってこなくて」

マヤは、膝を抱え、唇を噛みしめた。

「鬼元さんに『君の契約書には、こういう接待も業務に含まれるって書いてあるよ』って言われて…逃げようとしたら、部屋の鍵を閉められて。スア先輩に電話しても『上手に立ち回りなさい』って切られちゃって…」

「そんなの、契約でも何でもない。ただの脅しだ」

譲司の低い声には、怒りとやり場のない悔しさが滲んでいた。

マヤが甘い言葉に踊らされていたのは事実だが、社会の仕組みを知らない学生の弱みにつけ込み、食い物にした大人たちのやり口はあまりにも悪質だった。

「私…楽しかったの。チヤホヤされて、高価なプレゼントをもらって、特別な人間になれた気がして。譲司が『危険だ』って警告してくれたのに、バカみたいに反発して…」

ボロボロとこぼれ落ちる大粒の涙が、マヤの頬を濡らす。

「ごめんなさい…譲司の言った通りだった。『何かあったらすぐ言え』って約束してくれたのに、私、自分からその約束を破っちゃった…」

「もういい、マヤ。俺は、君を責めに来たんじゃない」

譲司は、静かに首を振り、泣きじゃくる彼女の肩をしっかりと抱きしめた。

「無事でよかった。本当に…無事でよかった」

譲司の腕の温もりに触れ、マヤは、再び声を上げて泣いた。夢見た「光」の正体は、彼女のささやかな日常を呑み込もうとする悪夢でしかなかった。

しかし、二人はまだ知らなかった。鬼元やスアのような人間たちが、一度狙いを定めた獲物をそう簡単に手放すはずがないということを。

朝露に濡れる六本木の摩天楼が、冷ややかに二人を見下ろしていた。

To be continued.

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※良いね!をいただけた作品のみ連載を続けます…莫大な時間をかけて作った作品です。良いね!をいただけるとありがたいです。
よろしくお願い申し上げます🙇‍♂️。

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